ウマさ特盛り!まぜまぜごはん~おいしい日本 食紀行~

ライター&編集者&散歩の案内人・上村一真(カミムラカズマ)がいざなう、食をテーマに旅をする「食紀行」を綴るブログです。

旅で出会ったローカルごはん32…福井・越前大野 『福そば』の、名水をふんだんにつかった越前そば

2006年01月25日 | ◆旅で出会ったローカルごはん
 全国の数あるそば処の中でも、福井の越前地方は「おろしそば」が古くから名物として知られている。読んで字のごとく、そばの薬味に大根おろしをのせたもの、といえば簡単だが、素材へのこだわりや調理法の工夫など、土地土地でそのスタイルは微妙に異なるよう。そのうまさの秘訣は、水にまつわるところが大きい。福井の各地には伏流水が湧出しているところが数多く、環境庁の「名水百選」に選定された湧水もあるなど、そば打ちに欠かせない良質の水に恵まれている。加えて九頭竜川など県内を流れる大河が、流域に肥沃な土壌を形成、こちらも質のいいそばや大根の栽培に一役買っているという。

 福井から、その九頭竜川沿いに上流へさかのぼったところにある越前大野は、山里に広がる城下町だ。周囲を山に囲まれた大野盆地は、雪解け水と良質で豊富な量の地下水に恵まれていて、「名水の町」としても知られている。福井を早朝出発の列車に乗り、越前大野駅へ到着したのは8時過ぎ。まずは名物「大野の朝市」を見物しに、城下町の目抜き通りである七間通りまで早足で向かった。400年以上続いている伝統のある朝市で、山国らしく扱っているのは農産物が中心。露店の店先をのぞいてみると、美山キュウリや中野ナスなど、地物の野菜がござの上にきちんと整列して買い手を待っている。これら大野の野菜の質の良さもそばと同様に、良質な水のおかげである。

 ひととおり朝市を見物し終わったけれど、昼食にはやや早いので、散歩がてら湧水場である「お清水」へ行ってみることにした。ここも「名水100選」に選ばれており、見た感じは泉というよりは濠のようだ。ここの水は飲用のほかにも、生活用水にも使われているため、用途によって水を使う場所がきちんと決められている。水が涌き出しているところの周辺は飲用で、中流のエリアは野菜の洗い場、そして最も下流のエリアは洗濯場という具合。土地の人は、早朝は洗濯に、夕方になると炊事をしにここに集まってきて、それらの時間帯には文字通り、「井戸端会議」が開かれてにぎやかだという。

 通りを挟んで向かいの休憩所「お清水会館」には井戸があり、手押しポンプを押していると、ゴボッ、ゴボッと音がして、すぐにパイプから水がどっ、とあふれだした。地下水は夏は冷たく、冬は温かいため、手で受けてみるとキン、とよく冷えている。味の方も素直でくせがなく、確かにこれなら、そば打ちにももってこい。清冽な湧水のおかげですっきりしたところで、少々お腹も空いてきた。お清水の近くに小さなそば屋を見かけたので、この「福そば支店」で、大野の名水を使ったそばを頂くことにする。

 県内各地の越前そばの中でも、大野のそばは良質の水を素材に使うことから「名水そば」と呼ばれている。それに加えて、そば栽培に適した土壌である、大野盆地で収穫された玄そばの、品質の良さもまた見逃せない。この店のそばも、大野産の玄そばの実を数日分ずつ臼で挽いて粉にして、お清水の湧水を加えて生地を作った二八そば。もちろん手打ち、手切りしている。「満福そば」1000円を頼むと、皿に盛ったそばが3皿、盆の上に並んで運ばれてきた。つゆに付けていただく冷やしそばで、薬味はもちろん大根おろし、さらにカツオ節がどっさりと盛ってある。早速いただくと、水がいいせいかそばの歯ごたえがかなりしゃっきりしていて、舌触りも瑞々しい。水にくせがないから、そば本来の香りと甘味がグッと引き立っている。

 腰が強く、のど越しがいいから、あっという間に3皿平らげて、おかわりに「満腹そば」をさらにもう1人前追加。6皿目を平らげた頃にようやく、その名の通り満腹となり、食後にもう一度お清水会館で水を一杯いただいた。大野はそばの他にも、醤油や酒、和菓子などの老舗が多く、名水があらゆる味の土台をとなっていることが分かる。もちろん、いい水はそのままゴクゴクと飲むのが、何といっても一番おいしい味わい方である。(7月下旬食記)