マガジンひとり(ご訪問ありがとうございます。年内に閉鎖を予定しています)

書肆マガジンひとりとしての小規模な同人活動を継続します。

火の鳥という作業

2008-12-29 22:21:48 | マンガ
『火の鳥・ヤマト編』手塚治虫(講談社版全集ほか)
過去と未来を往復しつつ繰り返される壮大な生命ドラマの第3作。古墳時代のヤマトの国で、国王の末っ子の王子ヤマト・オグナは父王の巨大な墓を建てる計画への反対運動にかかわっており、兄たちから疎まれて九州のクマソの王タケルを討つ旅へ出されてしまう。ヤマト政権から滅ぼされた小国なども含む倭の国の正しい歴史を記そうとするタケルの姿に心うたれたオグナは、タケルの妹カジカと恋仲になりつつあったこともあり使命を果たすべきか悩むのだが、クマソの守り神とされる火の鳥の血を飲めば不死の体になることを知り、父王の死とともに“いけにえ”として墓の周りに生き埋めにされる者たちを救うため、タケルを殺して火の鳥の血を持ち帰ろうと決意する…。



梅原猛さんが老境にあっても執念を燃やす、各地に残された古墳・史跡などから日本の国の成り立ちを推理し、神話・伝承にもかすかに含まれた歴史的真実の部分を探す仕事。それによると、古事記・日本書紀に出てくるオオクニヌシというのが出雲系の王朝の名残りで、ニニギというのがそれを征服して現在まで連なる王朝を打ち立てた大陸系騎馬民族のように推察されるのだとか。『火の鳥・黎明編』にも出てくる。そこでいったんはニニギたちの軍団に滅ぼされたかに思われたクマソの国の血統が生き延びており、川上タケルを国王として各地の豪族をも糾合して、ヤマト王朝などに勝手な歴史を作らせないぞ!と意気盛んになっている『ヤマト編』。フィクション色の濃いマンガ作品といえど、ここでも元になっているのは奈良県にあるぶかっこうな石舞台古墳と、古事記などで名高いヤマトタケル伝説。神話・伝説ではヤマトタケルというのは宴席で女装してクマソの王タケルを殺したとされ、天皇家の血統にもきっちり組み込まれてるものの、王位に就いたことはない。実際のところどうだったのか知るすべはないが、空想をはばたかせるのは自由。ほかの広大な古墳と比べて異色な石舞台古墳や、殉死の風習が次第にハニワで代用するように変わっていったことなどを火の鳥の生き血とからめてたいへん面白い物語に。描かれるヤマトタケル像もまた風変わりで、父王の権威主義にことごとく反抗し、クマソの王の妹カジカとはロミオとジュリエットよろしく悲恋で結ばれ、火の鳥を手なずけるのに音楽(墓の建設に反対する友の死をいたむ曲)を用い、最後は生き埋めにされても火の鳥の血の効果で死ぬまで力の限り殉死の風習をやめるよう声をあげ続ける。殺したタケル王から名前を譲られてヤマト・オグナ→ヤマト・タケルとなるのだが、彼とカジカは子孫を残さない。上のコマの右下にいる変な顔の王さまが現在にいたるまでの天皇家のご先祖さま。それでも彼とカジカの愛は永遠。いい話だ、火の鳥ってのは。
火の鳥の物語というのは、最初の黎明編がもっとも古代を描き、2番目の未来編が究極の未来、人類も生命もすべて滅亡して、地球上にまた新しい生命現象が繰り返し起こるまでを描く。そこですでに物語は完結してるとも言えるのであるが、それに続く、黎明編と未来編の間を埋めていく物語が意味がないどころか意味があり過ぎて困るくらいの。最近では『闇金ウシジマくん』というマンガも、体裁はまったく違えど、1巻ですでに後続の巻に出てくる話のバリエーションはあらかた提示されてると言っても過言ではない。金主、ギャンブル、性風俗、フリーター…。あらかじめ決まっている世界観。それに肉付けして骨格を補強していく作業。それは人生の後半を生きることとも似ている気がする。もはや若い時分に経験してきたことで培われた価値観・人生観はめったなことで変わるものではない。起こってくることも、今までに経験してきたことで、ああ、なるほどね、と察しのつくような。しかしそれでも生きることは面白く、人間への興味は尽きない。『火の鳥』や『闇金ウシジマくん』の後続の巻を読みたくてたまらないのと同じように。

火の鳥 (4) (手塚治虫漫画全集 (204))
手塚 治虫
講談社

このアイテムの詳細を見る



コメント (2)