ブログ うつと酒と小説な日々

躁うつ病に悩み、酒を飲みながらも、小説を読み、書く、おじさんの日記

堕落

2015年06月30日 | その他

 私の先輩に、50歳ちかくなって職場で不祥事を起こして辞職に追い込まれ、さらには奥様に逃げられるという挫折を経験した人がいます。
 さすがにその直後は落ち込んでいたようですが、ほどなくして就職活動を始め、誰もが名を知る大手商社に再就職を果たし、あまつさえ、還暦間近で5歳ほど年下の女性と再婚しました。 

 明るくてめげない性格が幸いしたようです。

 前の奥様との間には息子が二人おり、二人とももう結婚して独立しているため、二人きりの甘い新婚生活をおくっています。
 また、再就職はあくまで伝票作成のアルバイト的な仕事だったせいか、町内会の副会長職を引き受け、今は町内会の仕事が生き甲斐になっているようです。 

 まったく大したものです。

 人によってはアル中みたいになって廃人同様になったり、自殺さえしかねない状況だったというのに。 

 私は35歳で精神障害を発症し、ほぼ克服するまで5年近く、出勤したり休職したりを繰り返しました。
 今は最後の病気休職から復帰して6年目に入り、服薬は続けているもののそれは再発防止のためであり、量も一番多い時の5分の1くらいになっています。

 昇任適齢期に発症したため、同期の中では最も昇任が遅れており、今は年下の上司にお仕えしています。 

 ところが不思議なことに、それを何とも思わないのです。

 以前の私は出世頭で、その頃だったら耐えがたい屈辱と感じるような今の状況に、何の苦痛も感じないどころか、気楽でいいや程度で、平気の平左です。 

 さらには、困難な仕事や面倒な人間関係にあたっても、全然精神にダメージを受けません。
 職場にいる間は多少とも嫌な気持ちになりますが、仕事が終わって職場を出た瞬間から、きれいさっぱり忘れてしまいます。 

 これは長い間求めていた境地です。
 すっかり図々しくなりました。 

 それと、いい年をして出世しないと、周りの人が気を使って、ずいぶんと尊重されることに気づきました。
 仕事が出来ずに今の立場に留め置かれているわけではありませんから、運の悪い人だとでも思われているのでしょう。 

 客観的な状況はともかく、主観的には、今座っている席、居心地が良いと感じています。
 もちろん仕事が面白いとは思いませんし、出来れば早く退職して若隠居を決め込みたいものだとは思いますが、それこそ妄想のようなもので、現実味はありません。 

 であれば、現実の今を、とくだんの屈託もなく受け入れることが出来ていることをこそ、幸福と呼ぶべきなんでしょうね。

  人間変われば変わるものです。 

  精神障害を患って良かったとまでは思いませんが、その経験から諦めることを学び、諦めることは心地よいと知ることが出来ました。
  堕落と言えば堕落かもしれませんが、堕落もまた、快感をもたらすものです。

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新月

2015年06月30日 | 文学

 新月の夜は月が見えません。
 しかし、太陽に隠れているだけで、確かにそこに在るのです。
 それをもって、近頃では新月の願い事、というのが流行っているそうですね。

 昨夜、貫井徳郎の長編、「新月譚」を読み終わりました。

 ミステリー作家が描く、20年以上に及ぶ道ならぬ恋を描いた物語。
 殺人事件は起きません。

 女流作家、咲良玲花は、49歳で突如、筆を折ります。
 人気絶頂の最中、なぜか?

 中学生の頃から彼女の作品を愛読していた若手編集者が、誰にも明かされなかった彼女の創作の秘密と半生を聞かされます。
 彼女の長い独白が、この小説の大半を占めます。

 ブサイクで暗かった事務員が、小さな会社の社長と付き合うことにより、明るくなり、社長の気持ちを繋ぎ止めるために整形を繰り返し、この世の物とは思えない整った顔の美人に変身します。
 さらには、才能があり、上昇志向の女性が好みだと聞いて、彼女は一生懸命小説執筆に励み、ついにはベストセラー作家となるのです。

 社長が別の女と結婚しても、日陰の存在のまま、不倫関係を続けます。

 しかし、社長が49歳のとき、42歳の妻が懐妊した頃から、何かが狂い始めます。

 創作の動機が社長を繋ぎ止めるためだけだったとしたら?
 社長の妻は仕事のためのお飾りで、自分こそはナンバー1だと信じていたとしたら?

 社長に娘が生まれ、娘を溺愛するようになってから、彼女は社長も、小説も失わなければなりません。

 これは喪失の物語でもあります。

 長い道ならぬ恋を、ミステリー調で奏でる豊かな物語で、私は惹きこまれました。
 この作者の作品としては異色ですが、確かな筆力に支えられた豊穣な物語を見ることができます。

 是非、ご一読を。

新月譚 (文春文庫)
貫井 徳郎
文藝春秋

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