無意識日記
宇多田光 word:i_
 



これから(いつになるかわからないが)アルバム発売を迎えるという意味では、まだ『大空で抱きしめて』と『Forevermore』だけでは弱いだろう。

曲の出来云々というよりは、リスナーのテンションの話と言った方がいいか。質の高さなら既にぶっちぎりであり何の議論の余地もない。どちらかというと、「興味のない人たちまで手を伸ばしたくなるにはどうすればよいか」という問題意識だ。

前作『Fantome』が予想以上に売れまくったのは、ひとえに楽曲の浸透度が従前より高まったからだ。朝の連続テレビ小説という浸透度では最高クラスのタイアップを持った『花束を君に』がその知名度と共に楽曲の美しさ自体が受け入れられたのがまずいちばん大きい。そこから、『真夏の通り雨』は勿論の事、『二時間だけのバカンス』での椎名林檎とのコラボレートなどで話題を集め、しかし最終的に効いたのは『道』のインパクトだったのではないか。

シングルカットされた訳ではないからわかりにくいが、『道』は101局パワープレイというスケールのバカでかいエアプレイを獲得していた。『ファントーム・アワー』もあったし、TVCMでも流れた。ここでこの曲が従来からのファンにも素直に受け入れられるようなシンプルなリフレインと切ないメロディーを併せ持ったアップテンポのオープニング・ナンバーだったのが、強かった。『道』で最終的にアルバム購入を決めた人も多いんじゃないかと勝手に推測する。

次のアルバムにも『道』並みにシンプルなインパクトを残す楽曲が欲しい。何ヶ月後かには、そういう曲が登場してアルバムへの花道を切り開く。そう夢想している。

引き続き天然水CMに起用された『大空で抱きしめて』は順調だが、ドラマ「ごめん、愛してる」は話題作とまではいかず、しかしそこまで視聴率は低くないという堅実な推移を示している。「タイアップとしては悪くない」のが本音だが、昨年の『花束を君に』と『真夏の通り雨』が「毎日テレビから流れてくる」という荒業を繰り出してスタートダッシュをカマした事を考えると、やはり弱い。まだまだここから追い上げないと次のアルバムは『Fantome』の売上を超えられないだろう。

恐らく、そろそろ「CDを買う層」の極端な減りは終わりを迎えるはずだ。これから増える事はなく毎年その層に死者が出た分の自然減はあるだろうが(物騒な話だなぁ)、2017年までCDを買う習慣を維持してきた人たちが今更習慣を変えるとも思えない。自然減は我々の想像以上に多く、売上の現状維持すら快挙といえるかもしれないが、ここはSONY移籍第1弾、欲張ってみればいいのではないか。

私としては、勿論ヒカルの心身の健康が第一なので本人の意に沿わない過酷なスケジュールのプロモーションをこなさなければいけないというのならどうぞ幾らでも売上が下がってくれればいい、と考えるのだが、ヒカルが乗り気ならこの限りではない。大衆音楽である以上、売れた方が今後よりやりたい事を自由にやれる筈なのだ。売上は正義ではないが一助にはなる。梶さんをはじめA&Rの皆さんがヒカルの表現活動が尚一層充実する方向に頑張ってくれるなら応援していきますよ。

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昨日DAOKOの「打上花火」のYouTube再生回数を見てみたら2000万回を超えていた。公開から3週間でこれとは何ともまぁ。映画のオフィシャルサイトを開くと自動的にこのYouTubeの再生が始まるという仕様の影響はあるにせよ、やはり注目されていないとここまでは行かないだろう。肝心の映画の評判は散々だが、主題歌に関しては大成功と言えるかもしれない。

散々、といってもそれはWebで寸評を文章でUPしている人たちの間での話。なので、毎度指摘している事だがどうしてもストーリー重視の傾向がある。文章を書ける人は文章を読む人であり、文章はストーリーが命だからだ。しかし相手は映画であって、映像や音楽の力も強い。「千と千尋の神隠し」は最大級の特大ヒット映画だが、ならストーリーは例えば「天空の城ラピュタ」のようなガッチリとしたシークエンスを組んであるかというと、そうでもない。描きたい風景を描いていくついでにストーリーも展開させたよ、という程度。広告宣伝の力もあるとはいえ、日本でいちばんウケた映画の作風がこうなのだから、映画に関していえば、少なくともWebでの評価にはややストーリー重視傾向が強いと思っておいてよさそうだ。実際に観てみないと、本当の所はわからない。

で私はこの打ち上げ花火の映画観てないんだよね。件のYouTubeのシャフトフレーバー満載動画(時々どうみてもガハラさん)を見てお腹いっぱい。良し悪しだなぁこういうの。恐らく売り出す方は昨年の「君の名は」とRADWIMPSの関係性を狙ったのだろうが、ちょっと狙い以上に曲の方が注目され過ぎている感すらある。実際に聴いてみたら本当にいい曲で「フルコーラスで聴いたら更に感動増幅する」タイプのパート、即ち"二番からダブルボーカル"とCメロとブレイクとアウトロ大サビが全部入りで入っている。執念じみた「ヒット曲渇望」を感じる。

実際大ヒットしているようで、未だにiTunes Storeチャートでは1位だ。YouTubeでフルコーラス聴けても買う層が一定数存在している。宣伝のスケールが大きければこうなるという好例だな。何か、映画を差し置いて「2017年夏の流行歌」としての地位を築きつつあるようにみえてきた。でももう今日で8月も終わりなんですが。もうちょい公開早くてもよかったかな。いや、映画観てないので、内容に即させたのかもわかりませんが。


タイアップ先との関係は重要だが、それに縛られ過ぎてもいけない。同じくiTunes Storeチャートで『Forevermore』は目下4位と健闘中である。発売1ヶ月でこの位置なのは、曲が人気なのか他の人たちとの落差が激しすぎるのか。これだけ売れてたらもっと流行歌然としていてもよいと思うが、どうにもそういう雰囲気になっていない。

思うに、ドラマにフィットし過ぎているのではないか。それ自体は素晴らしい事だが、「ごめん、愛してる」の主題歌、というイメージが強すぎて、それ以上のフィールドにまで勢いが波及しづらいのかもわからない。サビで『愛してる』って連呼しちゃうだなんて、ドラマ自体よりもドラマ名を宣伝する力が強いのだから。

本当に良し悪しだ。ドラマを見て歌を聴く分には至高なのだが、その分ドラマに縛られる。「打上花火」は映画の評判が散々なせいで、映画に引っ張られる事なく逆に曲を聴く層に広がりが出来ている。この分析が正確であるならば、皮肉なものだ。流行歌を作るのは本当に難しいわね。

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