暇人詩日記

日記のかわりに詩を書いていきます。

兎は逃げていった

2011-12-16 | -2011
私は樹です
先ほど、足が生えました
なんともいえぬ違和感が
なぜだかへんに心地よく
ちょっと一歩を踏み出します
うまく力は入らなくとも
一歩前へと進みました

歩き出すということは
なんと楽しいことでしょう
ずっと見送るばかりだった
獣や小鳥とともに歩み
疲れたならば足を曲げ
知るはずもなかった地のことを
知ったのです

けれどもよいことばかりでは
ないのだと思いました
私の体はひどく重くて
いつもいつも置いてきぼり
前まで見向きもしなかった
手の届かない場所への欲望も
日に日に膨らんでいくばかり
獣はいいなあ
小鳥はいいなあ
欲が 欲が 膨らむのです

私は樹です
樹は樹であるべきなのです
けれども足が生えたのです
生えてしまったのです
そうして気付いてしまったのです
今までいかに自分がきれいであったか
今の自分がいかに汚れていっているか
けれどもそういった感覚さえ
昔は持っていなかったのですから
私は悩んでいます
歩きながら悩んでいます

仲間も足が生えました
生えない仲間もまた います
みんなみんな 悩んでいます
何のために必要なのか
必要でないならなぜ生えたのか
ながくながく考えたあと
足のない仲間たちは言いました
おまえたちはもう
われらの仲間ではないのだと

動けないなら樹であって
動けるならば私は
私たちはなんだというのでしょう
何を食べるわけでもなく
歩き回る必要さえないのに
私たちは樹ではなくなってしまった
なんでもないものです
ただ歩けるというだけの

欲を持て余して
私はどうしたらいいのか、わからなくて
仲間でいたいというきもち
元に戻りたいというきもち
まだ歩いていたいと
いつか駆け回りたいと
いろんな欲を持て余して
ひとつ、涙をこぼしました

悲しいということを知りました
そうしてまた変わってしまうのです
ものを見る目も
おとを聞く耳も
駆け回る足も
掴み取る腕も
次々に得ていくのは
もう戻れないと知っているからです
その度わたしは変わっていきます
けれども悲しみは
たくさんの欲に埋もれて忘れていきます
仲間の声はいつしか届かなくなり
仲間であったということさえ
今は忘れそうです

だけれどそれでいいのです
もう 戻れはしないのですから

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