水本爽涼 歳時記

日本の四季を織り交ぜて描くエッセイ、詩、作詞、創作台本、シナリオ、小説などの小部屋です。

コメディー連載小説 里山家横の公園にいた捨て猫 ④<26>

2015年05月09日 00時00分00秒 | #小説

 こうして、その日から小鳩(おばと)婦人邸へ日参する形で若いツボ巡査の巡回が始まった。若いから疲れることもなく、ツボ巡査は交番との間を二往復はした。午前と午後の二回で、付近での見張り時間がほぼ3時間というのだから、根気がいる。だが、そこはそれ、ツボ巡査は将来、刑事を目指していたから、若さとファイトで続けた。雨の日はさすがに昼からの一度きりだったが、それでも欠かすことはなかった。
 その日も朝から小雨が降っていた。
『ツボ君、今日は昼からでいいぞ…』『はい、そうさせてもらいます』
『どういう訳かタコは最近、現れないようだね』
『はあ、そうですね』
 昼過ぎになり、ツボ巡査は巡回の準備を始めた。空からは、まだポツリポツリと雨水(あまみず)が落ちていた。
『まだ雨寄ってるな。一応、被(かぶ)ってった方がいいぞ…』
 傘の代わりは近所の畑で仕込んだサトイモの葉である。それを頭に乗せ、サーカスもどきに落とさないようにバランスを保ちながら歩くのである。どうしてどうして、雨の日の巡回は、なかなか大変だった。ツボ巡査は頭にサトイモの葉を乗せ、頭を振りながら均衡を上手い具合に取り、歩き始めた。サトイモの葉は小ぶりのものである。大きい葉だと、スッポリと身体は包めるが、逆に歩き辛(づら)いのだ。老いて定年近いぺチ巡査は、滅多に巡回へ出なくなっていた。安否が気遣(きづか)われるからだった。


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