ステージおきたま

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コントとランとご飯パンにうつつを抜かす老いの輝き

井上さんの凄さに圧倒された!吉里吉里忌

2016-04-11 08:12:58 | 演劇

 圧倒された、なんてお行儀いいもんじゃない。ぶちのめされた!ぐちゃぐちゃにされた!1ラウンドに10回ノックダウンされた!マットの上で血反吐を吐いた!渡辺美佐子の「化粧」にまつわる濃密な思い出にのけぞらされ、出久根達郎の洒脱な井上解説に思わず膝をついた。

 吉里吉里忌はねて、客たちがそぞろ退席するなか、身動きもならず、ホールの壁にもたれてあえいでいた。ロビーの賑わいに入ることの辛さに、会場内の忘れ物チェックをして時間をつぶした。

 一人の人間がここまでのことをやりきったんだ。午前中は、編集者たちが主に「東京セブンローズ」(短期集中連載1年の予定が完結まで15年かかった)という小説執筆に触れながら愛おしく亡き作家を慈しんだ。これがボディーブロー。

 痛打の極め付けは、一人芝居「化粧」の上演秘話。28年間、600回の公演!考えられるか?思い描けるか?それも、48歳が初演だったっなんて!計算しないでください、って彼女は言ったけど、千秋楽は76歳ってことだよ。大衆演劇の女座長のもとに通って1から10まで大衆演劇の心と様式を学び取った話し。一人芝居を自分の血肉にしていく苦心惨憺。観客の人生相談になってしまった海外公演。演劇の心を揺り動かす力、観客の想像力の偉大さ、それを引き出した井上作品の凄み。

 大笹吉雄の、井上演劇がもたらしたもの、目指したものを聞きながら、なんだ、僕がやってきたことは、すべて井上さんのモノマネに過ぎなかったんだと思い知らされた。音楽を使う作劇法、コントと笑い、伝統芸能とのコラボレーション、あれもこれも彼の後追い。しかもそのあまりに稚拙な剽窃。そう、せめてモノマネでも、鐘二つ鳴らせるくらいなら慰めもできようが、鐘一つ、いやそれ以前の予選落ちじゃあ話にならない。

 井上さんのあの数十万冊に及ぶ膨大な読書量、ピンクチラシから天皇の戦争責任にまで至る飽くなき知識欲、歴史や現実に対する誠実な姿勢、トリッキーなまでの発想力、あふれ出る言葉・セリフ、心打つシーンを生み出す感性、どれ一つとして、足元はおろか3尺下がろうが、10間遅れようが影にさえ届かぬが、せめて、せめて、もっと深く、もっと広く、もっとしつこく、作品を掘り下げていくしかない。と、どうにか自分を宥めすかすのにウィスキー1本空にした、なんて、これは出久根流のフィクション。

 一夜開けて、傷にも薄皮が張り、これを書いているわけだが、思うに、井上さんとマジにタイメン張ろうとするなんて、それ自体おこがましいことだって気づいた。アインシュタインと背比べする理系大学生もいいとこだ。井上さんは雲上人、神様なんだから、ひたすらひれ伏して、お言葉をありがたく頂戴していればいいんだ。それを自分に引き寄せるなんどと、神をも恐れぬ所行じゃないか。そうだ、もう一度、井上さんの膨大な著作、ごそごそと這いまらわってみようしじゃないか。学べるものがまだまだたくさんある。

 もっとも、井上さんと自分を引き比べる、なんて、この図々しさ、自信過剰、自惚れの強さ、これ忘れたら、向上心て奴は消え失せてしまうとは思うんだ。はるか遠くに引き離されても、相手はとっくにゴールしていてこっちはようやく1メート走り始めたところでも、レースを諦めない。決して沿道の応援者にはならない。それが現役でいるってことなんだと思う。

 

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