ウマさ特盛り!まぜまぜごはん~おいしい日本 食紀行~

ライター&編集者&散歩の案内人・上村一真(カミムラカズマ)がいざなう、食をテーマに旅をする「食紀行」を綴るブログです。

魚どころの特上ごはん52…中村 『季節料理たにぐち』の、四万十川天然アユにウナギ

2006年12月16日 | ◆ローカル魚でとれたてごはん
 最後の清流・四万十川が育んだ、天然物の川の味覚の数々を、河口の町・四万十市中村にある料亭『季節料理たにぐち』で満喫。ゴリの卵とじ、川エビの唐揚げ、青さのりの天ぷらと味わった後、四万十川の天然の川魚といえば欠かせない2品が、いよいよ登場することとなる。残ったビールをグラスに注ぎ、もう一本追加しようとしたところで、まずはアユの塩焼きが運ばれてきた。アユの塩焼きというと、山間の温泉旅館の夕食で出るような、アジぐらい大振りなのを思い浮かべるけれど、皿にのったアユは意外に小柄だ。よく見ると丸々と肥えた養殖物とは違い、キュッと引き締まったシャープな印象。面構えものんびりした感じの養殖物に比べ、どこか精悍そうに見える。

 四万十川の鮎は1年魚で、秋に河口域で産卵・孵化後、海へと下って稚魚の時期を過ごし、翌年の春に河口域へと遡上する。この水域で、アユは川底の丸石に付着するコケ類を捕食して成長、解禁となる6月の梅雨時から夏前にかけて、約20センチほどの大きさになる。「若アユ」と称されるこの時期がもっとも味がいいとされ、ほか産卵のため河口域に下った「落ちアユ」も人気が高い。漁法は流域により様々ある中、有名なのは「火振り漁」という伝統的川魚漁法。夜に舟を出し、船上で炊いたかがり火を水面で振り、その明かりで驚いたアユをあらかじめ川に仕掛けた網へと追い込む漁法である。7月頃に主に中流域で行われ、闇の中に赤々と燃え盛る火がくるくると振られる様は、四万十川流域の夏の風物詩でもある。

 「四万十川の天然アユは、頭からいけるよ」との親父さんに従い、手づかみでまずは頭からひと口。固いかと思ったらサクサクと歯ごたえよく、かみしめるたびに甘味が出てくる。ふた口目はワタにあたり、これが苦味とくせがなくこってりと濃厚な味わい。そして小柄ながら白身もびっしりとついていて、養殖の大振りで身が厚いがパサパサのに比べ、小振りな分味が凝縮した感じ。余分な脂は全くなく、いかにも天然物の質実剛健といった感じが、なかなかいい。アユを肴にここでビールが終わり、おかわりはそろそろ地酒といきたい。親父さんに、中村や周辺の蔵元の地酒がないか尋ねたところ、あいにく店では地酒は置いていないという。その代わりに進められたのが、「大土佐」という米焼酎。土佐の酒で「酔鯨」と並んで有名な、佐川町に蔵元がある「司牡丹」の酒蔵でつくっており、キリッと刺すような刺激が、川魚料理との相性がいいようだ。

 天然川魚の大関クラス・アユを平らげると、続いていよいよ横綱のお出まし、四万十川の天然ウナギの登場だ。コースの主役ということもあり、次の料理の合間に頂いていた川エビとゴリには悪いが後回しに、ウナギが焼き立てで温かいうちにひと口頂く。するとほっこりした食感の養殖ウナギと違い、身はネットリと粘りがありからみついてくるような強い味。土の香りは一片もせず、フルーティーで高貴な香りがあふれている。その後に、深みのある香りが楽しめる脂がたっぷりとしみ出てきて、これはウナギを超えた味わい、例えるならば上級の肉のサーロインステーキのような鮮烈さだ。とにかく今まで食べた天然物、養殖物を含めたあらゆるウナギの中で、ここまで旨さ云々を超えた凄みを感じるものはない。

 今や希少な天然ウナギの中でも、ここ四万十川産と同じ四国の吉野川産は、質の良さで知られている。天然物のウナギと聞くと、さぞかし味がいいのだろうと思われるかも知れないが、天然物のウナギは生育環境によって品質にばらつきがあり、天然物=味がいいとは必ずしも言えない。品質のばらつきに加え、水揚げが少ないため数も揃いづらく大きさもまちまちで、老舗の鰻屋でも仕入れに苦労しているほど。むしろ伝統の技術できちんと管理して飼育している養殖物の方が、品質も味も一定、安定して店に供給できるのだ。今では日本で消費されるウナギは、中国からの輸入物がほとんどの中、昔からの養鰻地である浜名湖や宮崎・鹿児島の「養殖物」が、近頃では国産ブランドウナギとして認知されているようだ。

 そんな中、四万十川は全国でも比較的天然物のウナギの水揚げ量が多い。エサとなるカニやエビが豊富なこと、川底が砂のため泥臭さがないこと、産卵前のウナギが河口域の汽水域で海に向かう準備をするため脂がのっているなど、味が良くなる条件も揃っている。とはいえ希少なのはよそと同様で、天然物のウナギは一般の市場にはほとんど出回らず、川漁師と取引がある料理屋などだけで出される、いわば「幻のウナギ」。値段も養殖ウナギの倍以上というから、これも料理屋が気軽にお客に出せない理由のひとつのようだ。漁法は、河口域では1本の釣り糸に何本もの枝針をつける「延縄」に、ゴリや川エビを狙う「柴漬け漁」、さらに石を積んでウナギの住処をつくり、それを崩しながらあわてて逃げるウナギを、ハサミのような漁具で挟んで捕らえる「石ぐろ漁」なんてユニークな漁法も。アユ同様、6月の梅雨時がもっとも味がいいとされるほか、産卵前の9月のウナギもうまいという。

 さっきの天然アユは天然物は引き締まって精悍な顔つきだったが、ウナギは天然物の見分け方があるのか親父さんに尋ねたところ、天然ものは胸の部分が黄色いのが特徴、と教えてくれた。胸が黄色いから「胸黄」、それがウナギに転じた、なんて話を思い出しながら、残る蒲焼も「大土佐」の杯を傾けつつ平らげた。普通の鰻丼や鰻重に比べ、小ぶりな蒲焼がふた切れだけとちょっと寂しいが、あまりに鮮烈なうまさと旨味たっぷりの脂ののりに、これだけで充分に満足。欲を言えば鰻重で食べたかったが、まだコースは途中でご飯はまだだったのが残念か。締めくくりのご飯の前に、「大土佐」をもう一杯、そして肴に料理がもう一品ほしくなる。そこで高知定番のあの料理を頼んでみたのだが、出てきた料理は…。 以下、土佐の「塩タタキ」は次回にて。(2006年8月6日食記)