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読書録 #22 — 劇画バカたち!!、ほか

2020-12-09 18:00:08 | 読書
島田眞路・荒神裕之/コロナ禍で暴かれた日本医療の盲点/平凡社新書2020
コロナ禍は長期化し、医療・介護関係者は疲弊。旭川や大阪では医療崩壊が現実のものに。一貫してリスク軽視し、有名人などを使って「コロナはただの風邪・経済回せ」のプロパガンダを流し、対策を自治体に丸投げしてきた霞ヶ関・自民党政権の罪は巨大である。私はずっと前から石原慎太郎・橋下徹はゴキブリだと警鐘を鳴らしてきたが、本書の島田氏は口先だけでなく地方の医療と学問のため財務省・厚労省・文科省の縦割りと省益優先・地方切り捨てに異を唱え戦ってきた信念の人。しかし「全員コロナにかかればいい(3月の橋下の発言)」増殖を止めるどころか世間とスマホ(バカホ)に縛られた国民を養分としてますますのさばっているつらい現状—。


PEYO/ボーミーツマリア/プランタン出版2018
街で若い女が50代の私に査定の視線を向けてくる。わーくには人間関係と利害関係が不可分に連なった「世間」の人治によって成り立ち、若い世代はさらにスマホ(バカホ)やスクールカーストや就活、常に他人の動向・言動をキョロキョロ気にかけるセルフ監視社会を生きねばならない。「こんなジジイよりわたしの方が東京にふさわしい」と自分を査定している方が多そう。メガヒット漫画「生殺与奪の権」もその表れ。本書ものっけから「オンナを守ってこそヒーローだよな!」とかで息苦しい。ジェンダー問題をえぐったBLとして高い画力とともに評判を呼び、別名義での少年マガジン連載につなげたが23歳で急死。男向け・女向け・ジャンルやテーマ性で名義を変えたり検索除けをしなければならない現状こそ日本人の視野狭窄と文化の貧困化の証明。


永井荷風/つゆのあとさき・踊子/新潮文庫1969・原著1931-44
40過ぎの私娼「お千代」とその怠惰なヒモ「重吉」の退廃的な暮らしを描く昭和9(1934)年の「ひかげの花」が目的。この2人には実際のモデルがいたようだ。重吉は昭和初期の恐慌で勤務先がつぶれ、女好きのする性質を活かしヒモ稼業も慣れたもの。目を付けたお千代が自ら私娼となって稼ぐよう誘導さえして腐れ縁を続けている。物語の最後にはお千代が捨てた娘もまた私娼となっていたことが分り、その境遇を運命と甘受している様子の手紙から、荷風が女には複数の男に抱かれながらその日暮らしをするしかないタイプがいてそれもそう悪いことではないという社会不信・ニヒリズムの考えを持っていたことが分る。


松本正彦/劇画バカたち!!/青林工藝舎2009・原連載1979-84
世界的に評価を受けた辰巳ヨシヒロ氏の『劇画漂流』、同じ時代をやや若い佐藤まさあき氏が文章で描いた『劇画の星をめざして』に続き手に取った、劇画ムーブメントの中心人物の一人である松本氏が当時を描く本書。辰巳氏の実兄・桜井晶一氏によれば松本氏こそ最も早く手塚治虫の影響から脱して新たな作風の確立に取り組んだ人物だという。確かにロマンに走る辰巳氏、自己愛の強い佐藤氏に比べ、松本氏は素朴な絵柄のため現在の劇画イメージから遠いものの弱い立場の人に寄り添おうとする視点があり、人間が生きるリアルな迫力を感じさせるのである。未完に終っているが大傑作。漫画の中の漫画。桜井氏の『ぼくは劇画の仕掛人だった』も入手(これは文章)。楽しみだ。


山本直樹/田舎/太田出版2020
ジャズ自我の男。演奏力(画力)に溺れダラダラして締まりがない。いまの世は学校・就職やスマホ(バカホ)を通して子どもの商品化が進行しているがそうした現実を糊塗するためにも子どもの性の商品化は創作でも厳しく制限され、山本の漫画がそれらに一石を投じるような思想を有しているとはとうていいえない。時代に追い越された悲しいアート漫画家。


ハル吉/現代音楽ディスクガイド350/峠の地蔵出版2014
副題「旋律と律動」と付いていて、和声を入れなかったのはアジア系の作曲家には和声がないのに素晴らしい曲が多いからとのこと。独りよがりで難解とされるジャンルであるが「煙が出てんじゃないかと思うほど擦りまくっている。高速でメロディを弾きながら、隙を突いて和音を入れてくるテクニックがすごい」「手数はかなり多いのだが、ディレイ効果と録音が古いせいで、ゆる~い人力ミニマルテクノかアンビエントのようにも聞こえ、うっかりすると寝る」といった具合に分りやすく紹介。しかしアルバム単位であるため試聴や検索のしづらさ、既に入手困難になっているものが少なくないなど、音楽の情報を出版物から得る時代の終焉も感じさせる。


清田浩司/塀の中の事情 刑務所で何が起きているか/平凡社新書2020
テレ朝の報道局デスクである著者はオウム事件などで警察や裁判の取材を重ねるうち刑務所の実情に関心を持ち、全国のさまざまな刑務所=罪の重い長期囚を収容するLB級刑務所・女子刑務所・医療刑務所・工業技術者を育てる塀のない刑務所など=を取材し、本書にまとめた。高齢化や貧困や薬物依存、三食・寝床があるということで更生を果たせず罪を重ねて戻ってきてしまう者、受刑者同士の老老介護、また食事や作業や仮出所の仕組みなど刑務所がどのように営まれているか、多岐にわたる内容が整理され、まさに現代社会の縮図として刑務所があることを啓蒙してくれる好著。 


マシンガンズ滝沢秀一/やっぱり、このゴミは収集できません/白夜書房2020
必要不可欠な仕事だが見えにくい仕事に追いやられているゴミ清掃。これを分りやすくみえるよう啓蒙する芸人滝沢氏。この道でいくんだという覚悟と自信が前著より伝わる。ギニア出身の同僚「ナンデ、ニホンジンハ、ステルモノヲ、カウノ?」。滝沢氏は絶句したというが、私が思うにゴミ(たとえばCDやグッズ)を売りつける、ゴミを買い取って転売する、最終的に処分する、すべての段階で法人税や消費税を取ることができ、見かけのGDPを膨らますことができる。世界3位の経済大国は幻想のハリボテだということを隠すためゴミ問題の実情は見えにくくされているのだ。


香山哲/ベルリンうわの空/イーストプレス2020
電車などで見かける脱毛の広告。有吉やみちょぱは陰部脱毛してるんだって。増毛の広告もあるよね。銀行カードローンの広告。すべて広告代理店が仲介。コロナをばら撒く政府のGoTo・IT化の補助金・アホノマスク・すべて業者を介す形。マイナンバーは有名無実。国民を直接管理する能力がないのだろう、電通パソナはじめ無責任な大きな政府がのさばる。おそらく広告が多い社会はゴミや無駄が多く、人をモノ扱いする冷たい社会。脱毛の広告が目に入ってくるような日本がイヤで独ベルリンに移住し、当地での暮らしぶりを描く著者の視点・筆致は信用できるものの日本を覆う黒雲から逃れる助けにはならない。


ジャン・ボードリヤール/消費社会の神話と構造/紀伊國屋書店1995・原著1970
「わーくにの一人当りゴミ排出量は断トツ世界一。ゴミみたいな同じCDを何枚も買わせる商売と、その結果のゴミ屋敷を清掃してCDを処分する商売はどちらも同じGDPにカウントされる」「女は政治的経済的に男より低い従属的な地位に置かれ、それを埋め合わせるため衣服や化粧品や観劇やお稽古事、自己愛的で(自分が産めない)物質的な富の消費に走る。男でも会社の勤め人などは集団への服従という女が置かれた状態との相似から、ホモソーシャルへの過度の傾倒、飲む・打つ・買うのような消費依存に陥ってしまう」といった私の近年の認識を1970年の時点で先取りしていた警世の書。



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