マガジンひとり

自分なりの記録

【族】─社会党と自民党を貫く、ある逸話

2010-07-13 22:56:12 | 亡国クロニクル
【責任を棚上げする代表者たち】
(「外国人研修・技能実習制度」に基づいて研修生を受け入れるために設立された)協同組合の代表者は、主に、その業界の出身者が多い。たとえば縫製業界であれば、長きにわたって研修生を雇用してきた経営者が、研修ビジネスのシステムを覚えていくなかで、自ら「派遣する側」へと転進するケースだ。もちろん、異業種から転進して協同組合の設立に関わる者も少なくない。外事関係の警察官、暴力団関係者といった経歴を持つ者もいる。
ただし、私がもっとも許せないと思うのは、劣悪な労働条件を強いている協同組合の代表が、労働組合出身者であるといったケースだ。
岐阜県のある大手の協同組合は、元社会党代議士で、一時期は地元労働組合の委員長も務めた人物が理事長に収まっている。この協同組合の傘下企業では、過去に何度も労働基準法違反の事例が明らかとなっている。しかし労働運動出身の理事長は「企業が勝手にやったこと」だと自らの責任を棚上げし、しかも「協同組合は中小・零細企業を守るために存在するのだ」と、研修生保護の姿勢を見せなかった。
この理事長が、若い頃の軍隊経験をもとに反戦活動家となり、かつては未組織労働者のために奔走したこともあるといった経歴に、私は敬意を抱いている。しかし労働者を守るために半生を労働運動に費やした人間が、なぜに「時給300円の労働者」を放置してきたのか。現在の彼の“立ち位置”が、私にはまったく理解できない。
労働運動出身者といえば、日本有数の研修生受け入れ機関である日中技能者交流センターの元会長で、現在は顧問を務める槙枝元文を挙げなくてはならない。“ミスター日教組”とも呼ばれ、80年代には総評議長をも経験した、あの槙枝である。
槙枝が創設し、現在も役員のほとんどが労組関係者で占められる同センターは、「団体監理型」の草分けともいえる存在で、これまで1万人近くもの研修生を中国から受け入れてきた。しかしご多分に漏れず、これまでにも最低賃金法違反、長時間労働、強制帰国など、加盟企業で多くの問題が発生している。
研修生の支援団体である「外国人研修生権利ネットワーク」(本部・東京)では同センターに対し、「日本の労働運動のリーダーたちによって設立された団体で、労働権の侵害が起きている現状を看過するわけにはいかない」という要請書を提出したこともあるほどだ。
私は、あるパーティの席上で槙枝に遭遇し、研修生問題について問い質したことがある。しかし槙枝は「そういう話、よく知らないんですよ。何も問題がないとは言わないが、今後も制度は続けていかないと」と、まるで他人事のような物言いを返しただけだった。

【露骨なピンハネ】
協同組合のなかには、労働権の侵害どころか、泥棒まがいの悪事に手を染めるところもある。
「ピンハネしたカネを返せ」─。
元実習生の中国人男性(26)が、実習生受け入れ機関に賃金の一部を着服されたとして、東京地裁に提訴したのは09年5月7日のことだ。訴えられたのは、「日中経済産業協同組合」(東京都渋谷区)の小渕成康代表理事。故小渕恵三元首相の甥(元首相の兄の長男)で、自民党代議士・小渕優子のいとこにもあたる人物だ。
訴状などによると、男性は2004年11月に来日。同組合に加盟する金属加工会社(群馬県桐生市)で、当初は研修生として働いた。男性は来日前、研修期間中は月額5万円の手当てが支給されるとの説明を受けていたが、実際に支給されたのは約3万円に過ぎなかった。さらに来日2年目からは労働法が適用される技能実習生となったが、毎月11万円支給されるはずの賃金も、やはり2万5千円ほどしか支給されなかった。実は、賃金の大半が同組合によってピンハネされていたのである。男性はこれら未払い分の賃金など、約215万円の支払いを求めている。
代理人の出口裕規弁護士が説明する。
「男性の銀行口座には、実習先の会社から契約通りの賃金が振り込まれていました。しかし通帳と印鑑は組合が保管しており、男性は自由に引き出すことができなかったのです。組合は毎月の賃金のなかから8万円あまりを男性に無断で着服し、残った現金を支給していました」
あまりに露骨な中間搾取ではないか。また、残業代に関しては別途支給されていたが、時給にしてわずか450円という単価であった。これも最低賃金を大きく下回る水準である。男性はこうした低賃金に耐え切れず、07年2月に職場から逃走。知人の紹介で外国人問題を手がける弁護士グループに連絡を取ったことが、今回の提訴につながった。

【サラ金ATMのような感覚】
現在、中国に帰国している男性も次のように訴える。
「労働力を金儲けの手段としたことが許せない。働いた分の賃金は、しっかり払ってほしい」
小渕代表理事は08年12月、別の実習生の賃金を着服したとして、宇都宮地裁足利支部で懲役1年、執行猶予3年の有罪判決を受けてもいる。刑事に続き、民事における責任も追求されることになるわけだ。小渕代表理事の関係者が説明する。
「小渕さんはかつて、地元で繊維工場を営んでいたが、2001年に外国人研修生の受け入れ団体トップに就任。人手不足に悩む関東各地の中小企業へ中国人を派遣し、業績をのばしてきた。全盛期には1000人近くの中国人を抱えていたはずです。事業としては相当の利益が出ていましたが、他に経営している会社の業績は芳しくなかった。着服したカネは、それらの運営資金や借入金の返済に充てられたようです」
ちなみに小渕代表理事は06年、いとこである小渕優子少子化担当大臣(当時)の資金管理団体「未来産業研究会」に、20万円の献金をしている(その後、返金された)。小渕優子は定例会見で今回の提訴について聞かれ「親類による事件を大変重く受け止めている。世間に対してお騒がせしたことをお詫びしなければならない」と陳謝した。
これほど露骨なピンハネはさすがに大問題となるが、研修生の預金を“無断借用”するくらいならば、「それほど珍しい話ではない」と話す関係者もいる。
「多くの企業や労働組合は、賃金の大半を強制的に貯金させ、印鑑と通帳を預かっているが、なかにはそれを無断で使ってしまう者もいる。事業資金として流用するばかりか、遊興費に使う者も多い。『ちゃんと返せばいいんだろう』と軽い気持ちでやっているのだが、まるで利子のつかないサラ金ATMのような感覚だ。かつては経営者が研修生の預金を、株式投資に回しているケースもあった」(東海地方の元協同組合役員)
もしも“返済”の目処が立たなくなったら間違いなく刑事事件に発展する。実に危ない綱渡りだ。



↑2007年、『報道特集』が日教組を特集した際の槙枝元文氏。「ゆとり教育」を提唱した一人だともいわれる。



↑2009年、第二子を懐妊中に、少子化対策・男女共同参画を担当する大臣として麻生内閣の閣議に出席する小渕優子氏。

光文社新書として6月に出版された『ルポ・差別と貧困の外国人労働者』(安田浩一・著)より引用しました。日系ブラジル人の出稼ぎ労働者について収めた後半は読み終えていないが、中国人の「研修生・実習生」について収めた前半だけでも、『闇金ウシジマくん』を上回る=倫理的には下回る=ひどいエピソードの連続で、恐怖に駆られた。中国側でも、「白と黒」と称される公安(警察)と黒社会(ヤクザ)が結託して、借金を負わせてガンジガラメに縛りつけて彼らを日本へ送り出すので、雇用主ともめ事を起こしたり労組・市民グループ等へ相談しようものなら強制帰国させられて、とても返せない借金だけが残ってしまうので、泣き寝入りせざるをえないことが多いのだとか。こうした問題を、「どうせ中国人のことだから」と軽視するとすれば、それはやがてわれわれ自身にもはね返ってくることは言うまでもない。
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