暇人詩日記

日記のかわりに詩を書いていきます。

大層なご身分ですこと

2016-10-14 | つめたい
舟を漕いで
会いにいく

ぎしぎしと鳴る櫂、
吹き付ける潮風、
まとわりつく潮の匂い、
赤く腫れて苦い舌根、
水があるというだけの砂漠、

死に場所を
思い出した

耳に残る海鳴り、
ささくれだつ舟の軋み、
鼻腔を抜けるおのれの血、
塩辛い、塩辛い、
うねりざわめく海流、

倒れる暇は
ないはずだ

耳障りな乾咳、
ひたひたと腿を濡らす海水、
手垢と古木の混じった臭い、
舌を乾かす死の風、
水があるというだけの砂漠、

(あのひとはどこへ行ったのだろう)
(元気でやっているだろうか)
(うちの子供も会いたいと言っている)
(何しろ自由な人だったから)

舟を漕いで
会いに行く

最後にひとめ
見て死のうと

水の叫び、水の冷たさ、水の刺激臭、水の晩餐、水の中、
舟があんなに遠くへある、血の色の泡がのぼっていく、犯される、犯されていく、

(虫がいい人だった)
(私はあの人、嫌いだったわ)

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