昨日は自宅で読書などして静かに過ごしました。
読んだのは、篠田節子の小説、「聖域」です。
聖域 (集英社文庫) | |
篠田 節子 | |
集英社 |
これは、小説内小説である「聖域」という作品をめぐる物語です。
文芸雑誌の編集者、実藤は、退職した先輩の机の引き出しから、大部の、しかし未完の原稿を発見します。
それを読んだ実藤は、力強く、幻想的な、平安時代の天台宗の僧侶が東北の邪神に苦しめられながらこれらと対決する物語に深く心奪われます。
実藤は作者である水名川泉と面識のあった先輩編集者や老作家のもとを訪れ、作者の居所を突き止め、小説を完成させようと決意します。
しかし、水名川泉と関わりを持った者は、あるいは悲惨な末路を遂げ、あるいは心に深い闇を抱えており、みな一様に関わり合いになるな、と警告します。
それでも諦めきれない実藤は、物語の後半、ついに東北で巫女となっている作者に巡り合うことができるのです。
巡り合ってからがまた大変です。
この世とあの世の橋渡しをする宿命を持った作者は、続きを書くことを拒否。
それかあらぬか、最近事故死した実藤の恋人をあの世から呼び寄せてしまいます。
それがため、恋人との甘い記憶に溺れ、小説を書かせるためというより甘い記憶を何度でも味わいたくて水名川泉の元に通うようになる実藤。
この世とあの世の境目とは何か?
そもそもあの世は存在するのか?
単に甘い記憶を鮮明に蘇らせているだけではないのか?
東北の邪神とはそもそも邪しまなものなのか?
神々の領域とこの世との関係が深く描きこまれます。
答えが出ないまま、しかし小説は完成し、その原稿を持って実藤は出版社を退職してしまいます。
実藤は小説を出版する意思があるのか、あるいは自分だけの宝物として手元に置いていくつもりなのか、作者はその後どうしたのか、何も分からないまま、物語は終わります。
哲学的かつ幻想的な物語で、惹きつけられました。
その読後感は、気持ちの良いものではありませんでしたが、小説の持つ力というものを思い知らされた気分です。
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