goo

kこころの除染という虚構102

こころの除染という虚構

102

横で画像を見ながら、真理は思う。

「医大の電話でふく数あるといったけど、複数どころじゃないだろう。こんなにあるじゃない。あの電話ではせいぜい嚢胞があっても、二つか三つかって思っていた。この画像のデータ、電話口の医者は見ていたわけでしょ。それでよくも『大丈夫ですよ』ってあっけらかんと言えたものだ」

 

結局子どものことなんかどうでもいいと思っている。真理の心に怒りがこみ上げる。詩織は冷たいジェルをのどに塗られ、機械をぐにゅぐにゅ動かされ、じっと天井を見上げている。詩織も医者の言葉を聞いていた。この時、小学5年生。自分に何が起きているかわからないはずはない。真理も呆然と画面を見続ける。

 

「ああ、詩織・・・こんなにある。あああー。複数どころじゃないじゃないかあー!そもそも甲状腺の嚢胞ってどういうものか、あんな紙一枚じゃ、想像もつかないよ。こうやってじかに見ないと何もわからない」

医者は淡々と操作を続ける。

「でも大丈夫だよ。こういう人も、良くいるんだよ」

ところが翌週に血液検査の結果を知らされ真理は絶望の淵に追い落とされる。

 

問題となったのは、「サイログロブリン」の値だった。基準値範囲は0・0~30・0。

それが詩織は、166・1

サイログロブリン 聞いたこともない名前だ「甲状腺ホルモンの前駆物質」で「甲状腺疾患において有用な検査の一つ」、「さらに

は甲状腺分化がんで高値を示すため、腫瘍マーカーとしての役割」とも言われるもの。

 

医師の言葉がどこか遠くから聞こえてくる。これが果たして現実なのか、わが子に起きていることなのか。真理には何もわからない。ドクンドクンと動悸が激しくなっていく。

 

検査結果を見た医師にとってもこの数値は、予想を超えるものだった。

「なんだ、この数字は!イヤー・・・高いね、高すぎる。子どもでこんなにあるのか」真理の動悸は激しさを増す。『高すぎ』ってどういうこと?高すぎる、高すぎる・・・

ぐるぐると同じ言葉が駆け巡る。

「大人で、甲状腺の病気の人はもっと高い数値になるんだけれど、だけど。子どもにしてはありすぎだな」

医師の前に座る詩織がどんな表情でその言葉を聞いているのか、真理には確かめることはできなかった。

 

詩織は自分に重大なことが起こっていることはわかっている。わかっているだけに忍びなかった。

余りにもかわいそうで、かがんでその顔を見つめることはできない。

娘の肩に置く両手に力が入る。

医師は冷静に説明を続ける。

 

「嚢胞がしこりになるわけではないんですよ。嚢胞と嚢胞が押されてその隙間がしこりになる。しこりは腫瘍だけど、悪性か、良性かは別の問題。

詩織ちゃんの場合、見た限りではしこりではないし、ただし嚢胞があるほどリスクがあるので、毎月1回、経過を観察することにしましょう。血液検査は」冬休みとか、大きい休みの時でいいから」

 

さらに、医師は目の前の詩織にこう言った。

「とにかく海藻を食べるように、昆布じゃなくて、わかめとか、のりとか」

その日から詩織はものすごい勢いで海藻を食べだした。味付けのりをバリバリかじり、今まで避けていたみそ汁のわかめも恐るべき量を次々と口に入れる。 続く

コメント ( 0 ) | Trackback ( 0 )