ウマさ特盛り!まぜまぜごはん~おいしい日本 食紀行~

ライター&編集者&散歩の案内人・上村一真(カミムラカズマ)がいざなう、食をテーマに旅をする「食紀行」を綴るブログです。

旅で出会ったローカルごはん72…塩原温泉 『カフェレストラン洋燈』の、ヘルシーな開湯御膳

2006年12月27日 | ◆旅で出会ったローカルごはん
 那須高原の視察会1日目は、休暇村那須での懇親会にて無事終了。翌日こそ晴天の中を高原の視察に、という願いは叶わず、朝からあいにくの雨模様である。この日は近隣の塩原温泉へと足を伸ばすことになり、紅葉谷大吊り橋や足湯「湯っ歩の里」などを精力的に巡った。紅葉谷大吊り橋は、かつて日本最長のつり橋だったが、大分県久住町にことしできた吊橋に抜かれてしまったとか。前述した毎年恒例の那須高原への家族旅行の際にも訪れたことがあり、確かそのときも小雨と天気の巡りあわせがどうもよくない。吊橋はその際に渡ったことがあるため、雨の中渡ることもないか、と皆が渡ってくる間レストハウスで待機することに。レストランには「ザ・塩原丼」なる豚丼があったり、売店には矢板産の大ドンコをはじめヒラタケやシメジといったキノコ、さらに柿やかりんなど農産品が露店で販売されていたりと、山里の食文化の品評会のようでなかなか楽しい。酒の肴にニンニク辛子味噌を購入、隣にはイナゴの佃煮が並んでいて、まんまの姿でたくさん入っているのに思わずぎょっとする。

 間欠泉が噴き出す温泉池を囲むように巡らされた、日本最大級の足湯が自慢の「湯っ歩の里」で、源泉掛け流しの湯に足を浸してひと休みした後、一行は温泉街の中ほどにある「塩原もの語り館」へと向かった。塩原温泉は古くから、文人や歌人にゆかりのある温泉地で、温泉街にはおよそ65基の文学碑があるのだとか。この施設も名の通り、彼らにまつわる様々な展示がなされている。温泉街には夏目漱石や野口雨情、竹下夢路の常宿があることや、斉藤茂吉に与謝野鉄幹・晶子夫妻が当地で歌を詠んだこと、さらに国木田独歩はここへ駆け落ちしてきた、谷崎潤一郎は妻の妹に惚れて社会的にバッシングを受けて温泉街の明恩寺に身を隠していたなど、スキャンダラスなネタも披露された。展示ホールの天井から下がる大きなタペストリーは、日本画家の巨匠・川合玉堂が塩の湯を散策している様子を撮った写真が描かれ、ほかにも塩原温泉の旅館や日塩もみじラインの風景のセピア色したレトロな写真、また手書き鳥瞰の案内絵図やモノクロ写真に着色した「カラー」絵葉書など、観光地ならではの懐かしい展示もあって面白い。

 ひとしきり館内を見学した後、昼食会場である『カフェレストラン洋燈』へと移動。施設の2階にあり、席に通されると店名にちなんで卓上に配置された、シックなランプが目を引く。近くを流れる箒川に向かって大きくとられた窓からは、清流の流れと沿岸の遊歩道に吊橋が一望できる。加えてここは塩原温泉の中でも1、2を争う紅葉の名所で、昭和40年に周辺の旅館や商店によって植えられた赤、黄、オレンジと、色鮮やかな紅葉が一望できる絶好のロケーション。全席展望席のこのレストランだけが独占する、何とも贅沢な絶景である。

 そんな景色を眺めつつ頂くのは、レストラン自慢の「開湯御膳」なるメニュー。塩原温泉の開湯1200年を記念した箱膳とのことで、運ばれてきた弁当箱には炊き込みご飯をはじめ、魚のムニエル、メンチカツ、ポテトサラダ、野菜の煮物に汁物と、派手さはないが素朴な料理が各種詰められている。まずは炊き込みご飯から。さっき紅葉谷大吊り橋の売店で見かけた、マイタケやシイタケ、シメジといったキノコ類がたっぷりで、どれも香りが鮮烈で、山の香気が存分に感じられる旨さだ。煮物の大根も塩原高原大根で、あっさりと炊いてあり大根の瑞々しさがそのまま残っている。脂がよくのったムニエルの魚は、目の前の箒川に釣り場があるからマスかと思ったらサケとのこと。三平汁にも大根、ニンジンに加えてサケもたっぷり。「もの語り館」はそもそも、農水省の補助で建てられた施設で、その影響があるかどうかは分からないがこのメニューには、地場の農産品をふんだんに使ってあるようだ。

 たっぷりの野菜に、デザートにはチーズケーキにみかん付きと、品数豊富なヘルシーメニューは女性に人気が出そうだ。それにしてもこのレストラン、景色がいいのは大変結構だけど、対岸にある露天風呂「もみじの湯」に入っている人まで、客席から丸見えだ。ヘルシーメニューを味わって、食後はヘルシーに温泉… という人は、絶景の一部? にならないよう、要注意である。(2006年11月20日食記)