白壁土蔵の美しい街並みで知られる、岡山県の倉敷を訪れることになった。倉敷川沿いの街並みを散策して、大原美術館で西洋画を鑑賞してとんぼ帰りと、旅程は少々せわしない。東京を早朝発の新幹線に乗り岡山で下車、山陽本線の普通列車に乗り継いで、倉敷には11時ごろに到着。駅に隣接するホテルに荷物を置くのもあわただしく、さっそく町歩きに出発である。
白壁の建物が集中する「美観地区」は駅から歩いて15分ほど、ひと通り散歩しても2時間程度だから、先に昼食を頂くか、散策してから遅いお昼をゆっくり頂くか迷うところだ。結論が出ずに美観地区へ向かう倉敷中央通りを歩いていると、沿道に土蔵のような建物を発見。美観地区に着いたにしては少々早く、どうやら郷土料理の店のようである。白壁の街を見る前に、白壁の店で昼飯を食べていくか、とこの「郷土料理浜吉」の暖簾をくぐることにした。
瀬戸内で揚がった天然物の地魚をつかった料理が自慢というこの店、立派なカウンターの向こうでは板前さんがオコゼをさばいていたり、タコをおろしていたりと奮闘中。空いていたのでこちらに腰掛け、タコの頭を落とし、足の皮をひいてと目の前の包丁さばきを楽しみながら、品書きを眺める。活きダコも瀬戸内の名産で、品書きには薄造りや唐揚げ、煮物など一品料理がいくつか並んでいる。仲居さんに、何か岡山ならではの珍しい地魚を使った料理はないか尋ねてみたら、「なら、ママカリはいかがでしょうか。造りや焼き物、寿司など色々ありますよ」。それらがセットになった「ままかり定食」というのがあり、どんな魚かよく分からないまま、おすすめに従って頼んでみることにした。
ママカリの正体は「サッパ」という10センチほどの小魚で、見た目はイワシやコハダに似た「光りもの」の一種。ユニークなネーミングは、これをおかずにするとあまりに飯が進むためママ(この地方で「ご飯」の意)が足りなくなり、よそから借りてこなければならないほど、という俗説からついたといわれる。刺身、焼き物と続くママカリ料理の中でも、酢締めを食べてみるとその俗説がオーバーでないことを実感。引き締まった身がしゃっきり、かみしめるたびに旨みがしっかり出て、他の料理法で頂くよりも身の味が濃いようだ。「ママカリのうまさを引き出すには、酢で締めるのが一番です。小さいから、こうすれば小骨も柔らかくなって食べられるしね」と話す仲居さんによると、ママカリは主に県南の下津井や牛窓沖で水揚げされるとのこと。
もしごはんがあれば、ママカリ1匹でどんぶり半分は軽く進んでしまうところだが、定食には残念ながらご飯はついておらず、代わりにママカリをタネにした握りが6カン並んで出された。「ままかり寿司」は岡山を代表する郷土の寿司のひとつで、地元では古くから慶事や祭などのときに振る舞った特別料理だったという。各種あるママカリを使った料理の中でも、握りには鮮度がとびきりいいものを使うそうで、背の銀色と黒の輝きが実に鮮やか。酢締めにしてあるけれど、醤油をちょっとつけるとおいしい、と教えられ、ひとつ口に放り込む。見たところはコハダや小イワシの握りのようだが、それよりも身の味と脂ののりがやや強いよう。むしろサバに近いほどしっかりした旨みに、「まま」ならぬ握りにどんどん手が伸びる。小骨がやや気になるけれど、歯ごたえがあるぐらいに仕上げるのが地元流なのだとか。
締めの粕汁を頂き、お茶を飲みながら女将さんとしばし談笑。「ママカリは郷土の名物だけど、調理が大変。何と言っても小さいから、さばきづらくてね」と話す前では、板前さんが山のように盛られたママカリを一生懸命さばいている。小さいながら実力派のこの魚のおかげで、美観地区を散策した後の一杯でも飯、ならず酒も進みそうである。(2月下旬食記)
白壁の建物が集中する「美観地区」は駅から歩いて15分ほど、ひと通り散歩しても2時間程度だから、先に昼食を頂くか、散策してから遅いお昼をゆっくり頂くか迷うところだ。結論が出ずに美観地区へ向かう倉敷中央通りを歩いていると、沿道に土蔵のような建物を発見。美観地区に着いたにしては少々早く、どうやら郷土料理の店のようである。白壁の街を見る前に、白壁の店で昼飯を食べていくか、とこの「郷土料理浜吉」の暖簾をくぐることにした。
瀬戸内で揚がった天然物の地魚をつかった料理が自慢というこの店、立派なカウンターの向こうでは板前さんがオコゼをさばいていたり、タコをおろしていたりと奮闘中。空いていたのでこちらに腰掛け、タコの頭を落とし、足の皮をひいてと目の前の包丁さばきを楽しみながら、品書きを眺める。活きダコも瀬戸内の名産で、品書きには薄造りや唐揚げ、煮物など一品料理がいくつか並んでいる。仲居さんに、何か岡山ならではの珍しい地魚を使った料理はないか尋ねてみたら、「なら、ママカリはいかがでしょうか。造りや焼き物、寿司など色々ありますよ」。それらがセットになった「ままかり定食」というのがあり、どんな魚かよく分からないまま、おすすめに従って頼んでみることにした。
ママカリの正体は「サッパ」という10センチほどの小魚で、見た目はイワシやコハダに似た「光りもの」の一種。ユニークなネーミングは、これをおかずにするとあまりに飯が進むためママ(この地方で「ご飯」の意)が足りなくなり、よそから借りてこなければならないほど、という俗説からついたといわれる。刺身、焼き物と続くママカリ料理の中でも、酢締めを食べてみるとその俗説がオーバーでないことを実感。引き締まった身がしゃっきり、かみしめるたびに旨みがしっかり出て、他の料理法で頂くよりも身の味が濃いようだ。「ママカリのうまさを引き出すには、酢で締めるのが一番です。小さいから、こうすれば小骨も柔らかくなって食べられるしね」と話す仲居さんによると、ママカリは主に県南の下津井や牛窓沖で水揚げされるとのこと。
もしごはんがあれば、ママカリ1匹でどんぶり半分は軽く進んでしまうところだが、定食には残念ながらご飯はついておらず、代わりにママカリをタネにした握りが6カン並んで出された。「ままかり寿司」は岡山を代表する郷土の寿司のひとつで、地元では古くから慶事や祭などのときに振る舞った特別料理だったという。各種あるママカリを使った料理の中でも、握りには鮮度がとびきりいいものを使うそうで、背の銀色と黒の輝きが実に鮮やか。酢締めにしてあるけれど、醤油をちょっとつけるとおいしい、と教えられ、ひとつ口に放り込む。見たところはコハダや小イワシの握りのようだが、それよりも身の味と脂ののりがやや強いよう。むしろサバに近いほどしっかりした旨みに、「まま」ならぬ握りにどんどん手が伸びる。小骨がやや気になるけれど、歯ごたえがあるぐらいに仕上げるのが地元流なのだとか。
締めの粕汁を頂き、お茶を飲みながら女将さんとしばし談笑。「ママカリは郷土の名物だけど、調理が大変。何と言っても小さいから、さばきづらくてね」と話す前では、板前さんが山のように盛られたママカリを一生懸命さばいている。小さいながら実力派のこの魚のおかげで、美観地区を散策した後の一杯でも飯、ならず酒も進みそうである。(2月下旬食記)