ウマさ特盛り!まぜまぜごはん~おいしい日本 食紀行~

ライター&編集者&散歩の案内人・上村一真(カミムラカズマ)がいざなう、食をテーマに旅をする「食紀行」を綴るブログです。

極楽!築地で朝ごはん18食目…『つきじ寿司』の、6色だが色鮮やかなレインボー巻き寿司

2006年01月15日 | 極楽!築地で朝ごはん
 ここまでほぼ毎朝、築地場外の飲食店を20軒ほど食べ歩いてきたが、築地といえば外せないあのジャンルの店が、未だ1軒も紹介されていないのにお気づきだろうか。そのジャンルとは「寿司」。実は当初、寿司屋は朝の食べ歩きから除外するつもりだった。理由は単純で、値段が高いから。築地のガイドブックにはトロやウニ、イクラなど極上のネタを使った握りがきれいな写真で掲載されていて、「おまかせ」や「特上」と称して1人前3000円程度とある。築地周辺の寿司屋のほとんどが、最上クラスの盛り合わせはこの値段で合わせているといわれており、これでは朝ごはんどころか、晩御飯でだって毎日気軽に食べられる値段ではない。

 そんな方針を変更することに決めたのは、築地6丁目のその名も『つきじ寿司』を訪れてからだ。店の前を通りかかった時、店頭の看板に大書された「ランチは1050円」の文字に思わず足を止めたが、寿司屋だしランチでは朝食の食べ歩きには関係ないか、と思い返す。するとその横には何と、「ランチは7時から」。そういえば築地時間のランチはその頃合からだなあ、と再び思い返して苦笑い。寿司といってもこの値段なら無理なく頂けるので、この日のランチというか朝食はここに決め、暖簾をくぐることに。店内はカウンターがぐるりと伸びていて、いかにも寿司屋といった感じの店である。

 お茶を運んできたおかみさんにランチの握りをお願いして、非常に愛想のいい親父さんとカウンターを挟んでしばらく談笑する。場外のはずれにあたるここ築地6丁目界隈は、一般の買い物客や観光客で込み合う場外の中心部を避けて、仕事帰りの河岸の人が飲みに来る穴場的店が中心という。ここ2、3日通っていると、確かにそうしたこぢんまりした飲み屋や、隠れ家風の料理屋をちらほら見かける気がする。「ほかにも銀座や八丁堀のサラリーマンとか、茅場町の『株屋』もよく顔を出すよ。連中、朝が早いからね」と、築地のはずれにありながら、客層はビジネス街どまん中の社用寿司屋顔負けといった感じだ。

 ランチ握りは握り8カンに巻物つきで、1000円ちょっとという値段からすれば破格の内容である。しかも盛り合わせて出されるのではなく、1カンずつ握っては目の前のつけ台に出されるのが、回転寿司やチェーンの寿司屋と違い本格的でうれしい。寿司は握りたてが一番とばかり、マグロにサーモン、白身と、出てくる順にどんどん頂く。中でもマグロには特にこだわりがあり、長年取引のある仲卸業者に脂ののりがいいものを厳選して入れてもらっているという。大衆魚をネタにした握りもなかなかのもので、軍艦巻きの小柱はコリコリと甘く、アジも脂が程良くしっかりのっている。

 朝っぱらから贅沢に握りを楽しんだら、ここからがこの店ならではのオリジナル。名づけて「レインボー巻き」の登場だ。4つ並んだ中ぐらいの太さの海苔巻きの、断面の色鮮やかなこと。キュウリの緑、ヤマゴボウのオレンジ、タクアンの黄、マグロの赤、あとごはんの白とのりの黒を入れても1色足りないが、そこはまあご愛嬌か。彩りのよさももちろん、味のほうも山ゴボウとお新香の酸味に、マグロの赤身がしっかりと引き立てられている。田舎でお祭りのときに食べる太巻きを思い出す味わいで、目からも舌からも華やかな気分にさせてくれる。

 鯛やヒラメのあらでダシをとった、磯の香強いあら汁で締めくくり、「またどうぞ、夜はお酒だけでも結構ですからいらしてください」と気分良く見送られて店を後に。考えてみれば、寿司は何も特上を頼まなきゃいけないこともない。朝ごはんなら朝ごはんらしく、相応の値段のを注文すればいいのである。観光客御用達、しかも高価なガイドブックのおすすめ握りには目をつぶり、本編ではこれから1000~2000円の並寿司で手軽に朝ごはん、といくにしよう。(2004年6月18日食記)