水本爽涼 歳時記

日本の四季を織り交ぜて描くエッセイ、詩、作詞、創作台本、シナリオ、小説などの小部屋です。

コメディー連載小説 里山家横の公園にいた捨て猫 ④<35>

2015年05月18日 00時00分00秒 | #小説

『あの…どちらさまでしょうか?』
 小次郎は万一を考え、敬語で話しかけた。
『俺か…俺は俺よ。それにしても、俺を知らないやつがいるとは、俺もまだまだだな、フフフ…』
 海老熊(えびくま)はニヒルに笑い、嘯(うそぶ)いた。
『いえ、そんなことは…。お姿が見えないんで』
『ああ、そうだったな、今は夜だった。俺も焼きが回ったぜ、フフフ…』
 海老熊は、またニヒルに笑った。小次郎は昨日(きのう)、里山に出してもらった辞書に載(の)っていた[君子、危うきに近寄らず]という格言を、ふと思い出した。
『僕、今日は先を急ぎますので…』
『おお、そうかい。引きとめて悪かったな、いずれまた、会おうぜ』
『はい…では!』
 小次郎は早足で公園前から歩き去った。本当は早足で逃げたかったが、それは返って危険に思えた。 
 その頃、里山家では里山が小次郎の帰りが遅いのを心配していた。
「小次郎の帰りが遅いじゃないか…」
「そのうち、帰ってくるわよ…」
 沙希代は攣(つれ)れなくそう返した。
フォトチャンネル作成「車に…。そんなことはないか。ここはバイクぐらいの道だからな」
 里山は沙希代に聞こえないほどの小声で独(ひと)りごちた。まるでタイミングを合わせたかのように、そのとき小次郎がスクッ! と姿を見せた。


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