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自分なりの記録

サムライと愚か者 -オリンパス事件の全貌-

2018-05-29 21:20:39 | 映画(映画館)
@シアターイメージフォーラム/監督:山本兵衛/2015年ドイツ・フランス・イギリス・日本・デンマーク・スウェーデン

2011年、雑誌FACTAのスクープと英国人社長マイケル・ウッドフォード氏の不当解任により明るみに出たオリンパス損失隠し事件。創業100年近い歴史を持つ日本有数の大企業であり、内視鏡など医療機器では世界トップシェアを握るオリンパスで何が起きたのか? 英国SFO(重大不正捜査局)や米FBI(連邦捜査局)を巻き込み大々的に報じられ、わが国の社会の隠蔽体質だけでなく、ジャーナリズムのあり方までも浮き彫りにした事件の内幕に迫るドキュメンタリーが本作。

山口義正「この事件によって海外では『一人ひとりは優しくて優秀だが、集団になると腐敗して暴走を始める』という日本人観が培われた。7年前、私が告発したのはオリンパスではなく、日本人と日本社会だった。オリンパスは日本社会そのものだったのだ




異端であり敗残者。私が長期入院・休職を挟んで20年のあいだ籍を置いたNTT。ゆるい労働のホワイト企業です。でもそれは、NEC・富士通などの電電ファミリーや、多岐にわたる下請け・子会社・関連会社を傘下に持つ殿様企業であってこそ。巨大な組織で、総務系・営業系みたいな「背番号」があったり転勤・出向も多く、研究職などはよく分らないが仕事ができるかどうかは組織内の世渡り・対人能力でほぼ決まる。協調性ってやつです。これに乏しく、ほか取り立てて美点もない私は、そんなゆるい会社でもまっとうできなかった。

まっとうするとしても、後半はしんどいばかりでしょう。辞めてよかった。悔いない。同僚は下積みの仕事を黙々とこなして家族を養う善良な人が多いです。精神的にタフで生活力がある。でも尊敬できる人は誰一人いない。とくに印刷会社に出向していた2年間、直の上司や経営陣はN社からの出向・天下りで占められており、だいたいろくでもない。

組織が大きくなるとタテ割りで官僚化し、出世するのは世間知に長けた調整型の政治家タイプが多くなる。保身が第一で、内向きな縁故主義が経営をも左右する。東芝や日立の原発。N社でいうとガラケーに固執しスマホ市場で日本メーカーを完敗させたこと。




日本の場合、極端にいえば、リーダーは集団の一部にすぎない。そのために、リーダーにとっては、集団を自己のプランに応じて動かす自由が非常に制約されている。いっぽう、集団がリーダー一人に責任を負わせ、時によっては、彼を冷たく切り捨てるといったような危険性もない。 —(中根千枝『タテ社会の人間関係』講談社現代新書1967)


1985年のプラザ合意に端を発する円高ドル安により、輸出メーカーは収益が激減。この痛手を埋めようと株・債権・不動産・企業買収などの財テクに走る。バブル経済により、メーカーだけでなく、あらゆる企業や個人も投資に狂奔。オリンパスの財テクも80年代から行われ、野村證券関係者などの指南により「飛ばし=損失を海外子会社などに付け替えて隠す」も初期から行われていた様子。

損失隠しは代々の役員に引き継がれたが、欧州のオリンパスで成り上がったノンキャリアのウッドフォード社長には伝えられず、彼が追求しようとすると解任されてしまった。このような内向きな縁故主義はわが国のいたるところにみられる。隠蔽と先送り。投資をそそのかす側からすると、この風土は次から次と好餌を供給してくれる便利な存在だ。

たとえば銀行にとって「属性が高いサラリーマン」とは、年収と貯金が一千万超ということではなく、年収400~600万で無貯金でもとにかく大企業勤務か公務員であることだという。そういう人たちは、世間体を気にする見栄っ張りなので、自己破産で持ち家を手放したりクレジットカードが作れなくなることを恐れ、融資を受けての投資が大赤字でも必死に本業の給料から銀行へ返済してくれるから

お金と立場の呪縛。「特別なあなたにお教えします」で何度でもだまされる。失われた20年の掉尾を飾るアホノミクスの大バクチがいま破滅の扉を—
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