暇人詩日記

日記のかわりに詩を書いていきます。

怪物

2016-08-08 | 
お腹が空いたとその子は言うので
腕に抱えきれないパンを与える
すぐさま彼は食べ尽くしてしまい
お腹が空いたと訴える

四六時中その子は食べ続ける
まるで獣のようだと噂される彼を案じ
家に帰ればたくさん食べさせてあげるから
人前での食事を禁じるよう躾をした

お腹が空いたといつしか言わなくなり
外に出れば礼儀正しく振舞うその子は
みずからの腕を噛んで飢えをしのいだ
咀嚼の真似事で空腹をまぎらわせた

夥しい噛み痕の残る腕も
長袖を着ればまったく目立つことはない
彼は飢えを律したと喜んで
腕を噛み続けるその子の頭を撫でる

腕いっぱいに抱えきれないほどのパンを与える
色とりどりの果物を与える
盆が重みにたわむほどの肉を
店を開けるほどの野菜を

家での彼はまさに怪物そのもので
おそろしいほどの食物をたちまち平らげる
お腹が空いたといつしか家でも言わなくなる
それでも腕の噛み痕はまったく消えはしない

案じるより先に喜んで彼の頭を撫でる
この子は普通の子になった、
外に出ても恥ずかしくない子になったと
欲求を律した彼は素晴らしい人になると

噛み痕からいつしか血が滲む
食事の量はますます増えていく
一心不乱に食べ続ける
一心不乱に腕を噛み続ける

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