現在住んでいる横浜の杉田へ引っ越して間もない頃、結構ひいきにしていたカレーの店があった。店の名は『バーグ』。京急杉田駅前の商店街をJR新杉田駅へ向かって抜けたところ、国道16号線に面していて、黒板を使った山小屋風の外観が異彩を放っていた。しっかり煮込んで深みのある濃厚なルーが自慢のカレーはもちろん、サイドメニューも定評があり、ハンバーグや目玉焼き、焼肉、フライなど種類は豊富。まだ20代で馬力もあり、ガンガン仕事をして底抜けに腹が減ったときは、実に強い味方だった。
その後、店がある新杉田駅前の区画が再開発されることになり、残念ながらしばらく休業となってしまった。その場所に2004年秋、ショッピングモールとマンションをドッキングさせた「らびすた新杉田」が完成、「バーグ」もテナントとして入ったが、実はそれからは訪れずじまい。20代の頃ほど量を食べなくなったということに加え、工事中に仮店舗へ訪れた時、ルーが病みつきになった香ばしく濃厚な味わいから、甘めのあっさり味へと変わってしまったことが大きな理由だ。かつての味が新店舗になってからは復活したか否か、知りたいようで知らないほうがいいようで、といった心境である。
そして再訪の時は突然やってきた。例によって朝から忙殺されて昼飯抜きの空きっ腹、しかも京急杉田駅からお気に入りの飲食店を訪ね歩くものの、いずれも満席か休業ばかり。店が決まらないまま、「らびすた」まで来てしまい、昔なじみだったあの店へつい、足が向いてしまった。かつてのワイルドな山小屋風の外観から一変、ビルの2階の小じゃれたスタンドカレー店へと変貌しているが、店頭のショーケースにはハンバーグカレー、オムレツカレー、カツカレーのサンプルがドン、と並び、ボリュームは相変わらずだ。そして懐かしの「スタミナカレー」も健在なのがうれしい。品書きには30年来のお勧めメニューとあり、カウンターに腰掛けて迷わず大盛りで注文すると、「玉子はどのようにしましょうか?」。生卵と目玉焼きが選べるとのことで、決めようとしたら「『生』ひとつ!」「こっちは『焼き』追加で!」と、常連客の符丁が飛び交うのが耳に入ってきた。客の多くは学生かサラリーマンで、肉体労働者の姿もちらほら。体格のいい大男が「肉を大盛りで」と、威勢のいい大声も響く。
かつてルーの味ですっかりファンになってしまったこの店、界隈では味以上に豪快なボリュームが評判を呼び、カレーファンをはじめB級グルメマニアに知られた存在だそうである。ここを含め市内に3店舗あり、横浜駅に近い戸部店は飽食系グルメ番組(笑)のテレビ東京「でぶや」でも取り上げられたとか。先ほど書いた店頭のメニューのほかにも、豚ヒレカツカレーやロースカツカレー、さらに150グラムの肉を使った牛サーロインカレー、牛ヒレステーキカレーと、本職のとんかつ家、ステーキ屋びっくりの豪華迫力カレーも用意されている。看板のスタミナカレーはひとことで言えば、普通のカレーに豚肉の生姜焼きを半端じゃない量トッピングしたもの。カウンター越しの厨房では、3人のお兄さんが右へ左へと奮闘中で、タライほどの巨大なフライパンで山盛りの豚肉がどっさり炒められ、その横では厚切りのステーキ肉がひっくり返されたりと、とてもカレー屋には見えない調理風景である。
オーダーして間もなく運ばれてきた大皿が、目の前に置かれて思わず沈黙、迷わず注文した大盛りにもっと迷っておけば、という気持ちでいっぱいになってしまった。山のように盛り上がったご飯は、どんぶり換算で数杯分はあるのではないか。山の頂にはでん、と鎮座する目玉焼き、頂上から山裾にかけては生姜焼きが覆いつくし、カレーのルーが見えないほど。皿には空いたスペースがほとんどなく、たまに飲食店のアトラクションで見かける、「ジャンボメニューにチャレンジ・全部食べたら賞金進呈」といった勢いだ。人気メニューだけに頼んでいる客も多いようで、まるでショベルカーのようにスプーンでガバッとすくいあげては、威勢よくじゃんじゃん口へ運んでいる。
こちらもご飯とルー、そしてたっぷりの生姜焼きをのせてバクッ。覚悟していたがルーはやはり甘く、山小屋時代の味はやはり変わってしまったようだ。それが味が軽くなった分お腹に入りやすくなったようで、香ばしい肉にも相性バッチリと、改めて食べてみるとこれはこれで悪くないと思えてきた。山盛りご飯をカレーごとザクッといっては、肉を数切れ口へ放り込み、をどんどん繰り返し、ちょっと飽きたら玉子をつぶし、白飯と混ぜて頂き口直しに。それにしてもご飯の量が半端ではないため、先にルーだけなくなってしまった。途中からは残ってしまったご飯の山を、生姜焼きと薬味代わりに置かれているキュウリの漬物をおかずにして食べ進めることに。これではまるで、特盛り生姜焼き定食だ。
大盛りを注文しながら残すのは、仁義にもとる情けないことだが、どう言われてもこれだけの量の完食は無理、というか無茶。3食分以上に相当するご飯を一度に食べたら、体がどうかしてしまうだろう。生姜焼きは何とか平らげ、皿の上に半分弱の白いご飯だけ残った状態で、ごめんなさいのごちそうさま。店を後にしながら、昔はこんなに多かったっけか、と満腹で苦しい腹を抱えつつ記憶をたどってみる。これだけ「空腹破壊力」が強すぎると、さすがにしょっちゅうは食べに来れないだろうが、ジャンジャン働きバリバリ食ってたあの頃のパワーを思い出すために、たまにはチャレンジャー気分で? 挑んでみるのもいいかも知れない。(2005年12月17日食記)
その後、店がある新杉田駅前の区画が再開発されることになり、残念ながらしばらく休業となってしまった。その場所に2004年秋、ショッピングモールとマンションをドッキングさせた「らびすた新杉田」が完成、「バーグ」もテナントとして入ったが、実はそれからは訪れずじまい。20代の頃ほど量を食べなくなったということに加え、工事中に仮店舗へ訪れた時、ルーが病みつきになった香ばしく濃厚な味わいから、甘めのあっさり味へと変わってしまったことが大きな理由だ。かつての味が新店舗になってからは復活したか否か、知りたいようで知らないほうがいいようで、といった心境である。
そして再訪の時は突然やってきた。例によって朝から忙殺されて昼飯抜きの空きっ腹、しかも京急杉田駅からお気に入りの飲食店を訪ね歩くものの、いずれも満席か休業ばかり。店が決まらないまま、「らびすた」まで来てしまい、昔なじみだったあの店へつい、足が向いてしまった。かつてのワイルドな山小屋風の外観から一変、ビルの2階の小じゃれたスタンドカレー店へと変貌しているが、店頭のショーケースにはハンバーグカレー、オムレツカレー、カツカレーのサンプルがドン、と並び、ボリュームは相変わらずだ。そして懐かしの「スタミナカレー」も健在なのがうれしい。品書きには30年来のお勧めメニューとあり、カウンターに腰掛けて迷わず大盛りで注文すると、「玉子はどのようにしましょうか?」。生卵と目玉焼きが選べるとのことで、決めようとしたら「『生』ひとつ!」「こっちは『焼き』追加で!」と、常連客の符丁が飛び交うのが耳に入ってきた。客の多くは学生かサラリーマンで、肉体労働者の姿もちらほら。体格のいい大男が「肉を大盛りで」と、威勢のいい大声も響く。
かつてルーの味ですっかりファンになってしまったこの店、界隈では味以上に豪快なボリュームが評判を呼び、カレーファンをはじめB級グルメマニアに知られた存在だそうである。ここを含め市内に3店舗あり、横浜駅に近い戸部店は飽食系グルメ番組(笑)のテレビ東京「でぶや」でも取り上げられたとか。先ほど書いた店頭のメニューのほかにも、豚ヒレカツカレーやロースカツカレー、さらに150グラムの肉を使った牛サーロインカレー、牛ヒレステーキカレーと、本職のとんかつ家、ステーキ屋びっくりの豪華迫力カレーも用意されている。看板のスタミナカレーはひとことで言えば、普通のカレーに豚肉の生姜焼きを半端じゃない量トッピングしたもの。カウンター越しの厨房では、3人のお兄さんが右へ左へと奮闘中で、タライほどの巨大なフライパンで山盛りの豚肉がどっさり炒められ、その横では厚切りのステーキ肉がひっくり返されたりと、とてもカレー屋には見えない調理風景である。
オーダーして間もなく運ばれてきた大皿が、目の前に置かれて思わず沈黙、迷わず注文した大盛りにもっと迷っておけば、という気持ちでいっぱいになってしまった。山のように盛り上がったご飯は、どんぶり換算で数杯分はあるのではないか。山の頂にはでん、と鎮座する目玉焼き、頂上から山裾にかけては生姜焼きが覆いつくし、カレーのルーが見えないほど。皿には空いたスペースがほとんどなく、たまに飲食店のアトラクションで見かける、「ジャンボメニューにチャレンジ・全部食べたら賞金進呈」といった勢いだ。人気メニューだけに頼んでいる客も多いようで、まるでショベルカーのようにスプーンでガバッとすくいあげては、威勢よくじゃんじゃん口へ運んでいる。
こちらもご飯とルー、そしてたっぷりの生姜焼きをのせてバクッ。覚悟していたがルーはやはり甘く、山小屋時代の味はやはり変わってしまったようだ。それが味が軽くなった分お腹に入りやすくなったようで、香ばしい肉にも相性バッチリと、改めて食べてみるとこれはこれで悪くないと思えてきた。山盛りご飯をカレーごとザクッといっては、肉を数切れ口へ放り込み、をどんどん繰り返し、ちょっと飽きたら玉子をつぶし、白飯と混ぜて頂き口直しに。それにしてもご飯の量が半端ではないため、先にルーだけなくなってしまった。途中からは残ってしまったご飯の山を、生姜焼きと薬味代わりに置かれているキュウリの漬物をおかずにして食べ進めることに。これではまるで、特盛り生姜焼き定食だ。
大盛りを注文しながら残すのは、仁義にもとる情けないことだが、どう言われてもこれだけの量の完食は無理、というか無茶。3食分以上に相当するご飯を一度に食べたら、体がどうかしてしまうだろう。生姜焼きは何とか平らげ、皿の上に半分弱の白いご飯だけ残った状態で、ごめんなさいのごちそうさま。店を後にしながら、昔はこんなに多かったっけか、と満腹で苦しい腹を抱えつつ記憶をたどってみる。これだけ「空腹破壊力」が強すぎると、さすがにしょっちゅうは食べに来れないだろうが、ジャンジャン働きバリバリ食ってたあの頃のパワーを思い出すために、たまにはチャレンジャー気分で? 挑んでみるのもいいかも知れない。(2005年12月17日食記)