ウマさ特盛り!まぜまぜごはん~おいしい日本 食紀行~

ライター&編集者&散歩の案内人・上村一真(カミムラカズマ)がいざなう、食をテーマに旅をする「食紀行」を綴るブログです。

魚どころの特上ごはん51…高知・中村 『季節料理たにぐち』の、四万十川のゴリに川エビ

2006年12月10日 | ◆ローカル魚でとれたてごはん
 宇和島を後にした予土線のトロッコ列車「四万十トロッコ」号は、松丸駅を過ぎると左手に四万十川の支流である吉野川を見ながら進んでいく。岩をかむような流れが、途中の江川崎を過ぎて四万十川の本流に沿うと一変。緑の山間に蒼い水を滔滔とたたえる、広々とした流れへと変わった。蛇行する川に沿ってくねくね進む列車の車窓、というかトロッコの柵越しには、四万十川名物の「沈下橋」もちらほら。増水時に橋が流されるのを防ぐため、欄干を設けないことで水の抵抗を抑えた独特の橋で、名の通り増水時には水面下に沈んでしまうのだとか。まさに「最後の清流」の名にふさわしい、手付かずの自然景観が展開している。終点の窪川駅で下車、徒歩10分ほどのところにある岩本寺へと足を伸ばす。四国八十八ヵ所第37番霊場で、参拝後持参した納経帳に朱印を頂き、この日の予定は終了。まだ15時過ぎと日が高いけれど、あとは四万十川の河口の町・中村の宿へと入るだけである。

 中村に泊まった理由は単に、明日訪れる予定のカツオの町・土佐久礼に行くのに都合がいいからで、ここではお魚関連の取材および食事はひと休みのつもりだった。ところがトロッコ列車から四万十の流れを眺めていると、瀬戸内や宇和海、土佐湾の魚に続き、ついでに四万十の川魚もいってみるか、という気分になってきた。手付かずの自然の中を流れる大河、とくれば、とれるお魚だって手付かずの自然の恵みの天然物であること請け合い、とばかり、日が傾いてきたところで駅で借りた自転車に乗っていざ出発だ。中村の繁華街は駅から少々離れていて、10分ほど走ったところで小ぢんまりした飲食店街に出くわした。ホテルのフロントに教えてもらった、四万十川の川魚料理の店をいくつか巡った上で、国道439号線に面した『季節料理たにぐち』の暖簾をくぐることに。やや年季の入った、小料理屋風の店構えの玄関をくぐると、まだ17時をまわったぐらいなのに店内はかなりの客で賑わっている。店の人もてんてこまいといった様子で、おばちゃんが盆にいっぱいの料理を運びながら、カウンターの奥の空いているところへどうぞ、と、慌しく中へと通された。

 四万十川は全長およそ196キロ、高知県内の不入山を水源に大きく蛇行して流れ、河口からおよそ10キロほどの四万十市中村を経て太平洋へと注ぐ。中村付近の河口域は川幅が300メートルを超え、高低差がほとんどない。おかげで流れが極端に緩やかになり川へ海水が逆流し、淡水と塩水が混じった「汽水域」が形成されている。プランクトンが豊富で栄養分豊富な水域のため、このあたりに棲息している魚介は実に種類豊富。四万十川には、こうした魚介を獲物とする川漁師が健在で、今でも昔ながらの伝統漁法を用いてアユやウナギ、川エビなどを漁獲、市街の料亭や料理旅館に卸しているそうである。「たにぐち」の現在の板前は3代目で、川魚料理は2代目の頃から専門的に扱っているとの事。旅行者にはもちろん、地元でも名が知られた川魚料理の名店なのである。

 と感心して、品書きや店内に掲げられたおすすめメニューを見たところ、川魚料理だけでなく海鮮料理も結構並んでいるよう。つくりの欄に「ヨコ」「シンコ」とあるのはカツオの幼魚のこと、「キリアイ」というのは足摺付近でとれる「ちゃんばら貝」という巻貝、ほかウメイロ、イサギ、ネイリ、ブリ子の煮物など、ひと通りおばちゃんに解説を聞いたけれどとても覚えられない。中村はカツオで有名な佐賀漁港や、「清水サバ」が名高い足摺岬の付け根に位置する清水漁港も近く、店ではこれらの漁港で水揚げされた魚介を使った料理にも定評があるという。カツオのつくりでビールを一杯、も惹かれるが、それは明日の土佐久礼の楽しみに回して、今日はあくまで「川魚デー」。お目当ての四万十川天然ウナギや、名物の青さ海苔を探しながら、品書きに目をやる。すると「四万十川定食」と、これまたそそられる名称のコースを発見。おばちゃんに内容を聞いたところ、料理の組み合わせによって数種あり、ウナギ蒲焼と青さ海苔の天ぷらはAのコースについているとのことだった。

 あれこれ単品で頼むよりかなり割安なのでこれに決定、ビールとともに最初に出てきたのはゴリの卵とじである。小鉢に持った炒り卵の中には、2~3センチほどの小魚がたっぷり。小魚は黒っぽいけれど、イメージはシラス入り卵焼き風でもある。ゴリとは淡水性のハゼ類の総称で、四万十川流域ではハゼ科のチチブ、ヌマチチブの稚魚を指す。小さいながら、大きな目に大口のユーモラスな表情が印象的だ。漁法は四万十川の伝統的川魚漁法のひとつである「ガラ曳き漁」。 サザエの貝殻を何百個も吊るしたロープを、川の中を上流から下流に向かって曳き回す。するとサザエの貝殻が反射する日の光と、漁法名の通り「ガラガラ」と鳴る貝殻の音にゴリはビックリ、逃げるところを網に追い込んで漁獲するという、仕掛けも捕らえ方も何だかのどかな漁法だ。ゴリは地元では卵とじのほか、甘辛く煮て佃煮にするのが一般的な料理法という。この店のゴリの卵とじには、切り干し大根が入っているのがオリジナル。おばちゃんによると、この大根は「桜干し」といって、ねじって細長く伸ばして干す独特のやり方という。最初から細い大根じゃないよ、覚えていきな、などと親父さんも笑っている。卵の甘味がほど良く、料理のスタートにはほっとする味だ。

 ゴリの卵とじのすぐ後に出てきた川エビは対照的に、パリパリになる位しっかり揚げてから、仕上げに塩を軽くしてある。川エビとは、四万十川に棲息するテナガエビのこと。年間漁獲高が30トンほどと、ウナギや藻類に次いで川漁師にとって重要な漁獲となっている。その川エビを漁獲する「柴漬け漁」は、四万十川の伝統的漁法の中でも代表的なもののひとつだ。木の枝をいっぱい束ねた「柴」を、一晩川の中に漬けておく。するとその間に、エビやカニ、ウナギなどが、この柴を住処として棲みついてしまう。そこで翌日、柴の下に大きな網をあてがいながら引き上げると、柴に安住していた獲物たちが網へとバラバラと落っこちるという仕組み。ガラ曳き漁と同様にどこかユニーク、また四万十の悠々たる流れを彷彿させる、どこかのんびりした漁法でもある。数匹箸でまとめてパリッ、香ばしい中にもエビの甘味がしっかり引き立ち、これはビールが進む味だ。熱々のうちは長いはさみがさっくり、口の中で触らなく食べやすいが、冷めてくるとはさみやひげや足が次第にトゲトゲしてくるので、後半はやや急いで食べる。エビの中には卵を持ったのもいて、味はしないがツブツブとした食感がなかなか心地よい。

 のっけから数品続いて、熱々のうちがうまい料理が出てきたため、冷めないうちに食べるのが何とも忙しい。そして続いても熱々の料理が登場、期待していた青さのりの天ぷらである。青さのりは四万十川の中流から河口の、汽水域でとれる藻類である。似た名前の「青のり」も同じ流域でとれるが、青さのりはヒトエグサ、青のりはスジアオノリと、種類は全く別のものだ。青さのりは食べておいしく、青のりは潮の香りが強いと、その特性も異なるという。青さのりは地元では佃煮にされるほか、中村周辺の料理屋では天ぷらが名物。見た感じはまるで苔玉のようなのを、熱々のうちにサクッとひと口。とたんに潮の香りが一気にで口の中に展開する。食べていると口の中で葉がばらけ、それをねぶると次第に味が出てくる。天つゆの中にもばらけてしまうが、それも頂いてしまうほど後を引く旨さだ。

 四万十川定食の序盤3品で、すっかり川の幸の恵みに魅せられ、この後続く天然物のアユやウナギに更なる期待がかかる。そろそろ地酒にシフトするのもいいかも、と、酒のほうもエンジンがかかってきた。川魚料理編の後編は、次回にて。(2006年8月6日食記)

町で見つけたオモシロごはん75…東京ディズニーランド 『クリスタルパレスレストラン』の、バイキング

2006年12月08日 | ◆町で見つけたオモシロごはん
 家族全員が平日の同じ日にうまく休みが合い、どこかへ皆で遊びに行こう、という時、行き先の筆頭に上がるのが東京ディズニーランドだ。ディズニーランドといえば仕事柄、ガイドブックや雑誌の誌面に掲載する際に、先方の広報担当からのチェックや注文が細かいことが印象的。版権にうるさいネズミとかアヒルとか熊に対する対応が大変で… とか、日頃仕事でお世話になっているのにそんなこと書いちゃいけないか? ひとたびゲートをくぐると、そこは俗世と隔絶された夢の世界、という徹底した演出はさすがだが、食事に関してはあまり「らしい」特徴がないように思えてしまう。食べ物や飲み物の持込みが禁止されているため、パーク内の飲食店を使うほかないのだが、値段は全体的に割高、しかもおとぎの国に不似合いだからか、園内ではアルコール類が一切扱われていない。実はこのことを知らずに、一度クーラーボックスにドリンクのペットボトルや缶ビールを入れて持ち込み、園内のベンチで平気で飲んでいたことがある。特に注意されたりしなかったが、例のネズミの着ぐるみに見つかったりしたら血相変えて飛んできて、缶ビールをぐっとやっている自分を指差してオーバーアクションで両手を×、×、なんてされたりしたのだろうか。

 そんなこんなで11月の連休前のとある日、子供の休日登校の振り替えや家内の仕事が休めたりして、空いたディズニーに行くにはもってこいの日に、自分も仕事の空きができた。自宅から東京ディズニーリゾートまでは、家からすぐ近くにある高速湾岸線のインターにのってしまえば、ものの30分ちょっとと結構近い。10時ちょっと前に到着すると、まだ行列10分待ち程度のアトラクションも見かけたり、あらかじめ乗車時間を予約できるチケット「ファストパス」もいくつか入手できるなど、空いているおかげで大して行列することなく、様々なアトラクションをこなしていく。カリブの海賊、ウエスタンリバー鉄道、スプラッシュマウンテンを乗車したところでお昼前となり、昼食はもちろん、夕食をどうするかをそろそろ手を打たなければならない。

 ディズニーランドで食事をする際には、なるべくショーが行われるレストランを狙うようにしている。値段が高い分、そうした付加価値があればまあいいか、と納得できるからである。本来なら入園したらすぐに、ショーが行われるレストランも予約するところを、この日はいろいろなアトラクションにあまりに順調に乗れてしまったため、レストランの予約が後回しになってしまった。狙っていた「ポリネシアンテラスレストラン」のミッキー&ミニーのショーは、お昼前に行ってみるともう本日分はすべて予約終了。ダメモトで、ウエスタンランドの「スルーフットスーのダイヤモンドホースレビュー」へも足を運んでみると、最終回の20時40 分からなら空きがあるという。コメディーやアクション、ダンスといった本格的なショーが楽しめるとあり、パーク内でNO.1の人気だけにこれはラッキー、と言いたいところだが、こんなに遅い時間では子供たちは1日遊んで疲れ果てているだろう。

 結局16時からの回のキャンセル待ちを申し込み、昼食はファーストフードスタンドでチュロスやピタサンドを軽く頂いてから、午後はトゥーンタウンやトゥモローランドをさらに精力的に乗り歩いた。そして期待しながら、16時にレストランへと引き返してみたが、あいにく自分たちまでまわって来ず仕舞い。お目当てのアトラクションはほぼ乗れたし、予定では、19時頃からのエレクトリカルパレードを見物して帰るつもりだから、この日はショー&ディナーはあきらめ、ちょっと早いけれどどこかのレストランで夕食を済ませることにしよう。園内のパンフレットを眺めながら検討した結果、席数が多いから空いてそうだ、と、パーク内屈指の規模を誇る『クリスタルパレスレストラン』へと向かった。まるで宮殿のようなガラス張りのドームのような外観は、19世紀ビクトリア時代のデザイン。豪華な外観とは対照的に、中は手軽なバイキングスタイルのレストランだ。パーク内の飲食店は値段がやや高め、と冒頭に記したが、入口に掲げられたメニューによるとここの一人前の料金は、ホテルのバイキングやフードコートにあるバイキングレストランとさほど変わらない。ショーがなくても納得できるぐらいの額である。

 大きな窓ガラスのそばの席へと通されたらさっそく、料理が並ぶコーナーをぶらりと一巡する。世界各国の様々な料理をブッフェスタイルで頂けるとあり、空いている日だから品数がちょっと少なめなのにも関わらず、ざっと数えても30種ほど並んでいる。カレーやスパゲッティーといった麺・ごはん物、フライや煮込み料理、肉や魚料理の主菜類、さらにスープにフルーツやサラダ、デザートも充実。これらと別に、子供向けの料理を集めたコーナーがあるのはさすがで、子供が好きそうでかつ辛くない料理を揃えている。

 ちなみに自分がこの日頂いた料理を列挙すると、スパニッシュオムレツ、メカジキの香草パン粉焼き、カネロニのミートグラタン、ロールキャベツ、リヨネーズポテト、仔牛とポークのハンバーグ、フランクステーキ和風ソース、シーフードマリネ、スモークサーモンとアボガドのピュレetc。やや重めの洋食なのにどれも軽く仕上がっていて、結構スイスイとお代わりに手が出てしまう。締めに頂いたのがイクラたっぷりのちらし寿司と和風で、各国料理のブッフェならではか。面白いのが、取り皿が例のネズミの顔を模した、3つの丸の組み合わせなこと(上の写真を参照)。実はこれは子供用で、後で普通の皿もあったことを知ったけれど、いっぱい盛れるので最後までこれを使わせていただいた。デザートでとったケーキにも、この丸三つの焼印が押されているのも楽しい。

 このレストラン、ショーこそ行われないけれど、料理のレベルのみで評価すれば、コストパフォーマンスはパーク内のレストランで一番ではないだろうか。加えてあの手の料理なら、やっぱりビールが欲しく… とは、おとぎの国にいる以上はまあ、言うまい。結局小1時間ほどゆっくりと食事をして、レストランを出る頃にはあたりは真っ暗。パレードのコースの沿道には、すでに場所取りをしている人の姿も見られる。大して混雑に巻き込まれることなく1日ゆったり遊べ、予約が危うかった食事にも大満足。締めくくりのパレードを無事、見物し終われば、残る懸念は子供(妻も?)のおみやげおねだり攻勢だけか?(2006年11月1日食記)

町で見つけたオモシロごはん74…新宿御苑 『手打ちそば志な乃』の、2人前ある大盛りざるそば

2006年12月06日 | ◆町で見つけたオモシロごはん
 先日、「旅で出会ったローカルごはん」の本の表紙写真などをお願いした、カメラマンの管さんの事務所で打ち合わせ後に飲んでいた際、たまたまいらした管さん知り合いのカメラマンの方から、個展の招待状を頂いた。その方の父親、管さんの大先輩でもあるそうで、酔っ払って威勢がよかったのもあって(笑)、ぜひお邪魔します、と返事をした。個展当日は自身の銀座での仕事が立て込み、行けそうか少々怪しい雲行き。でも酒席の勢いの約束を守らぬは不義理甚だしい、との矜持を曲げず(大げさな…)、管さんとともに事務所で飲んだ相棒とともに、夕刻の新宿御苑駅へと降り立ったのだった。

 個展の主題は大雑把に言うと、現在の東京を様々な角度から写したものだった。中でも商店街での買い物風景や生活感あふれる町屋、賑わう縁日など、東京の下町風景・庶民の暮らしが印象的だ。一巡して会場を後にするともう黄昏時、御苑周辺の繁華街も賑わいを見せ始めている。すると、「どうですか、そば、食っていきませんか?」と相棒。小腹も空いたことだし、ちょいとそばでもたぐっていくか、とは、懐かしの江戸情緒ある写真が食欲にも影響したか… と思ったらそうではなく、単にこの近辺で仕事をした際によく寄ったお気に入りの店なのだとか。そばもいいけれど、時間からしてそば屋特有のアテで軽く一杯、締めはザルで、なんてのもそそられる。こちらのほうが江戸情緒というか、池波正太郎の世界に魅せられたようである。

 二つ返事で誘いにのって、新宿通り沿いにあるその『手打ちそば志な乃』という店へと向かう。店頭には屋号が染め抜かれた暖簾がかかり、ショーケースにはずいぶんと年季の入ったサンプルが、値札もなく2、3並んでいる。店内は数脚のテーブル席にわずかばかりの小上がりと、小ぢんまりした雰囲気。食事時にはちょっと早いせいかお客は2、3組だけで、テーブル席のひとつには新聞や雑誌が山積み、もうひとつのテーブルでは何と、店の子供が画用紙を広げてお絵かきに熱中している。客席の奥には厨房とは別に炊事場のようなコーナーがむき出しになっていて、おばちゃんが湯を沸かしたり片付け物をしている様子。新宿界隈の繁華街にありながら、絵に描いたような「町のそば屋さん」といった感じで、さっきの個展に出てきそうな、東京レトロの世界が展開している。

 新聞と週刊誌が山積みの席の隣にふたりして落ち着くと、なじみである相棒のオーダーはそば・うどんの「合い盛り」に決まりのよう。自分も品書きを見たところどれも1000円以上と、そば屋にしてはやや高めだ。東京でそばの老舗や名店と呼ばれる店では、シンプルなざるやもりでも結構な値段をとるところがある。つなぎなしの十割そばや、希少な国内産そば粉を売りにするなど、その分味はいいのだろうが、そばはやっぱり庶民の味覚のイメージ。1000円以内の手軽な値段でさらりといきたいものである。店の雰囲気とは対照的に、ここも「名店」なのかな、と思う一方、店に貼られた「新そば」の貼紙に期待して自分は「ざる」を注文した。

 そして忘れちゃいけない、お楽しみのそば屋酒だ。板わさに卵焼き、鴨ぬきや天ぬき(鴨なんばんや天ぷらそばの麺なし)といった、そば屋ならではのアテを期待したが品書きにはなく、とりあえず「賀茂鶴純米」を常温で注文。するとおばちゃん、徳利とともに「つまみにどうぞ」と、かりんとのようなものを皿に大盛りで運んできてくれた。これがカリッと香ばしく、「賀茂鶴」がどんどん進んでいけない。おばちゃんによると、つまみの正体は生そばを揚げて、塩をふったものという。ほかにも品書きにない酒のアテがいくらかあるらしいが、「これはサービス」との言葉にありがたく甘えて、生そば揚げを肴にひたすら杯を重ねていく。

 老舗や名店のそばといえば、値段の高さもさることながら、ほんの数箸たぐると食べ終わってしまいそうな「小盛り」もまた特徴なのだが、運ばれてきたそばを見て驚いた。大柄のせいろから、今にもくずれ落ちんばかりに山盛りなのである。横から見てもこんもり盛り上がっているぐらいで、老舗や名店ではなく一般的なそば屋と比較しても、軽く1.5~2人前はありそうだ。これなら値段にも納得、いやそれ以上の満腹感間違いなし。やはりそばは庶民の味方、こうでなくちゃ、と感激し、さっそく山盛りのそばに突撃だ。量もさることながら、そばがしっかりと太めで、たぐると歯ごたえが強めで、パキパキとした食感。固いというのではなくしっかりと腰があるといった感じで、太い分そばの香りや甘みもしっかりと味わえていい。店では自前のそば畑を持っており、自家製のそばの実を曳いたそば粉を素材に、ご主人自ら手打ちで仕上げているという。粋なお江戸のそば切りというより、農村の日常食「田舎そば」といった感じだが、なかなか悪くない。見た感じ薄い色のつゆはやや甘めで、そばの風味をしっかり支えているといった感じ。たっぷりのネギに大根おろし、ワサビが薬味に添えてあり、いろいろ試しつつ大盛りのそばを平らげていく。

 味と香りがいいそばは、酒のアテにももってこい、と、ざるそばをたぐりつつ「賀茂鶴」の杯もグッ。広島県屈指の酒どころ、西条に蔵元があり、純米ながらキリッと角のたった、切れ味の鋭い酒だ。香ばしい生そば揚げと、もったりしたざるそばと、食感と風味が対照的なアテを楽しみながら徳利をさらに追加、仕事がある相棒にも構わずどんどん勧めてしまう。そのうち大盛りのざるそばがすっかり片付き、徳利をもう一本いきたいところだが、そば屋で長っちりの酒は野暮というもの。締めくくりのそば湯をつゆに入れ、残ったネギとワサビを入れて飲み干したところで店を後にする。仕事が残っている相棒は足早に地下鉄の駅へ、自分は徳利2本で自重したおかげで、まだまだ飲み足りない。新宿通りを10分も歩けば、そこはネオンきらめく新宿3丁目。粋なそば屋酒のあとは、ここらでじっくりと腰をすえて飲みに走るとするか。(2006年11月29日食記)

町で見つけたオモシロごはん73…本格焼酎&泡盛プレスミーティング・試飲編

2006年12月03日 | ◆町で見つけたオモシロごはん
 帝国ホテルで行われた「本格焼酎&泡盛プレスミーティング」は、前半の講演が終了、後半は隣接するの広間へと場所を移して、お楽しみの本格焼酎と泡盛の試飲会となった。酒税法の改正により、本格焼酎と泡盛はそれまでの雑酒的分類から、新たに「単式蒸留しょうちゅう」という種別に位置づけ。ここ20年来のブームのおかげもあり、今では九州や沖縄をはじめ全国各地の魅力的な本格焼酎が注目されるようになった。この日は主原料別に設けられたコーナーに、様々な銘柄の本格焼酎のボトルが並び、好みのものを自由に味わえる仕組み。前半の勉強会からひと息ついたことだし、なるだけいろいろな銘柄を酔いつぶれないように? 味わっていくことにしよう。

 会場をぐるりと一巡したあと、まずは入口に近い麦焼酎のコーナーから攻めることに。麦焼酎は主に長崎・大分・宮崎で盛んに製造されており、芋焼酎と並んで本格焼酎の多くを占めている。まず頂いたのは、長崎・玄海酒造の「壱岐オールド」。玄海灘を隔てて浮かぶ離島・壱岐の郷ノ浦町にある蔵元の酒で、いらしていた蔵元の方直々についで頂き恐縮。お話によると、壱岐は麦焼酎発祥の地ともいわれ、中国から伝来した製造法を元に、島でとれた麦を原料に独自の焼酎をつくりだしたといわれる。麦を主原料としたのは、島ではもともと米があまりとれず、とれても貴重な献上品だったためだそうで、玄海酒造では今でも、原料比は麹に用いる米が1に対して大麦が2。仕込み水には島の伏流水を用いるなど、古くから島内産の素材にこだわる焼酎なのである。

 蔵元の方によると、この蔵で焼酎造りを始めた明治33年当時は島に55軒の蔵があったのが、今では7軒のみ。「小さい島だから競争が激しいからね。離島の焼酎はそもそも、島の人たちが数少ない楽しみのひとつとして飲むもの。今でもうちの焼酎は、島内での消費が4分の1ほどと結構多いよ」。味の方はほのかな甘味があるがくせのない、すっきり飲みやすい味。気をつけないと飲み過ぎてしまいそうな、口当たりの良さだ。もうひとつ、大分・日田の老松酒造「麹屋伝兵衛」も頂くと、こちらは芳香が実に高貴。長期熟成させた後、樫の木の樽で寝かせる「樫樽貯蔵」で仕上げたため、香ばしい香りがまるでシングルモルトウイスキーのようである。この樫樽貯蔵、幻の焼酎として名高い、宮崎県・黒木本店の「百年の孤独」と同じ製法なのだとか。

 洗練された麦焼酎に対して、くせのある味わいがやみつきになるとたまらないのが芋焼酎。隣のコーナーに移動すると、オンザロック用のグラスとともに、真っ黒で平べったい急須がいくつも並び、同じく黒っぽい盃らしきものも用意されている。ここでも蔵元の親父さんが、この急須を片手にニコニコと進めてくれるので、ありがたく足を止めた。鹿児島・日置市にある小正酒造の方で、急須は「黒じょか」と呼ばれる焼酎用の酒器、中身は芋焼酎の「小鶴くろ」という。小正酒造では澱粉質が豊富な地元・鹿児島産のサツマイモ「黄金千貫」を主原料に、白麹と黒麹それぞれを使った主銘柄「小鶴」を製造しており、「くろ」は文字通り黒麹を用いた焼酎。すっきりと仕上がる白麹仕込みに比べ、強烈な香味とどっしりしたコクが特色というが、一献頂いてみたところかなり落ち着いた風味で、芋焼酎にしてはずいぶんこなれた印象の飲み口である。

 「芋焼酎は割り方が味の決め手。お湯割りも焼酎を先に入れて熱湯を注いだりしたら、せっかくの風味が台無しになってしまう」と話す親父さんに、正統派・薩摩焼酎のお湯割り作法を伝授して頂いた。ポイントは先に焼酎を器に注ぐのではなく、湯を先に注ぐ点。まずやかんで沸騰させた湯を酒器に注ぎ、水で埋めて88~90度ぐらいにする。これに常温の芋焼酎を足し、温度が44度ぐらいのぬるかんになるとベスト。さっきの黒じょかの中身も、あらかじめ1~2日前に「小鶴くろ」を水で割って慣らしておき、ぬるかんにしたもので、おかげで粗野な芋焼酎の風味が洗練されたという訳なのである。ちなみに割る比率はお湯割り、水割りともに5対5というが、飲んでみた感じではちょっと強いよう。洗練された芋焼酎もいいが、やはり濃いめで荒っぽい風味を楽しむ方が好みかも。

 さらに泡盛のコーナーでは、鋭い口当たりの沖縄・新里酒造「かりゆし」にまろやかな味わいの久米島「久米仙 び」、各種素材の焼酎のコーナーでは愛媛の栗焼酎、福岡のにんじん焼酎なんてのも頂いた。そして最後に訪れた米焼酎のコーナーは、自身のお気に入り銘柄である、熊本・人吉の繊月酒造の球磨焼酎へとまっしぐら。人吉城の別名・繊月城からとった「繊月」が主銘柄で、普段は低温仕込みで度数軽めの仕上がりの「舞繊月」、ちょっといいものだと原酒を樫樽貯蔵して仕上げた「たる繊月」。さらに土瓶貯蔵・30年物の貴重な古酒も飲んだこともあり、繊月の焼酎なら大体知っているつもりだったが、この日並んでいる「川辺」という銘柄は、初めて耳にした。

 繊月酒造では熊本県下を始め、全国の自治体や生産者団体と協力して、主にご当地で収穫された米を主原料に仕込んだ「地域おこし応援銘柄」という焼酎を各種製造している。実はこの「川辺」もそのひとつで、繊月酒造がある人吉市から川辺川沿いにやや遡ったところに位置する、相良村産の「ひのひかり」という米を主原料して仕込んだ焼酎なのである。清流・川辺川の流れが思い浮かぶような、きりっとした切れ味の良さに、この水で育ち天日乾燥させた米を使った心地良い甘味と、まさに球磨川上流域の自然の恵みそのままといった酒だ。コーナーに長居して「川辺」を何杯か頂いていると、前半の講演の冒頭で挨拶していた日本酒造組合中央会・しょうちゅう乙類業需要開発部会部会長の堤正博氏が登場。この方、実は繊月酒蔵の社長さんで、かつて自分が学生の頃に人吉を訪れて蔵へおじゃました時の話などを披露するなど、しばし酒談義を楽しんだ。

 試飲の部も盛況、各コーナーの焼酎も残り少なくなったところで、宴たけなわとなった。終わりの挨拶で面白かったのが、宴たけなわの「たけなわ」は漢字で書くと「酣」という話。酒に関係のある言葉とのことで、締めも1本締めでも3本締めでもなく「乾杯三唱」がまた、本格焼酎・泡盛の会の最後にふさわしいか。おみやげに焼酎が1本、銘柄は開けてのお楽しみでつくのがまたうれしい。家に帰って酔いが醒めたら、本日まだ飲んでいない自宅秘蔵の黒糖焼酎で、頭で舌でしっかり勉強した会の復習といこうか。(2006年11月22日食記)

町で見つけたオモシロごはん72…本格焼酎&泡盛プレスミーティング

2006年12月02日 | ◆町で見つけたオモシロごはん

 先日の石川県「食談」の席で同席した料理学校の方に、本格焼酎や泡盛をテーマとしたプレスミーティングに誘っていただいた。正統派加賀会席を頂いている席上で、正統派の焼酎をPRすることを目的とした会につながるとは、何ともありがたい縁である。もちろん喜んで参加することにして、2週間ほど後の夕刻、会場である日比谷の帝国ホテルへと足を運んだ。場所柄もあってまたスーツにネクタイ姿は、食談のときと同様。内容は記者発表だけれど、後半は焼酎の試飲となる訳だから、あまり堅苦しく考えずに学んで、楽しんでいくこととしよう。

 この会はそもそも、今年の5月に酒税法が改正され、今までの「しょうちゅう乙類」という呼称が廃止されたと同時に「単式蒸留しょうちゅう」という呼び名が生まれたことについて、説明をするというのがひとつの趣旨である。加えて本格焼酎と泡盛の製法、風味形成の特色など、普段飲み慣れている本格焼酎の実態が分かり、なかなか面白そうである。という訳で、プレスミーティング編は講師である元国税庁醸造試験所長の西谷尚道氏の講義の要点を、以下にまとめる形で紹介する。

●はじめに <日本酒造組合中央会 堤 正博氏>
 本格焼酎は500年もの歴史を持つ酒だが、一般に認知されてきたのはこの20年ぐらい。その間に爆発的なブームを呼び、おかげで生産が加速された。一方で大手企業の参入も相次ぎ、中には薄めたものや添加物を加えたものなど、質の悪い焼酎も増えてしまった。
 今年の5月の酒税法改正に際し「乙類焼酎」という表記が廃止され、新たに「単式蒸留しょうちゅう」という種別が生まれた。それがどのような原料を用い、どのように作られるのかをこの場で知っていただき、焼酎により一層理解を深めてもらうこと、そして「単式蒸留しょうちゅう」を広めていただくことをお願いしたい。

●なぜ今、単式蒸留焼酎なのか 〜単式蒸留焼酎の原点〜
 <元国税庁醸造試験場所長 西谷尚道氏>
 今までの酒税法では10種あった酒類の分類を、新たな酒税法では4種とした。これまでは本格焼酎や泡盛は原料や製法による規定がなく、いわばほかの様々な酒を定義付けて除いた後に残った酒といった、消去法的な位置付けであった。これを新たな酒税法では、以下のように原料や製法による定義を明確にした。

1)改正酒税法における、単式蒸留焼酎と本格焼酎・泡盛の分類上の位置付け
 新たな酒税法では、酒類の分類は「発泡性酒類(発泡酒やビールなど)」「醸造酒類(日本酒・ワインなど)」「蒸留酒類(焼酎・ウイスキー・ブランデーなど)」「混成酒類(梅酒、みりんなど)」の4種に分類。その中の蒸留酒類がさらに「連続式蒸留しょうちゅう」「単式蒸留しょうちゅう」「ウイスキー」「ブランデー」など6種に種別される。この中の「単式蒸留しょうちゅう」に、本格焼酎と泡盛が位置づけられている。
 単式蒸留しょうちゅうとは文字通り、1回だけ蒸留する製法で、原料の風味や特徴がそのまま生かされている。一方、連続式蒸留しょうちゅうは不純物をとりのぞいたり、アルコールを濃縮するため何度も蒸留・精製するため、アルコールの純度が高まる一方で風味は弱くなるのが特徴。
 ちなみに新たな酒税法で、旧「甲類焼酎」が「連続式蒸留しょうちゅう」となり、「乙類焼酎」は以下2)に定義される本格焼酎・泡盛以外の焼酎を指す。 

2)本格焼酎・泡盛の原料による定義
 以下のイ〜ホ、プラス泡盛の、6つの定義がある。
 イ…麦・芋など、穀類・芋類を原料にした「穀類焼酎」
   ※本格焼酎の大部分を占める。長崎・大分・宮崎は麦焼酎、鹿児島は芋焼酎が主産。
 ロ…穀類麹のみを原料にした、「全麹穀類焼酎」
 ハ…酒粕を原料に米麹を使った「米焼酎」「酒粕焼酎」
   ※米焼酎は熊本の球磨焼酎が代表的。酒粕焼酎は全国の清酒の産地で見られる。
 ニ…黒糖を原料に米麹を使った「黒糖焼酎」
   ※奄美諸島の特産焼酎。
 ホ…穀類・芋類に様々な原料をプラスした焼酎
   ※カボチャ、ニンジン、タマネギなど49種の素材を指定。それらは全原料の半分以下という規定がある。
 泡盛…米に黒麹菌を混ぜてつくった米麹のみを主原料として仕込む。
    ※沖縄で有名な泡盛。

 主原料からすると大きく分けて、米、芋、麦、泡盛を主原料にした「主要焼酎」、酒粕を主原料にした「清酒副産物焼酎」、じゃがいもやかぼちゃ、栗、長芋などを主原料とした「多様化焼酎」に区分される。主原料の種類の多さもさることながら、それらを米麹・麦麹といった麹原料との組み合わせによって、多種多彩な焼酎が作り出されることとなる。
 焼酎に使う麹は、発祥は中国といわれ、それが沖縄を経て九州、本土へと伝わっていった。中国では紅麹、沖縄や奄美では黒麹、九州では白麹が使われ、中でも黒麹は暑さに強く腐敗しにくいため、沖縄など暑い地方向き。泡盛や黒糖焼酎の麹原料となっている。

3)本格焼酎・泡盛の製法による定義
 「並行複発酵」による濃厚な仕込み、1回のみの蒸留「単式蒸留」による濃厚な風味、瓶での熟成による複雑な香味。この風味の多様性、濃淳さ、様々な成分の抽出こそが、本格焼酎・泡盛のうまさの原点である。

 このような懐の深い蒸留酒文化をもっているのは、日本ならではである。西洋の「麦芽文化圏」の酒に対して、麹文化圏の酒の維持が、これから大切になってくる。本格焼酎・泡盛に対してより深い理解を得ていただき、その酒文化を大切に守り続けていってもらいたいものである。

…芋焼酎、米焼酎、麦焼酎に泡盛といった、日頃慣れ親しんでいる焼酎が、このたびの酒税法上の「単式蒸留しょうちゅう」の定義づけにより、原料の成分比や製法も厳しく決められ、品質に対する信頼が生まれたことだろう。焼酎と聞くとこれまでは、ビールやワイン、日本酒に比べて何となく雑多な酒(失礼!)といった印象もあったのが、これによりイメージアップも期待される。近年の焼酎ブームや、真摯に製造に取り組む蔵元の動きといった時流にマッチすることはもちろん、焼酎が日本の酒文化の一翼を担う酒であることも、しっかりとPRされるだろう。

 と、これだけお知らせすれば、この後様々な本格焼酎や泡盛を試飲して楽しんだことに対し、主催者へしっかりとお返しができただろうか? 冗談はともかく、各蔵元の珠玉の焼酎を味見、蔵元の方から伺ったオモシロ話などは、次回にて。(2006年11月22日食記)