握りずしや押し寿司、なれ寿司など、これまで全国各地の様々な寿司文化を紹介してきた。いずれも寿司が発祥してから進化していく過程で、それぞれの土地の文化や産業、風俗に密接に関わることで、独自のスタイルをつくり上げてきた。このたび訪れた岡山では、絢爛豪華で贅沢な「祭り寿司」が有名だ。酢飯の上に具をちりばめた、いわゆる「ばら寿司」文化圏にあるだけに、エビやアナゴなど各種瀬戸内の幸を始め、地の野菜や錦糸卵などバラエティに富んだ具材を種類豊富に盛り込んだこの寿司は、彩り鮮やかかつ見た目も華やか。祭りや祝い事があったときの「ハレ」の日にふさわしい料理である。
倉敷で美観地区を見た次の日は、岡山で後楽園を散歩した後で豪勢に祭り寿司を、といくつもりだった。ところがあいにく旅程に余裕がなく、岡山の町歩きは断念。本場の祭り寿司もまたの機会かな、と思っていたところ、帰りの新幹線に乗る直前に弁当を買おうと立ち寄った店で、運よく駅弁の祭り寿司を見つけることができた。パッケージには赤や黄、オレンジの派手な色で、桃太郎のイラストが描かれ、品名も「桃太朗の祭すし」とある。岡山駅で古くから駅弁を扱う三好野駅弁の、昭和38年の発売以来40年の人気を誇るベストセラー駅弁である。
東京へ向かう「のぞみ」号の車内に落ち着き、出発すると同時にさっそくパッケージを開く。すると中身は何と、桃。ネーミングに合わせ、桃の形をしたピンクの容器が実にユニークだ。駅弁といっても具の豊富さは文句なしで、ふたをあけるとたっぷりの錦糸卵の上に、色鮮やかなエビにはじまり、アナゴにシャコ、タコ、さらにママカリやサワラに藻貝など瀬戸内の豊富な魚介の数々。シイタケ、タケノコ、レンコンといった山の味覚もたっぷりと、何とも豪華である。
ハレの日の料理である祭り寿司だが、その成り立ちを追ってみると、江戸期に岡山藩主の池田光政が出した質素倹約令に由縁があるというから面白い。贅沢に対する取締りが厳しい中、庶民は何とかしてうまいものを食べたい。そこで寿司飯の中に豊かな山海の幸を混ぜ込んでしまい、分からないようにして食べることを思いついたという。倹約令への反動が、具だくさんのばら寿司が生まれる原動力になったとは、食に対する欲求というか執着心は、いつの世も変わらないものである。
これは最初からビールだな、と缶を開けて、お疲れ様の乾杯とともにたっぷりの具とともにまずはひと口。酢の締め具合がタネによって違い、エビはあっさり、ママカリはかなりしっかりと締めてあるなど、それぞれの持ち味をうまく出している。珍しいのはサワラ。味噌焼きやフライに使われることが多いこの魚、岡山では主に瀬戸内に面した日生などで水揚げされる高級魚として珍重されている。寿司ネタに使われるのもこの地ならではで、身の味が分かる程度に軽めに締めてありふっくら、ほろりとなかなかうまい。地元産の備前米を使った酢飯はやや甘めの味付けで、様々な具材の味をうまくまとめている。
いろいろな具を食べているうちに、岡山特産のママカリにも箸を伸ばす。岡山ではママ、つまりご飯を借りにいかなければならなくなるほど進むおかずとして知られ、小魚ながら実にいい味が出ている。三好野駅弁では確か、このママカリをタネに握った「ままかり寿司」も扱っていたことを思い出し、次に車内販売のワゴンが通りかかったら追加で頼んでみるか。もちろんママ、ではなくビールを「借りる」ことも忘れずに。(2月下旬食記)
倉敷で美観地区を見た次の日は、岡山で後楽園を散歩した後で豪勢に祭り寿司を、といくつもりだった。ところがあいにく旅程に余裕がなく、岡山の町歩きは断念。本場の祭り寿司もまたの機会かな、と思っていたところ、帰りの新幹線に乗る直前に弁当を買おうと立ち寄った店で、運よく駅弁の祭り寿司を見つけることができた。パッケージには赤や黄、オレンジの派手な色で、桃太郎のイラストが描かれ、品名も「桃太朗の祭すし」とある。岡山駅で古くから駅弁を扱う三好野駅弁の、昭和38年の発売以来40年の人気を誇るベストセラー駅弁である。
東京へ向かう「のぞみ」号の車内に落ち着き、出発すると同時にさっそくパッケージを開く。すると中身は何と、桃。ネーミングに合わせ、桃の形をしたピンクの容器が実にユニークだ。駅弁といっても具の豊富さは文句なしで、ふたをあけるとたっぷりの錦糸卵の上に、色鮮やかなエビにはじまり、アナゴにシャコ、タコ、さらにママカリやサワラに藻貝など瀬戸内の豊富な魚介の数々。シイタケ、タケノコ、レンコンといった山の味覚もたっぷりと、何とも豪華である。
ハレの日の料理である祭り寿司だが、その成り立ちを追ってみると、江戸期に岡山藩主の池田光政が出した質素倹約令に由縁があるというから面白い。贅沢に対する取締りが厳しい中、庶民は何とかしてうまいものを食べたい。そこで寿司飯の中に豊かな山海の幸を混ぜ込んでしまい、分からないようにして食べることを思いついたという。倹約令への反動が、具だくさんのばら寿司が生まれる原動力になったとは、食に対する欲求というか執着心は、いつの世も変わらないものである。
これは最初からビールだな、と缶を開けて、お疲れ様の乾杯とともにたっぷりの具とともにまずはひと口。酢の締め具合がタネによって違い、エビはあっさり、ママカリはかなりしっかりと締めてあるなど、それぞれの持ち味をうまく出している。珍しいのはサワラ。味噌焼きやフライに使われることが多いこの魚、岡山では主に瀬戸内に面した日生などで水揚げされる高級魚として珍重されている。寿司ネタに使われるのもこの地ならではで、身の味が分かる程度に軽めに締めてありふっくら、ほろりとなかなかうまい。地元産の備前米を使った酢飯はやや甘めの味付けで、様々な具材の味をうまくまとめている。
いろいろな具を食べているうちに、岡山特産のママカリにも箸を伸ばす。岡山ではママ、つまりご飯を借りにいかなければならなくなるほど進むおかずとして知られ、小魚ながら実にいい味が出ている。三好野駅弁では確か、このママカリをタネに握った「ままかり寿司」も扱っていたことを思い出し、次に車内販売のワゴンが通りかかったら追加で頼んでみるか。もちろんママ、ではなくビールを「借りる」ことも忘れずに。(2月下旬食記)