ウマさ特盛り!まぜまぜごはん~おいしい日本 食紀行~

ライター&編集者&散歩の案内人・上村一真(カミムラカズマ)がいざなう、食をテーマに旅をする「食紀行」を綴るブログです。

町で見つけたオモシロごはん24…新杉田 『杉田家』の、本家吉村家直系の家系横浜ラーメン

2006年01月05日 | ◆町で見つけたオモシロごはん
 札幌や博多、喜多方といったメジャー麺どころに肩を並べるほど、横浜のご当地ラーメンが注目され始めたのはいつ頃からだろうか。トンコツベースの醤油味のスープに太めの麺、麺のゆで加減とスープの味を調整できる、というあたりが大きな特徴で、「家系」との俗称を聞いたことがある人も多いだろう。その発祥の店がかつて、自分の最寄りの新杉田にあったとは知らなかった。その名も「吉村家」。1974年の開業以来トンコツベースの醤油ラーメンひと筋で、この味を引き継ぐ300人あまりの弟子や孫弟子を持つ、文字通り家系の総本山だ。ここから横浜家系ラーメンが市内全域へと展開していった… と言いたいところだが、「○○家」という店名でもブームに便乗しただけで吉村家とは無関係だったり、逆に吉村家で修行をしたが屋号に「家」をつけなかったりと、本家の流れを汲む店を見分けるには少々面倒なよう。同じご当地ラーメンでも、地域を挙げてトンコツラーメンが看板の博多、同じく味噌ラーメンの札幌などとは、いく分様子が異なるようである。

 吉村家は現在、横浜駅西口に移転していて、かつて吉村家があった場所のすぐ近くに『杉田家』という店が営業している。ここの店主は吉村家で修行をしたのはもちろん、店は吉村家の直系を名乗れるわずか6店舗のひとつに数えられているほど。つまり味は本家の折り紙付き。クリスマスイブの24日、家庭のパーティーの買い出しついでに、杉田の商店街から足をのばして訪れてみた。店頭の大きな赤いシートに「家系発祥」「家系総本山」と大書されている他はシンプルな店構えで、街道筋のごく普通のラーメン屋といった感じ。何度か店の前を通ったときはいつも店頭に10人程度が待っていたが、クリスマスイブの午前中だからか運良く2、3の空席があったので、ありがたく並ばずに店内へと入る。

 店内もカウンターのみ、余計な装飾や調度はなく極めて簡素である。席に着くと目の前に大きな寸胴鍋が配置されていて、トンコツやガラが時折ドサッ、と放り込まれては、テニスラケットの親分のような道具でガツガツかき混ぜられている。厨房内の職人達はみんな無口で、名店らしく張りつめた空気が漂っているようだ。その一方で、外にできた行列の客にイスを勧めたり、子連れの客に「寒いねえ。なに食べる?」と愛想が良かったりと、お客にはなかなかフレンドリー。「いらっしゃいませえ~っ!」「おはよおございまぁ~っす!」と威勢のいい声が店内によく響く。

 ラーメンの有名店や老舗と聞くと、きちんと座って店主の指示通りに黙って真剣に食べないと怒られるのでは、と思ってしまうが(ガチンコラーメン親父の佐野実の店ではないが?)、壁に貼られた「おいしい召し上がり方」によると、この店のラーメンの食べ方はお客の好み次第で自由気ままだ。何といってもテーブルに置かれた薬味の種類がすごい。全部挙げると無臭ニンニクに揚げニンニク、おろしショウガと刻みショウガ、唐辛子と辛子味噌、さらに行者ニンニクに酢、コショウとその数10種類近く。これに加えて家系ラーメンの特徴である、麺のゆで加減にスープの味の濃さ、脂の量の調整ができるから、まさにセミオーダー感覚である。並ラーメンと煮玉子の食券をカウンター越しに手渡しながら、ゆで加減も味の濃さも脂も普通で注文。味の調整も初めてなので、張り出されている指示通りに、コショウ少々、ニンニクと辛子味噌とおろしショウガをそれぞれスプーン半分、仕上げに酢を少々加えたら準備完了だ。

 丼の上に数枚のったのりをよけると、具はほかに青菜とチャーシュー1枚とシンプル。真っ茶色で結構色が濃く、レンゲですくうとドロリとした感じのスープをひと口すすると、かなり奥行きとふくらみのある味わいである。冷凍でない生のトンコツやガラを大量に使い、強力な火力で短時間で煮出すため、トンコツ独特の香りが強いがくせはさほど感じない。スープのボディがしっかりしているから、調味料や薬味をこれだけ入れても味はこわれず、ニンニクの強さ、ショウガの鮮烈さ、辛子味噌の刺激が引き立てあっているよう。特に酢のほど良い酸味がかなり後をひき、とまらないうまさだ。古くからのファンによると、数ある吉村家の流れを汲む店の中でも、杉田家がかつての吉村家の味にもっとも近いらしい。中には現在の横浜駅西口の吉村家を「越えた」という人もいるとか。

 太めの麺は、その濃いめのスープのおかげで見た目はやや茶色くしみている。ラーメンの麺の中ではかなり腰が強い方で、グイグイとした歯ごたえにしっかりしたのど越しと、食べ応え充分だ。スープの味のからみもよく、太さの割にはスルスルと進んでいく。瑞々しい食感の青菜、まるでベーコンのようにスモークが効いたチャーシューがいい箸休めとなり、インパクトが強い麺とスープを食べ続けても飽きることがない。ふと外を見ると店頭の行列がかなり伸びてきたので、平らげたらすみやかに店を後に。家系ルーツの流れを汲むこの店、名だたる名店の割には思ったより気軽で入りやすく、満州軒(町で見つけたオモシロごはん11参照)、卯月(同22参照)に並ぶ、杉田界隈のお気に入り3軒目になること間違いなしだ。(2005年12月24日食記)