水本爽涼 歳時記

日本の四季を織り交ぜて描くエッセイ、詩、作詞、創作台本、シナリオ、小説などの小部屋です。

コメディー連載小説 里山家横の公園にいた捨て猫 ④<41>

2015年05月24日 00時00分00秒 | #小説

『ごち、になります…』
 小次郎は知らず知らず舌 舐(な)めずりしていた。
「いや、なに…」
 稼(かせ)ぎ頭(がしら)の小次郎が蒲焼のみで、自分は鰻(うなぎ)のフルコースを堪能(たんのう)してきたのだから、軽く流すしかない。本来なら、里山夫婦の方がオコポレ頂戴で蒲焼なのだ。要は真逆だった。里山は黙っていたが、小次郎はその辺りのことはお見通しだった。里山は小次郎の頭のよさを、ついうっかりしていた。だが、小次郎はそんなことは少しも気にしていなかった。里山の家横の公園に捨てられていた我が身なのだ。家族になれただけで有り難かったのである。しかも今は、世界に名を馳(は)せる有名猫になれたのだから幸せを喜ばねばならない…と終始、小次郎は思っていた。ただ、マスコミに騒がれて以来の最近の多忙さには些(いささ)か辟易(へきえき)していた。
 里山家での家族生活はさりながら、小次郎としては、自分の家族生活も考えねばならない。小鳩(おばと)婦人のみぃ~ちゃんと晴れて所帯を持てたとしても、実情としては平安時代の通い婚になることは否(いな)めなかった。そこが人間と違うところで、飼い主あっての小次郎であり、みぃ~ちゃんなのだ。小鳩婦人や里山の理解なしには二匹の生活は有り得なかった。それに加えて、タコや海老熊といった他猫の脅威(きょうい)も拭(ぬぐ)いきれない。加えて仕事もあるから、小次郎の前途は多事多難だった。そんな雑念を思いながら、小次郎は美味(うま)い蒲焼を口にした。


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