ウマさ特盛り!まぜまぜごはん~おいしい日本 食紀行~

ライター&編集者&散歩の案内人・上村一真(カミムラカズマ)がいざなう、食をテーマに旅をする「食紀行」を綴るブログです。

町で見つけたオモシロごはん26…横浜・高島屋 『ジェラテリア パンチェーラ』の、イタリアンジェラート

2006年01月16日 | ◆町で見つけたオモシロごはん
 4才になる娘はいま、アイスクリームに目がない。いい子にしてたらごほうびはアイス、機嫌が悪いときの特効薬はアイス、お散歩のときのおやつはアイスと、とにかくアイスさえあればどんな時もご満悦といった感じである。夏場はもちろん、寒波が厳しいこの冬もお構いなしとばかり、ねだっては寒い中でも平気でうれしそうに食べているほど。マイブームもここまで貫き通せば大したものだ。

 年末の買い出しで横浜を訪れたときも、かなり寒い日だった。1日中年賀や衣類などの買い物に子ども達をつき合わせたため、夕方になると少々お疲れでご機嫌斜めの様子。早々に引き上げて夕食にしようと、クルマを停めてあった横浜高島屋に着いたとたん、例によって娘が騒ぎ出す。以前、1度ここの地下でアイスを食べたことを、しっかり覚えていたのである。食への好奇心というか執着心はさすが、親譲りといったところか?

 いったん言い出したら食べないと収まらないので、地下2階にある『ジェラテリア・パンチエーラ』へとみんなで向かうことに。いわゆる「デパ地下」食品街にあるテイクアウト形式のアイスクリームショップで、ほか新宿店など高島屋の一部の店舗にも出店している。横浜店のショップはフロアの奥まったところにあるため比較的空いており、すぐそばに駐車場階へ行けるエレベーターがあるので帰宅前のひと息に便利だ。店頭にはイスも数脚あり、ここで食べていけるのもありがたい。子ども達はすでに店内のアイスボックスの前で、お気に入りのを選んでいるようである。

 ここはイタリアンスタイルのジェラートアイスの専門店で、店名のジェラテリアとはイタリア語で「アイスクリームショップ」の意味。イタリアのアイスクリーム職人である、オーナーのパンチェーラ氏直伝の本場ジェラートが味わえるとあって、買い物客をはじめいつも店頭に行列ができる人気店だ。列に並んで順番が回ってきたら、まずはサイズを決めることに。コーンかカップ、それぞれシングルかダブルが選べるとあり、みんながシングルを頼む中、自分はついダブルを注文してしまった。多忙だった年末のおかげで少々疲れがたまったか、甘いものがやたら欲しくなってしまった。

 そしてメニューを選ぶのだが、30種類近くもあり目移りがしてしまう。定番のチョコレートやバニラ、ヨーグルト、抹茶に紅茶、季節の果物も豊富に取りそろえグレープフルーツにりんご、カシスなどなど。さらに「プレミアム」と称するちょっと高めのもあり、宇治抹茶、蜂蜜バニラ、ジャージー牛乳、丹波大納言と見ていると何だかうまそうだ。迷った上でチョコチップと小倉に決定、アイスが2山盛られたコーンを、子ども達がちょっとうらやましそうに見ている。

 みんなはすでに店頭のイスに座って先に頂いているようで、こちらもコーンに山盛りのアイスを備え付けのスプーンで交互に頂く。何だか和洋折衷のようになってしまったが、小倉あんと小豆の素朴な甘さ、牛乳たっぷりのジェラートに香ばしい甘さのチョコチップと、対照的な甘さが舌にうれしい。本場イタリアのジェラートは、脂肪分と砂糖が少なく低カロリーである上、素材のフルーツや牛乳は鮮度のいいものをふんだんに使っているため、あっさりした味わいが特徴。さらりとさっぱりした食感で食べやすく、これならおとなにも好まれる訳である。娘はさすがに食べるのが早く、お気に入りのを平らげてご満悦の様子。おかげでこちらもご相伴に預かることができ、何とも光栄である。(2005年12月29日食記)

極楽!築地で朝ごはん18食目…『つきじ寿司』の、6色だが色鮮やかなレインボー巻き寿司

2006年01月15日 | 極楽!築地で朝ごはん
 ここまでほぼ毎朝、築地場外の飲食店を20軒ほど食べ歩いてきたが、築地といえば外せないあのジャンルの店が、未だ1軒も紹介されていないのにお気づきだろうか。そのジャンルとは「寿司」。実は当初、寿司屋は朝の食べ歩きから除外するつもりだった。理由は単純で、値段が高いから。築地のガイドブックにはトロやウニ、イクラなど極上のネタを使った握りがきれいな写真で掲載されていて、「おまかせ」や「特上」と称して1人前3000円程度とある。築地周辺の寿司屋のほとんどが、最上クラスの盛り合わせはこの値段で合わせているといわれており、これでは朝ごはんどころか、晩御飯でだって毎日気軽に食べられる値段ではない。

 そんな方針を変更することに決めたのは、築地6丁目のその名も『つきじ寿司』を訪れてからだ。店の前を通りかかった時、店頭の看板に大書された「ランチは1050円」の文字に思わず足を止めたが、寿司屋だしランチでは朝食の食べ歩きには関係ないか、と思い返す。するとその横には何と、「ランチは7時から」。そういえば築地時間のランチはその頃合からだなあ、と再び思い返して苦笑い。寿司といってもこの値段なら無理なく頂けるので、この日のランチというか朝食はここに決め、暖簾をくぐることに。店内はカウンターがぐるりと伸びていて、いかにも寿司屋といった感じの店である。

 お茶を運んできたおかみさんにランチの握りをお願いして、非常に愛想のいい親父さんとカウンターを挟んでしばらく談笑する。場外のはずれにあたるここ築地6丁目界隈は、一般の買い物客や観光客で込み合う場外の中心部を避けて、仕事帰りの河岸の人が飲みに来る穴場的店が中心という。ここ2、3日通っていると、確かにそうしたこぢんまりした飲み屋や、隠れ家風の料理屋をちらほら見かける気がする。「ほかにも銀座や八丁堀のサラリーマンとか、茅場町の『株屋』もよく顔を出すよ。連中、朝が早いからね」と、築地のはずれにありながら、客層はビジネス街どまん中の社用寿司屋顔負けといった感じだ。

 ランチ握りは握り8カンに巻物つきで、1000円ちょっとという値段からすれば破格の内容である。しかも盛り合わせて出されるのではなく、1カンずつ握っては目の前のつけ台に出されるのが、回転寿司やチェーンの寿司屋と違い本格的でうれしい。寿司は握りたてが一番とばかり、マグロにサーモン、白身と、出てくる順にどんどん頂く。中でもマグロには特にこだわりがあり、長年取引のある仲卸業者に脂ののりがいいものを厳選して入れてもらっているという。大衆魚をネタにした握りもなかなかのもので、軍艦巻きの小柱はコリコリと甘く、アジも脂が程良くしっかりのっている。

 朝っぱらから贅沢に握りを楽しんだら、ここからがこの店ならではのオリジナル。名づけて「レインボー巻き」の登場だ。4つ並んだ中ぐらいの太さの海苔巻きの、断面の色鮮やかなこと。キュウリの緑、ヤマゴボウのオレンジ、タクアンの黄、マグロの赤、あとごはんの白とのりの黒を入れても1色足りないが、そこはまあご愛嬌か。彩りのよさももちろん、味のほうも山ゴボウとお新香の酸味に、マグロの赤身がしっかりと引き立てられている。田舎でお祭りのときに食べる太巻きを思い出す味わいで、目からも舌からも華やかな気分にさせてくれる。

 鯛やヒラメのあらでダシをとった、磯の香強いあら汁で締めくくり、「またどうぞ、夜はお酒だけでも結構ですからいらしてください」と気分良く見送られて店を後に。考えてみれば、寿司は何も特上を頼まなきゃいけないこともない。朝ごはんなら朝ごはんらしく、相応の値段のを注文すればいいのである。観光客御用達、しかも高価なガイドブックのおすすめ握りには目をつぶり、本編ではこれから1000~2000円の並寿司で手軽に朝ごはん、といくにしよう。(2004年6月18日食記)

極楽!築地で朝ごはん17食目…『めし丸』の、朝酒の市場男衆に混じって頂く刺身定食

2006年01月13日 | 極楽!築地で朝ごはん
 場外市場の最奥にあたる築地6丁目界隈は、ごった返す人ごみで賑わう場外の中心部と対照的な静かな雰囲気に、何とも惹かれるものがある。昨日訪れた天ぷらの「黒川」のように、市場食堂とはまたタイプの違った個性の強い飲食店が点在しており、ちょっと濃密な空気が漂っているよう。この日は一直線に、民家が集まる路地へと入り込み、昨日の「黒川」の向かいの『めし丸』へと足が向く。昨日も中を覗いてみたものの、ちっぽけなカウンターには市場で仕事を終えたばかりの常連ばかりと、とても一見で入れなさそうなムードだったこの店が、どうにも気になって仕方がなかったからである。

 アルミサッシの扉をがらりと開けると6席ほどの小さなカウンターがあり、テーブル席は隣の民家との狭い路地に「オープンエア」の特別席? が設けられている。すでに河岸で仕事を終えた客が数人、仕事帰りに一杯の時間のようで、この間誰々が酔って騒いで大変だったとか、誰々はもう36だけど結婚は… とか、河岸も時代に合わせて変わらないと… とか、酒の席らしく硬軟取り混ぜた話題が飛び交っている様子。まさに河岸の社交場的な店で、思っていたよりも入りやすい雰囲気に安心して、カウンターの奥へと席をとった。カウンターの奥はまるで普通の家の台所のようになっていて、まるで普通の民家を改造したようなこぢんまりした店である。

 店内には手書きの品書きが数多く掲げられ、カツオやマグロの刺身や盛りあわせ、定食、どんぶりなど、どれも魅力的。中でもこの日の「刺身定食」はマグロの赤身と中トロ、イカ、金目、アジの4種盛りとあり、850円という値段の割には充実しているのでこれに決め、カウンター越しにご主人に注文する。それに合わせるかのに、隣で討論していた河岸の若衆風の男が、ジョッキでチューハイをお代わり。いつから飲んでるのか知らないが、前にはかなりの数の空いた皿が並んでいる。夜中の2時、3時に市場に入る彼らにすれば、朝の9時過ぎなどまだまだ宵の口なのだろう。

 酔客で賑わうカウンターとは対照的に、その向こうでひとり黙々と調理を進めているご主人は、東京や大阪の寿司店での修業経験があるという。料理に使う魚介は、自ら吟味して仕入れており、一品料理も丼物も定食もいずれも、味の良さには信頼がおける。刺身定食は大きな青い角皿に、色とりどりの刺身に厚焼き玉子と大盛りで、種類が多い分、様々な味が楽しめるのがうれしい。イカはねっとりせずパキパキと新鮮、アジは脂が濃厚、ふわりとした歯ごたえのトロも脂がしっかりのって甘い。醤油とみりんで甘辛く煮付けるのが定番の金目鯛を刺身で頂くのは珍しく、トロよりもさらに強いトロリとした甘みが、口の中に広がっていく。ややマグロに筋、イカに固いところがあるが、値段からすればご愛嬌の範囲内か。みそ汁と小鉢が付いており、カウンター上の大皿に盛られた卯の花をよそった小鉢が、家庭料理的な素朴でいい味を出している。

 居酒屋でよそ者がひとり、酒を飲まずにご飯を食べているような気分で黙々と飯を食い、きれいに平らげて支払うと「まいどどうも」とご主人。ちょっと場違いな一見客に対して、常連扱いのようで何だかうれしい。小さいが実力派の店が点在する築地6丁目界隈、ちょっと築地の空気に慣れてきた今時分には、鮮烈でなかなか刺激的なエリアである。(2004年6月17日食記)

旅で出会ったローカルごはん30…仙台・牛タン通り 『伊達の牛たん本舗』の、味噌と塩が選べる牛タン定食

2006年01月11日 | ◆旅で出会ったローカルごはん
 昨年は「楽天イーグルス」の誕生で話題となった仙台。合わせて仙台の名所や名物も全国から注目されることとなったから、プロ野球チームができた宣伝効果は大きいものである。そんな、話題の名物の筆頭にあげられるのが仙台の牛タン。炭火で焼いた牛タンの皿にはみそ漬け唐辛子(味噌南蛮)と白菜の浅漬けが添えられ、麦飯にテールスープがつくのが基本形のこの料理、市街に専門店が60~80軒ほどあるといわれ、仙台庶民の味としてしっかり浸透しているようだ。一方、値段はどこもほぼ同じで1000~1500円。もとは肉をとって残った不要な部分を食用にと考案した料理なのに、思えば結構な値段だ。最近ではBSEの影響による素材の高騰もあるが、もともと牛1頭から可食部位が意外ととれないことが大きな原因のようである。1本1~2キロの原材料のうち、柔らかく味がいい部分はおよそ半分。人数で割ると3~4人前程度だから大変だ。店ごとに使う部位にこだわりがあり、その呼び方も様々のよう。以前紹介した「一仙」(旅で出会ったローカルごはん3参照)の「真とろたん」のように、牛1頭から数枚しかとれない、などと希少さをアピールされると、もはや庶民の味でなく厳選した食材の高級料理を食べているような気分になってしまう。

 昨日は丸1日、市街から青葉城まで取材で広く巡ってくたびれたものの、お昼に牛タン定食を頂いてスタミナを補給した結果、夜はバッチリ国分町の繁華街を取材? することができた。これにて仕事は完了し、強は朝の新幹線で東京へと戻らなければならない。ホテルを慌ただしく出発、朝食は駅弁でも買って移動の車内ですませようとしたところ、仙台駅の新幹線改札横に「牛タン通り」と称した飲食店街があるのを見つけた。また朝の8時過ぎでも、すでにやっている店があるのがさすがは仙台。白い暖簾がひるがえる『伊達の牛たん本舗』で、ありがたく「モーニング牛タン」を頂いて、仙台の旅を締めくくることにした。

 仙台駅ビルの3階にあるこの飲食店街には、ほかに「利休」や「たん助」など、市街でも名の知れた牛タン専門店が5軒並んでいる。「伊達の牛たん本舗」も、市街に数軒の支店を持つ有名店だ。駅ビルにあるからか店内は小綺麗で居心地が良く、まるで喫茶店のよう。店のおばちゃん、というよりウェイトレスといった感じの女性から手渡されたメニューによると、数量限定の看板メニュー「極上芯たん定食」というのが魅力がある。聞くと「タンの真ん中あたり、一番動かないところで、スジが全くなく柔らかです。例えれば、マグロの大トロのようにジューシーですよ」。昨日の「一仙」の真とろたん同様、この店のこだわりの部位らしい。1本から2~3枚しかとれない貴重品で、霜降りたっぷりで肉厚なのが特徴とか。1890円と値が張るけれど頼んでみるか、と思ったら残念ながら、この時間はまだ扱っていないとのこと。20食限定だが、あっという間に売り切れてしまう人気のメニューという。

 結局、タン焼きにテールスープ、漬物、味噌南蛮つきの定番「牛タン定食」1470円を選ぶことにした。この店の牛タンの味付けは、塩か味噌を選べるのが面白い。「味噌は仙台味噌の辛味噌を使っています。おすすめは塩の方ですね」と店の人、ミックスもできるので、せっかくだから両方お願いすることにした。運ばれてきた白い大きめの角皿の中央には、味噌と塩が上品に4切れずつ並んでいる。味噌はさっとからめてから焼き、仕上げにさらにからめてあるという。香ばしく甘い香りがするのを、まずひと切れ。仙台味噌独特の丸みのある甘みで、粒がやや残っているので香りが強い。しっかり漬けてあるため肉が柔らかくふわり、辛味は程々で、後からツンとくる程度。これはご飯が進む味付けで、朝からお代わりしてしまった。一方、塩の方はサクサク、シャクシャクとした歯応えの後に肉の香ばしさがパッ、後から肉汁の旨みがどんどんやってくる感じ。味はシンプルだが、こちらのほうが牛タンの旨さがストレートに楽しめる。

 合間に味噌南蛮とスープでひと息ついて、肉をつまみ飯を再びかきこむ。この味噌南蛮が強烈で、肉の辛味噌よりよっぽど辛く、うかつに丸かじりすると火を噴いてしまいそうだ。すぐ上の階が新幹線のホームなのがありがたく、列車の発車間際までお茶を頂きながらのんびりする。改札をくぐろうとすると、手前には牛タンのパックのほか笹かまぼこ、銘菓「萩の月」、小茄子の漬け物など、名物の売店があるわあるわ。仙台始発の新幹線なら座れるから、指定の列車から1本遅らしてちょっと覗いていくとするか。(2005年4月18日食記)

極楽!築地で朝ごはん16食目…『天麩羅黒川』の、エビ天3本にこだわり野菜の上天丼

2006年01月10日 | 極楽!築地で朝ごはん
 新大橋通りの商店街から築地中通り界隈の賑わうエリアには、このところかなり足を運んでいる。毎日このあたりをぶらぶら食べ歩いていると、行ったことがある店をぼちぼち見かけるようになり、何だか築地の常連になったような錯覚に陥ってしまう。とはいえまだまだ、築地は場外も場内もだだっ広い。この日はちょっと目先を変えて、今まで行ったことのない築地6丁目方面まで遠征することに。このあたりまでくると場外中心部の賑わいはなく静かで、問屋のような専門店が中心らしく人通りもそれほどない。時折業者風の人が、大きな荷物を抱えて足早に行き交っている。
 
 土地勘がないから足の向くままどんどん進むと、次第に民家が建て込んだ路地へと入り込んでいく。家と家が顔をつきあわせるように間近に迫り、何だか迷路のような所だ。そんな一画にも飲食店はちらほらあるが、数人分のカウンターだけで常連らしい市場で働く客が「晩酌」で盛り上がっていたり、食堂らしいが看板が掲げられていなかったりと、一見の客はちょっと入りづらそうだ。、そんな中、隠れ家風の割烹か小料理屋といった感じのいい雰囲気の店を見かけた。行ってみると『黒川』という屋号の天ぷら屋のようで、まだ9時なのに開いている様子。築地で天ぷらは初体験だが、市場に隣接した天ぷら屋とくれば何だか期待ができる。

 店内は5席のカウンターほかテーブルが2つと小ぢんまりしていて、カウンターの向こうではご主人が仕込み中の様子。店内は市場の食堂らしからぬ? 小綺麗さで、BGMはクラシックと市場の喧噪とはまるで別世界だ。品書きによると定食類もあるようだが、市場の朝ご飯といくならここは天丼といきたい。上天丼を頼み、しばらくして運ばれてきた丼を見てびっくり。エビ天が3本、アナゴが2本とこれだけで充分満足なのに、さらにイカ、各種野菜と目白押しで、ご飯が見えないほどだ。雰囲気はちょっと上品な店でも、料理のボリュームはやはり市場級のようである。

 揚げたて熱々のうちにさっそくエビから頂くと、細いが歯ごたえはほっくり、中はしっとりと上手に揚がっており、エビの甘みがしっかりと生きている。アナゴは対照的に土の香りが鮮烈で、後から白身の上品な味わいが広がってくる。タネの魚介はいずれも、市場内の仲卸から仕入れる鮮度バツグンの魚介を使用。揚げ油にはごま油とサラダ油をうまく調合して使い、外はカラリ、中はしっとりした絶妙の揚げ加減に店主の黒川さんの技が光る。いずれも衣は薄めでくどくなく、ネタの味がしっかり強調されているよう。魚介のほか、店主がこだわりをみせるのは野菜の天ぷらで、所沢や千葉の鴨川など契約農家から仕入れる季節ごとの有機野菜は、150種類以上に及ぶとか。この日の野菜は何と、西洋野菜のズッキーニ。ねっとりとジューシーな食感が口直しにはなかなかいい。ほかにもアスパラガスやモロヘイヤなど、個性的な野菜が天ぷらに意外に合うようだ。

 熱いうちに天丼を一気に頂いた後、天かすを浮かべたみそ汁で締めくくりとする。素材の良さで勝負の、ボリュームとスタミナ重視の市場食堂を巡り歩いていると、素材の味を繊細かつ上品に引き出した料理はインパクト充分。こんな人目に付かない路地裏で、こだわりの本格的な天ぷらが味わえる。築地の味も、まだまだ奥が深く、常連面するにはまだまだ早い? (2004年6月16日食記)