ウマさ特盛り!まぜまぜごはん~おいしい日本 食紀行~

ライター&編集者&散歩の案内人・上村一真(カミムラカズマ)がいざなう、食をテーマに旅をする「食紀行」を綴るブログです。

極楽!築地で朝ごはん17食目…『めし丸』の、朝酒の市場男衆に混じって頂く刺身定食

2006年01月13日 | 極楽!築地で朝ごはん
 場外市場の最奥にあたる築地6丁目界隈は、ごった返す人ごみで賑わう場外の中心部と対照的な静かな雰囲気に、何とも惹かれるものがある。昨日訪れた天ぷらの「黒川」のように、市場食堂とはまたタイプの違った個性の強い飲食店が点在しており、ちょっと濃密な空気が漂っているよう。この日は一直線に、民家が集まる路地へと入り込み、昨日の「黒川」の向かいの『めし丸』へと足が向く。昨日も中を覗いてみたものの、ちっぽけなカウンターには市場で仕事を終えたばかりの常連ばかりと、とても一見で入れなさそうなムードだったこの店が、どうにも気になって仕方がなかったからである。

 アルミサッシの扉をがらりと開けると6席ほどの小さなカウンターがあり、テーブル席は隣の民家との狭い路地に「オープンエア」の特別席? が設けられている。すでに河岸で仕事を終えた客が数人、仕事帰りに一杯の時間のようで、この間誰々が酔って騒いで大変だったとか、誰々はもう36だけど結婚は… とか、河岸も時代に合わせて変わらないと… とか、酒の席らしく硬軟取り混ぜた話題が飛び交っている様子。まさに河岸の社交場的な店で、思っていたよりも入りやすい雰囲気に安心して、カウンターの奥へと席をとった。カウンターの奥はまるで普通の家の台所のようになっていて、まるで普通の民家を改造したようなこぢんまりした店である。

 店内には手書きの品書きが数多く掲げられ、カツオやマグロの刺身や盛りあわせ、定食、どんぶりなど、どれも魅力的。中でもこの日の「刺身定食」はマグロの赤身と中トロ、イカ、金目、アジの4種盛りとあり、850円という値段の割には充実しているのでこれに決め、カウンター越しにご主人に注文する。それに合わせるかのに、隣で討論していた河岸の若衆風の男が、ジョッキでチューハイをお代わり。いつから飲んでるのか知らないが、前にはかなりの数の空いた皿が並んでいる。夜中の2時、3時に市場に入る彼らにすれば、朝の9時過ぎなどまだまだ宵の口なのだろう。

 酔客で賑わうカウンターとは対照的に、その向こうでひとり黙々と調理を進めているご主人は、東京や大阪の寿司店での修業経験があるという。料理に使う魚介は、自ら吟味して仕入れており、一品料理も丼物も定食もいずれも、味の良さには信頼がおける。刺身定食は大きな青い角皿に、色とりどりの刺身に厚焼き玉子と大盛りで、種類が多い分、様々な味が楽しめるのがうれしい。イカはねっとりせずパキパキと新鮮、アジは脂が濃厚、ふわりとした歯ごたえのトロも脂がしっかりのって甘い。醤油とみりんで甘辛く煮付けるのが定番の金目鯛を刺身で頂くのは珍しく、トロよりもさらに強いトロリとした甘みが、口の中に広がっていく。ややマグロに筋、イカに固いところがあるが、値段からすればご愛嬌の範囲内か。みそ汁と小鉢が付いており、カウンター上の大皿に盛られた卯の花をよそった小鉢が、家庭料理的な素朴でいい味を出している。

 居酒屋でよそ者がひとり、酒を飲まずにご飯を食べているような気分で黙々と飯を食い、きれいに平らげて支払うと「まいどどうも」とご主人。ちょっと場違いな一見客に対して、常連扱いのようで何だかうれしい。小さいが実力派の店が点在する築地6丁目界隈、ちょっと築地の空気に慣れてきた今時分には、鮮烈でなかなか刺激的なエリアである。(2004年6月17日食記)