ブログ うつと酒と小説な日々

躁うつ病に悩み、酒を飲みながらも、小説を読み、書く、おじさんの日記

遍在

2015年06月11日 | 文学

 世に不思議の事象あまたありと雖も、我が身に降りかかることありとは思はざりき。

 我、宵、寝ころびて書読みつつうたた寝すれば、我が身を薄き膜覆いたり。
 はて、なんぞと思ゆれども、膜の中、涼しく快きゆえ、我、そを楽しみたり。
 うつらうつらせしうちに、目覚めれば、膜厚くなりて、もはや防弾ガラスの如くなり。

 我、そを驚かず。
 むしろ望むところと、喜ばざる能はず。
 陶然としてガラスの膜眺むれば、膜、僅かに振動起こしたり。
 されど我が寝ころびおる畳、微動だにせず。
 我、ただ酔いたる心地して、成り行きを楽しみたり。 

 膜の動きいよいよ激しく、つひには浮かばむとす。
 我、そを見ても、動じることなし。
 すべては予め定められしことと思ゆ。

 ついに膜、勢い増して跳ね上がり、天井を突き破る。
 天空目指し一直線に飛ぶ。 

 気づけば眼下に列島の形をなしたる光を見ゆ。
 光、点在し、光多きは都会なりしと悟る。

 我、天高く浮遊する化け物となりしか、はたまた天上界に至りて天使に化けたるか。

 膜、堅固にして我を守ること万全たり。
 しばし浮遊せし後、膜、再び振動す。
 さらなる高みに向かひ、上昇すること宇宙ロケットの如し。

 我、初めて気づきたり。
 膜の求めむとするところ、すなはち宇宙への飛翔に他ならず。

 膜、ついには大気圏外へと飛び出し、ますます激しく飛ぶ。
 もはや太陽の隣にいたるか、激しい光を浴びて、思料せざるはなし。
 されど眩しさも熱も覚へず。
 我、快き心地のまま、すべてを受け入れむと欲す。

 太陽の隣離れ、膜、ゆるゆると動き出したり。
 我、猛烈な眠気に襲われ、深き眠りに落ちたり。

 眠りおれる時、如何ばかりか。
 もはや膜、いずこを飛びたるか知らず。 

 再び睡魔に襲われ、眠る。
 目覚め、巨大な宇宙船を見る。
 宇宙船のデッキには、あまたの人集まりて我を指さす。
 人々の貌、驚愕と喜びに満ちたり。 

 我、初めて己が変貌したるを感得す。
 何にか。
 我、世を見守る遍在の核となりたること疑ひなし。
 人々の貌見れば明らかなり。

 我、慈愛の表情浮かべ、宇宙船に微笑みおくり、全宇宙祝福したり。

 我こそは遍在なり。

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