最近ちくま文庫から復刊された三島由紀夫のエンターテイメント、「命売ります」を読みました。
命売ります (ちくま文庫) | |
三島 由紀夫 | |
筑摩書房 |
三島由紀夫の作品は、文庫で読めるものはすべて読んでおり、その中には同じくエンターテイメントと言って良い「永すぎた春」や「美徳のよろめき」なども含まれています。
永すぎた春 (新潮文庫) | |
三島 由紀夫 | |
新潮社 |
美徳のよろめき (新潮文庫) | |
三島 由紀夫 | |
新潮社 |
しかしそれらと今作が決定的に異なっているのは、今作が痛快な冒険小説風な仕上がりになっており、抜群に面白いことでしょう。
新聞の活字がすべてゴキブリに見えたことに絶望して睡眠薬の大量服薬で自殺を試みる青年。
しかしそれは未遂に終わります。
生還した青年は、命は失ったものとして、命売ります、という広告を新聞に掲載します。
ここからじつに怪しげな依頼主が次々に現れ、命がけの仕事を依頼しますが、どういうわけか生き延びて、一財産築いてしまいます。
しかし、彼の存在に危険を感じた秘密結社が彼を殺害しようと試みるに及んで、死への恐怖を喪ったはずの青年に、生きたいという意欲を生ぜしめさせるのです。
それからの彼の生活は、落魄とも、デカダンスとも言えるもので、そのラストは悲惨です。
軽やかな文体のなかに数々の警句を散りばめたのは、大衆小説とはいえ、三島由紀夫らしい小憎らしい演出です。
三島由紀夫の未読の小説にふれて、この上なく幸せです。