ウマさ特盛り!まぜまぜごはん~おいしい日本 食紀行~

ライター&編集者&散歩の案内人・上村一真(カミムラカズマ)がいざなう、食をテーマに旅をする「食紀行」を綴るブログです。

町で見つけたオモシロごはん73…本格焼酎&泡盛プレスミーティング・試飲編

2006年12月03日 | ◆町で見つけたオモシロごはん
 帝国ホテルで行われた「本格焼酎&泡盛プレスミーティング」は、前半の講演が終了、後半は隣接するの広間へと場所を移して、お楽しみの本格焼酎と泡盛の試飲会となった。酒税法の改正により、本格焼酎と泡盛はそれまでの雑酒的分類から、新たに「単式蒸留しょうちゅう」という種別に位置づけ。ここ20年来のブームのおかげもあり、今では九州や沖縄をはじめ全国各地の魅力的な本格焼酎が注目されるようになった。この日は主原料別に設けられたコーナーに、様々な銘柄の本格焼酎のボトルが並び、好みのものを自由に味わえる仕組み。前半の勉強会からひと息ついたことだし、なるだけいろいろな銘柄を酔いつぶれないように? 味わっていくことにしよう。

 会場をぐるりと一巡したあと、まずは入口に近い麦焼酎のコーナーから攻めることに。麦焼酎は主に長崎・大分・宮崎で盛んに製造されており、芋焼酎と並んで本格焼酎の多くを占めている。まず頂いたのは、長崎・玄海酒造の「壱岐オールド」。玄海灘を隔てて浮かぶ離島・壱岐の郷ノ浦町にある蔵元の酒で、いらしていた蔵元の方直々についで頂き恐縮。お話によると、壱岐は麦焼酎発祥の地ともいわれ、中国から伝来した製造法を元に、島でとれた麦を原料に独自の焼酎をつくりだしたといわれる。麦を主原料としたのは、島ではもともと米があまりとれず、とれても貴重な献上品だったためだそうで、玄海酒造では今でも、原料比は麹に用いる米が1に対して大麦が2。仕込み水には島の伏流水を用いるなど、古くから島内産の素材にこだわる焼酎なのである。

 蔵元の方によると、この蔵で焼酎造りを始めた明治33年当時は島に55軒の蔵があったのが、今では7軒のみ。「小さい島だから競争が激しいからね。離島の焼酎はそもそも、島の人たちが数少ない楽しみのひとつとして飲むもの。今でもうちの焼酎は、島内での消費が4分の1ほどと結構多いよ」。味の方はほのかな甘味があるがくせのない、すっきり飲みやすい味。気をつけないと飲み過ぎてしまいそうな、口当たりの良さだ。もうひとつ、大分・日田の老松酒造「麹屋伝兵衛」も頂くと、こちらは芳香が実に高貴。長期熟成させた後、樫の木の樽で寝かせる「樫樽貯蔵」で仕上げたため、香ばしい香りがまるでシングルモルトウイスキーのようである。この樫樽貯蔵、幻の焼酎として名高い、宮崎県・黒木本店の「百年の孤独」と同じ製法なのだとか。

 洗練された麦焼酎に対して、くせのある味わいがやみつきになるとたまらないのが芋焼酎。隣のコーナーに移動すると、オンザロック用のグラスとともに、真っ黒で平べったい急須がいくつも並び、同じく黒っぽい盃らしきものも用意されている。ここでも蔵元の親父さんが、この急須を片手にニコニコと進めてくれるので、ありがたく足を止めた。鹿児島・日置市にある小正酒造の方で、急須は「黒じょか」と呼ばれる焼酎用の酒器、中身は芋焼酎の「小鶴くろ」という。小正酒造では澱粉質が豊富な地元・鹿児島産のサツマイモ「黄金千貫」を主原料に、白麹と黒麹それぞれを使った主銘柄「小鶴」を製造しており、「くろ」は文字通り黒麹を用いた焼酎。すっきりと仕上がる白麹仕込みに比べ、強烈な香味とどっしりしたコクが特色というが、一献頂いてみたところかなり落ち着いた風味で、芋焼酎にしてはずいぶんこなれた印象の飲み口である。

 「芋焼酎は割り方が味の決め手。お湯割りも焼酎を先に入れて熱湯を注いだりしたら、せっかくの風味が台無しになってしまう」と話す親父さんに、正統派・薩摩焼酎のお湯割り作法を伝授して頂いた。ポイントは先に焼酎を器に注ぐのではなく、湯を先に注ぐ点。まずやかんで沸騰させた湯を酒器に注ぎ、水で埋めて88~90度ぐらいにする。これに常温の芋焼酎を足し、温度が44度ぐらいのぬるかんになるとベスト。さっきの黒じょかの中身も、あらかじめ1~2日前に「小鶴くろ」を水で割って慣らしておき、ぬるかんにしたもので、おかげで粗野な芋焼酎の風味が洗練されたという訳なのである。ちなみに割る比率はお湯割り、水割りともに5対5というが、飲んでみた感じではちょっと強いよう。洗練された芋焼酎もいいが、やはり濃いめで荒っぽい風味を楽しむ方が好みかも。

 さらに泡盛のコーナーでは、鋭い口当たりの沖縄・新里酒造「かりゆし」にまろやかな味わいの久米島「久米仙 び」、各種素材の焼酎のコーナーでは愛媛の栗焼酎、福岡のにんじん焼酎なんてのも頂いた。そして最後に訪れた米焼酎のコーナーは、自身のお気に入り銘柄である、熊本・人吉の繊月酒造の球磨焼酎へとまっしぐら。人吉城の別名・繊月城からとった「繊月」が主銘柄で、普段は低温仕込みで度数軽めの仕上がりの「舞繊月」、ちょっといいものだと原酒を樫樽貯蔵して仕上げた「たる繊月」。さらに土瓶貯蔵・30年物の貴重な古酒も飲んだこともあり、繊月の焼酎なら大体知っているつもりだったが、この日並んでいる「川辺」という銘柄は、初めて耳にした。

 繊月酒造では熊本県下を始め、全国の自治体や生産者団体と協力して、主にご当地で収穫された米を主原料に仕込んだ「地域おこし応援銘柄」という焼酎を各種製造している。実はこの「川辺」もそのひとつで、繊月酒造がある人吉市から川辺川沿いにやや遡ったところに位置する、相良村産の「ひのひかり」という米を主原料して仕込んだ焼酎なのである。清流・川辺川の流れが思い浮かぶような、きりっとした切れ味の良さに、この水で育ち天日乾燥させた米を使った心地良い甘味と、まさに球磨川上流域の自然の恵みそのままといった酒だ。コーナーに長居して「川辺」を何杯か頂いていると、前半の講演の冒頭で挨拶していた日本酒造組合中央会・しょうちゅう乙類業需要開発部会部会長の堤正博氏が登場。この方、実は繊月酒蔵の社長さんで、かつて自分が学生の頃に人吉を訪れて蔵へおじゃました時の話などを披露するなど、しばし酒談義を楽しんだ。

 試飲の部も盛況、各コーナーの焼酎も残り少なくなったところで、宴たけなわとなった。終わりの挨拶で面白かったのが、宴たけなわの「たけなわ」は漢字で書くと「酣」という話。酒に関係のある言葉とのことで、締めも1本締めでも3本締めでもなく「乾杯三唱」がまた、本格焼酎・泡盛の会の最後にふさわしいか。おみやげに焼酎が1本、銘柄は開けてのお楽しみでつくのがまたうれしい。家に帰って酔いが醒めたら、本日まだ飲んでいない自宅秘蔵の黒糖焼酎で、頭で舌でしっかり勉強した会の復習といこうか。(2006年11月22日食記)