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『ラット・フィンク ~ボクのビッグ・ダディ~』

2008-12-04 23:57:58 | 映画(映画館)
Tales of the Rat Fink@シアターN渋谷、ロン・マン監督(2006年カナダ)
そのままつっぱしれ、キミのカスタム人生!!
地下アメリカの怪鼠キャラ、ラット・フィンクの作者でカスタム・カルチャーを牽引したアーティスト、エド“ビッグ・ダディ”ロス(Ed Roth・1932~2001)。1950年代のアメリカ文化の資料映像と斬新なアニメーション(動くラット・フィンクが遂に!)を織り交ぜ、そのマッドな人生と作品(改造車とローブロー・アート)を紹介するアニメンタリー(アニメーション+ドキュメンタリー)映画。名画『アメリカン・グラフィティ』の登場人物の気分でホット・ロッド・カルチャーの歴史も楽しく学べる。監督は60年代のダンスブームのドキュメンタリー『Twist』等も手がけるロン・マン。
エド・ロスとは? 1950年代にアメ車を改造する天才としてダリのように現れた彼は、空中に浮く車「ローター」等、奇想天外な発想でカラフルな珍車を次々に創造。ラット・フィンクをはじめとするモンスター・キャラやオリジナルのTシャツも人気を呼んだ。その奇抜な創作に人生をかける姿は、変わり者(ウイアード)あつかいされていた全米の悩めるキッズを触発し、その後の文化の潮流にも大きく影響をおよぼすこととなった。
カスタム・カルチャーとは? カスタム・ペインティング、ピン・ストライプなどの改造車制作の技術が産んだ文化。他人の基準に縛られずに改変・創作する姿勢を持つ。旧来の美術界から低俗と考えられてきたグラフィティ、スケートボード、パンクロック、タトゥーなどの先鋭的ストリート・アートを総称してローブロー(Lowbrow)アートとも呼ぶ。



横浜の団地に住んでた、幼稚園~小学校中学年当時のオラに、運転免許を持ってない父ちゃんがたびたび買い与えたおもちゃ。英レズニー社製のマッチボックスというミニカー。少なくともあの時点、1970年代前半においては日本製のミニカー、あるいはブロックとかは、マッチボックスやレゴのような輸入品の品質に達してないパチモンでしかなかった。
そのマッチボックスのミニカーがごろごろして進みのよくなかったタイプから滑らかでスピードの出るタイプへ車輪を改良、それにつれて1番から75番まである車種の中にもまったく見慣れない妙なものが現れてきた。エンジンがむき出しになってる奇妙なスポーツカー。こんなの公道を走ってないよ。ドラグスターという名前で呼ばれてたね。
子どものオラは特段の抵抗もなくそれを受け入れはしたが、だんだん正統な感じの車種が姿を消して、ド派手でごてごてしたスポーツカーが増えていくのは、子ども心にもそれはちょっとマッチボックスの良さと違うのでは?とうすうす察してたかどうか微妙なところ。そのような動きをもたらした、マッチボックスのみならずいろんなところに表れた一大傾向の源流となった男の物語を見ることができた。
世界で唯一のものを自分の手で作り出したいインディーズ精神、あるいはマンガ等の人気キャラクターを勝手にパロディ化する同人誌を作っちゃうおふざけ精神、そんなようなもののかたまりみたいな不逞の輩エド・ロス。ロックンロール音楽なども始まって若者文化の胎動いちじるしい1950年代の米カリフォルニア州で彼の活動はスタート。ガレージにこもって塗料の匂いにくらくらしながら車の改造に熱中するとか、それでもって仲間を集めて公道レースを繰り広げるとか、中でも彼の心持ちを象徴するのがネズミのラット・フィンク。ディズニーランドにいる、あのお行儀のいいネズミに我慢ならなかった彼は、毛深くてよだれを垂らしてハエがたかってるネズミを創作。やがて、改造車やラット・フィンクなどのキャラクターはTシャツやフィギュアやプラモデルとして商品化もされ、ありとあらゆるところへ広まっていった様子。オラの持ってたマッチボックスのミニカーは、その流れの中ではわりと遅いほうだったのかも。でもシンプソンズより早いね。
そして、缶詰の広告や有名人の写真が「芸術」に変わってしまう時代、いつの間にやら保守本流のカルチャー自体が形骸化・空洞化して、サブカルチャー、ポップカルチャーにとって敵愾心を燃やすべき「正統」が存在しなくなりつつある。自動車ビッグ3ですらいよいよ歴史を閉じようかという。それに伴ない反骨心や自主独立の気概が薄まって、おふざけと商業主義に呑み込まれんとしてるのが、最近のさまざまなサブカルチャーに表れたひとつの傾向なのかもしれない。
それでもなおエド・ロスの精神は「ガレージ・キット」とか「魔改造」とかの言葉となってワンフェスで売られるフィギュアの世界にも脈々と息づく。小学校中学年のオラの前に、マッチボックスやレゴよりも魅力あるおもちゃとして登場してきたのが日本産タカラの変身サイボーグ。それらおもちゃ類は手元にはひとつも残ってないですが、カタログを残してあるのでいずれ画像をいっぱい載せたいですね。

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