日々の感じた事をつづる
永人のひとごころ
こころの除染という虚構98
こころの除染という虚構
98
検査1回目は「先行検査」と呼ばれ平成26年(2014年)3月までに行われ、続いて検査2回目の「本格検査」に移行する。
これは、平成26年4月から28年3月までだ。その後20歳を超えるまでは2年ごと、25歳、30歳の5歳ごとに実施され、長期にわたり見守るという方針が出されている。健太や詩織が小学校で検査を受けたのはこの年の1月26日、伊達市は『先行検査』の対象区域だった。
先に椎名敦子のところでもふれたが、検査結果はA判定、B判定、C判定に分かれ、
Aは、
(A1)という結節や嚢胞を認めなかったもの。
(A2)という5・0ミリ以下の結節や20・0ミリ以下の嚢胞を認めたものに分かれる。
Bは、5・1ミリ以上の結節や20・1ミリ以上の嚢胞を認めたもの。
Cは、甲状腺の状態から判断して直ちに2次検査を要するものとなる。
真理は言う
「私この頃ってあまり考えてなくて、これ見て大丈夫なのかなって思っていた。二次検査の必要がないから大丈夫なんだって。だって、“あの”県立医大で検査してくれてるんだし」真理が「あの」というように、福島県民にとって県立医大は揺るがぬ信頼を誇る最高の医療機関だった(原発事故以来、信頼は落ちる一方だが)。
真理の近所に住む水田奈津の反応は全く違う。
「娘のひかりだけがA2で本当にショックでした。
だけどこの通知だけでは何もわからないし、とにかく不安だったのでわたし医大に電話したんです」
通知に書いてあった問い合わせ番号にかけ、こちらの名前を言うと、折り返し電話がかかってきた。相手が医師なのかどうかわからない。
その男性は電話ではっきりと言った
「嚢胞が数個あって一番大きいものは3・8ミリ。心配ないですよ。嚢胞は水みたいなのが入っているだけですから」
奈津は納得できない。
『私は心配です。再検査をしないのですか?通常の健康診断なら、異常が出れば、すぐに再検査するものですよね』
「大丈夫ですから再検査はしません」
『じゃあ、自費で再検査をさせたいので医療機関を紹介してください』
「それはできません」
『ではどうしたらいいのですか?』
「かかりつけのお医者さんに相談してみてください」
『わかりました、では娘のデータを渡してください』
「それはできません」
これ以上は平行線、らちが明かないので電話を切ったが奈津の胸にはどうにも割り切れないもやもやしたものが残った。 続く
こころの除染という虚構97
こころの除染という虚構
97
1・ハチの巣状
川崎真理が自宅の放射線量を測定したのは、2011年秋のことだった。
「検診先の人から、市役所で貸してくれると聞いてすぐ借りに行って一人で測りました。家の設計図をコピーしてそこに線量を書き込んでいって」
几帳面な文字で細かく、自宅内外のポイントに線量が書き込まれている。
「特に子供が通る場所を把握しておかないと、と思いました。1階の方が2階より下がるんです。1階の居間が0・34、2階の床が0・4、2階の天井近くのカーテンレール上に置くと0・86。
みんな2階の高いところで寝ていた。一番低かったのは玄関、だからあそこで生活するのが一番いい」
川崎家は屋根も外壁も直線的なつくりの家だ。周囲は田んぼで遮るものは何もなく、360度視界が開けている。大きく窓が切られているのも特徴で、それゆえ窓の近くは線量が高い。ただ、この時点で、真理に危機感はほとんどない。広報の市長メッセージの言葉を信じていた。
「あまり伊達市に疑問を持つこともなく、ガラスバッジも他に先駆けてやってくれたし、ちゃんとやってくれてるんだって」
無防備に行政を信じていた真理に変化が起きるのは平成24年3月30日付の福島県と福島県立医科大学連名の通知が届いてからだ。それが健太と詩織の名前が記された、「甲状腺検査の結果についてのお知らせ」だ。
今回の甲状腺超音波検査の結果について、慎重に診断を行い、次の通り判定いたしましたのでお知らせいたします。なお、次回の検査は平成26年度以降に実施いたします。今回異常が見られなかった方も受診されることをお勧めします。
今後も県民の皆様の健康を見守るため、甲状腺検査に継続して取り組んでまいりますので、ご理解とご協力をよろしくお願い申し上げます。
「(A2)小さな結節(しこり)や嚢胞(液体が入っている袋のようなもの)がありますが、二次検査の必要はありません」
たった、これだけだった。
健太も詩織もどちらも「A2」。
福島県は、平成23年3月11日時点でおおむね18歳以下の全県民を対象に平成23年10月から甲状腺エコー検査を実施した。続く