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ご当地グルメがお客を呼ぶコンテンツとして浸透してきたおかげで、ターミナルの駅ナカや駅まわり、繁華街の地元御用達の店でも、手軽に味わえるようになってきた。名店や老舗をわざわざ訪ねたり、行列に並ぶ時間がない旅程ではありがたい一方、 それらのクオリティが微妙なこともある。せっかく土地の味に触れる機会を設けたものの、「この程度の味か…」と捉えられたら、かえって逆効果になる恐れも。地域のPRにはこのバランスが、なかなか難しいところといえる。
静岡名物のおでんも、駅ビルのご当地料理屋や呉服町界隈の居酒屋で普通に出しているが、青葉横丁のおでん屋街とか市街の駄菓子屋系の店が、地元の人が普段使いする本場である。これまで前者で手軽に食べたことはあるものの、後者のような地域密着の店では味わったことはない。そのため評価を測りかねていたので、静岡浅間神社の散策後、門前の商店街に構える「おがわ」を覗いてみた。創業は昭和23年、おでんのほか弁当や惣菜も扱っており、店構えはちびまる子ちゃんに出てくるような庶民的雰囲気にあふれている。
まだ15時過ぎなのに、おでんをアテに一杯やっている親父さんたちで座敷は満席状態だ。店頭のショーケースの裏におでんの鍋が据えられていて、どれも褐色のいい色に仕上がっている。テイクアウトもできるので、酔客の注文に大わらわなお姉さんに、5本ほど適当に見繕ってもらう。鍋からひょいひょいとおでん串が抜かれ、トレイに並べたら上からダシ粉と青海苔をたっぷりかけまわし「はい、480円です」。駅へ戻るバスの車中、包みからカツオの香りがあふれ、どうにも注目を引いてしまう。
ホテルに着いたら包みを開いて、おでんの宴の開宴だ。焼津から取り寄せたという黒はんぺんはさつま揚げぐらい分厚く、粘りも歯ごたえもしっかり。モチモチとかむごとに青魚の旨味があふれ、魚を食べている感がある。スジは口の中でハラリとほぐれ、かむごとに繊維の一本一本からザクザクと味がにじみ出る。ギリギリ固くないベストな煮加減のジャガイモは北海道産で、じっとり染みたつゆとデンプンの甘さが、見事な出合いものの味となっている。これは今まで食べた静岡おでんと、どれもタネの完成度からして違う。
そしてだしの下味、かけまわす添え物ともに、実にいい仕事がされている。タネに色相応に染み込んだ、牛すじからだしをとったつゆと、ダシ粉のカツオと青海苔が相乗。濃縮されたインパクトが数重にもかぶさり、これぞ日本人が大好きな味だ。駄菓子屋系のおでんの実力を思い知り、これまでの静岡おでん評が気持ちよくひっくり返った思いがする。
同じく参道で買った銘菓の「葵煎餅」も開け、ともにアテにしつつ杯を重ねる。思えば浅間通りの商店街、チェーン系とかよその街で見るような店を、一軒も見かけなかった。最初のコンタクトは駅ナカ駅近の店で、その実力を知るならストーリーをたどりながら地域密着な店で。実は再訪して街をしっかり歩く誘いになっているとしたら、こんなたてつけも悪くないと思えてくる、静岡のローカルおでんである。