無意識日記
宇多田光 word:i_
 



シングルを数曲発売してアルバムを売るというスタイルとサイクルは収益率が高い。総てシングルで発表してしまうと宣伝費が嵩むし、総てがアルバム曲だとどこから宣伝していいかわからない。大体の落としどころとして、アルバム発売までに3曲前後、アルバム発売後に1、2曲シングルカットというのが日本のオーソドックスなスタイルだった。今でもそんなに変わらない? 私は最早関心がないので全然知らないのだった。

ヒカルの場合、次のようになる。本来「先行シングル」というのはアルバムがほぼ完成した状態でリーダートラックとしてリリースする曲を指すのだがここでは「アルバム発売前にリリースされた曲」をこう呼ぶ。

1stアルバム:先行シングルが2枚3曲、シングルカットが1枚1曲

2ndアルバム:先行シングル4枚5曲、シングルカット…はFDとEternallyを何というべきか?

3rdアルバム:先行シングル4枚5曲、シングルカットなし

4thアルバム:先行シングル5枚5曲+配信1曲、シングルカットなし

5thアルバム:先行シングル4枚6曲(FoLは1曲換算)、シングルカット1枚1曲


…てな感じ。シングルカットは非常に少なく、そしてアルバムを出すごとに先行シングル曲の割合が増えている。HEART STATIONなんて半分(以上)がシングル曲だ。単純に、アルバムを出す毎に作品が強力になっていってる訳だが、アルバムを買った時のお買い得感は減っている。「半分はもう持ってるし」と。

ここまで来るとアルバム曲は配信で補完した、或いはレンタルで済ませたという人も結構居るのかな? よくわからないが、7年前までの話とはいえこの"流れ"からすると私が仮に言ってみている「全曲シングル発売/アルバムはシングルコレクション」というリリース形態も単なる無茶無謀とは言えなくなってくる。

ただ、勿論そんな事をしたらアルバムリリースのサイクルが長くなるのでレコード会社としては歓迎出来ないだろう。ある意味、ヒカルが働き過ぎてきたのだ。アルバム曲のクォリティーを落とし制作速度を早めればアルバムリリースの間隔が短くなり…というシナリオを拒絶して全曲全力投球して且つ"オリジナル・アルバム"としてリリースするんだからそりゃ無理が出る。それこそ無茶無謀である。

私個人はアルバム大好き人間で、それこそサングラスらドラマのような"名脇役"と華々しい主役たちとの共演をトータルで楽しみたいので、オリジナル・アルバム制作には大賛成…というか、シングル・リリース要らなくね?という反対側への極端に振れたって構わないのだ。実際、プログレの新作を買う前にシングル曲を買うなんてこたないんだし…。

どっちもいいなぁ、と思う。作品と楽曲次第だ。全曲シングルリリースして1曲ずつ愛でていくのもいいし、いきなり12曲で構成された世界に飛び込むのも魅力的だ。どちらがいいかと言われても悩んでしまう。


じゃあ、こういうのはどうだろうか。Utada Hikaruは日本語曲と英語曲の両方を作るのだから、日本語曲の方は1曲ごとにシングルをリリースしてタイアップ&プロモーションをその都度行い、曲が溜まったらシングル・コレクションとしてリリースする。一方英語曲の方はひたすら作り貯めて12曲揃ったらオリジナル・アルバム完成!リーダートラックを携えて大々的に世界中でアルバムのプロモーション…という組み合わせ。これなら、日本で活動する期間と海外で活動する期間が分けやすいんじゃあないか、とな…。


もし実現したら夢のようなサイクルの完成だけど、流石に虫がよすぎるかな…(汗)。

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先週のLRで痛感したのは、アルバム曲とシングル曲の認知度の落差である。当然と言われればそれまでだが、上位半分がシングル曲、下位がアルバム曲と綺麗に分かれていた。どれだけいい曲だろうが、まず聴いて貰えねば評価に繋がらないのだ。

以前からここでは「オリジナル・アルバムというコンセプトを排して、総ての曲をシングルとして発表、アルバムは総てシングル・コレクションとする」という案について論じてきた。私はそうすべきとも思ってないし、そうすべきでないとも思っていない。ただ、シングルを数曲発売してオリジナル・アルバムを売る、という手法は、シングル曲もアルバム曲も一切妥協しないヒカルのスタイルに対しては「割に合わない」とか「やや誠実でない」とは思う。アルバムの収益率の高さを支える為に質の高い楽曲が"使い捨て"されている事になるのだ。極端な言い方をすると、ね。

勿論EMIも何も考えていない訳ではない。宇多うたアルバムでは配信において今後の参考になるであろう"実験的な販売方法"を試していた。iTunes Storeでアルバム曲のバラ売りを半分の曲に限定していたのだ。iTSでは曲ごとに「アルバムのみ」販売の設定が可能らしい。

「アルバムのみ」とは、楽曲単位での購入は出来ず、アルバム単位で一括購入してくれた人にのみ聴けるトラックのことだが、そういうのは大抵、1トラックで10分とか20分とか「それを3分の曲と同じ250円で売るのはちょっとねぇ?」というトラックにしか適用されてこなかった。いや私がそういうのしか見たことがなかったと言った方が的確か。

宇多うたアルバムの配信販売手法は、即ち、アルバム曲の幾つかを更に"準シングル曲"として販売し、アルバム購入への敷居を低く、いや、"スロープ"にして、滑らかに購入にまで至って貰おうという算段だろう。実際、一曲々々聴きながらバラ売りを一曲々々買っていけば殆ど最後の方はお金を払わずにアルバム全体が購入できる。いやそれは今までも同じだったのだが、バラ買い出来る楽曲を売り手側で絞ってそこに集中させる事が出来るのであれば、スロープの作り方としては巧妙である。


つまり、この、「シングル曲とアルバム曲」という二極化から"準シングル曲"という新しい段階を挿入する事によってオリジナルアルバムの位置付けを見直そうという試みだ。残念ながらフィジカルではこのような手法は難しいだろうが、宇多うたの売上結果如何で、今後のヒカルのリリース形態に何らかの影響が出てくる可能性はある。そうなってくると、それこそ、歌詞閲覧回数ランキングでもシングル曲とアルバム曲の間の垣根が取り払われていくかもしれない。さぁ今後どうなるか楽しみですな。

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