T.NのDIARY

写真付きで、日記や趣味をひとり問答で書いたり、小説の粗筋を纏めたブログ

1131話 [ 「空飛ぶタイヤ下」を読み終えて -7/7- ] 7/16・木曜(雨)

2015-07-15 13:50:14 | 読書

[第十二章 緊急避難計画]

(1)

 午前0時5分前、高幡から、赤松の自宅に電話があった。

 「柚木妙子さんと貴史君の死傷事故の件、あなたの会社に過失はありませんでした。それと、ホープ自動車の証拠品の中から、改ざん前の検査データを発見し、赤松さんの事故車両のハブの摩耗は0.2mmで交換する必要の全くない摩耗量で、他に異常もありませんでした。ハブ破損の原因は、部品の構造的欠陥によるものと当捜査本部では結論するに至りました。今までのご無礼お許しください」

 赤松を歓喜の底へと沈め、泣き出した妻を抱きしめたとき、込み上げてきた涙をついに耐えきれなくなった。

 朝が来て、妻の声で、家族全員がテレビニュースに注目する。

 「先ほど、神奈川県警本部は、ホープ自動車社長の岡本平四郎容疑者、常務の狩野威容疑者、品質保証部長代理の一瀬君康容疑者、同研究所長ら7人を、道路運送車両法及び業務過失致死の疑いで逮捕しました。ーーー」

 赤松は、切り替わった港北署の建物を凝視した。

(2)

 取調室で、自分がなぜ逮捕されたのか理解してないように平然とした狩野に、高幡は、沢田が持ち込んだパソコンを立ち上げてファイルを読み上げた。

 「T会議、記録。日時、10月20日。

  タイトル、ハブ破損にかかる当社の基本方針の確認。

  出席者、狩野常務、柏原品質保証部長、一瀬部長代理 他20名。

  指示事項、 1、頭書の件、当社ハブに起因する事故原因については、

            整備不良として処理する。

          2、国交省に対するハブ強度の比較鑑定結果につき、

            当社ハブの数値を再調整し、同省担当者に報告する。

          3、ハブに関するクレームについてはその都度改修し、

            リコールは厳に回避する。                  」

 まだ、いくらでもあると高幡は続けた。

 「メール・タイトル、熊本の件。発信者、狩野威。

   熊本市内で起きた弊社車両事故に関する事故調査報告について、

 クラッチハウジングの欠陥は報告せず、プロペラシャフトの脱落に関して

 のみコメント。

   また、同ハウジングを搭載した車両に対して、販社を通じて定期点検時

  に回収するよう品証部から指示のこと。                     」

 「メール・タイトル、横浜の死傷事故の件。発信者、狩野威。

   昨日惹起した横浜市内の死傷事故に関する状況を調べ、

  至急報告のこと。ーーーー                             」

 これに対して報告されたものはこれだと調査報告書のファイルを高幡は表示した。この通り赤松運送のハブは強度不足という致命的な欠陥を除いては、なんら異常はなかったんだ。

 その報告書を見て、最初のメールから10日後に、あんたから出した、柏原部長へのメールがこれだ。

 「 当該事故にかかわる調査結果のデータは再調査のうえ、

  報告書に添付のこと。----                          」

 その後、高幡は、いまから2週間前にあなたが発したメールだと、また読み上げた。

 「 赤松運送のハブについては、裁断、廃棄のこと。ーーーー         」

 高幡は、この男は落ちるなと確信した。

(3)

 重工、商事、銀行のホープ自動車金融支援会議は、ホープ自動車不在のまま開かれた。

 三橋重工社長の結論は、ホープ重工としては、社内事情を勘案し、自動車への直接的金融支援は見送りたい。銀行さんの申入れもあって再検討してみたが結論は変わらなかった。ついては、従来主張してきた間接的支援の方向で、銀行さん、商事さんに検討をお願いしたいということであった。

 討議が詰まった頃、東郷頭取は、後日、当行から抜本策を提案させていただきたいと発言した。

 支援会議が終わった後、外へ出た東郷は、巻田に君はもう外れてくれと言う。

(4・5)

 3社によるトップ会議、行内役員会が開かれ、その後、東京ホープ銀行本店営業部会議室で、ホープグループ関連企業を担当する次長、調査役が招集された会議が開かれ、浜中部長から、「重工、商事、銀行の協調支援は見送りにする。現状を踏まえたホープ自動車支援の抜本策、いわば緊急避難計画として、当行資産の健全化のためにホープ自動車救済をセントレア自動車に打診している、いわゆる救済合併を申し入れていると決定的な発言がなされた。

(6)

 社長以下役員が逮捕された直後、ホープ自動車が赤松運送に和解を申し入れてきた。

 ホープ自動車から元販売部長の花畑常務、長岡課長、富田弁護士が、赤松運送からは、赤松社長と小諸弁護士が集まって東京地方裁判所の本村判事のもとで行われた。

 本村判事の言葉で、富田から、「最初に、原告からの事故の影響による売上損失等の損害賠償請求額1億6千万円は全額支払います。次に、弊社製部品の返還は、廃棄により返却できなくなったので、構造的欠陥を認める発表を行ない、ご迷惑をかけた慰謝料として80万円を別途お支払することで如何でしょうか」と発表された。若松は不満であったが、小諸弁護士の助言もあって、検討のうえ後日お知らせすると言って話し合いは終わった。

 その日の夕方、赤松の心境に変化をもたらす出来事が起こった。

 柚木雅史が訪ねてきて、お宅への訴訟を取り下げることをお願いしてきました。そして、赤松がホープ自動車を相手に訴訟を起こされるんでしょうと尋ねると、柚木は、あのホープ自動車にこれからの人生をかき回されたくありません。それよりも、事件を風化させないことのほうが大切だと思いますと返答された。赤松は貴方のおかげで気持の整理がついたとお礼を言った。

[終章 ともすれば忘れがちな我らの幸福論]

 ホープ自動車は、社長代行の橋爪を最後の社長に昇格させた。

 また、真相究明委員会からの報告を受けて、橋爪が、前社長の岡本や前常務の狩野らを罷免することになった。一方、狩野らは道路運送車両法虚偽報告と業務上過失致死傷の容疑で起訴される予定である。

 セントレア自動車とホープ自動車の合併の発表と共に、両者の合併委員会なるものが設置され、沢田と小牧、杉本も選抜された。

 ホープ自動車は合併後の新会社発足と同時に、僅か30年の社歴を閉じて、ホープグループから分離独立することになる。

 東京ホープ銀行でも、様々な変化があった。巻田専務は系列のクレジットカード会社社長に転出する。セントレア自動車との救済合併というウルトラCの抜本策を企画立案し、オペレーションまで取り仕切っている浜中は、次の役員人事で常務への昇格が目されている。自由が丘支店長の田坂は、オペレーションセンターの部長職という閑職に左遷が決まっている。

 赤松運送では、嬉しいことが二つあった。

 一つは、大口取引先の相模マシナリーの平本から、謝罪があり、ぜひ弊社の運送を、とくに重量物機械の運送はお宅に特定したいとの話があった。

 もう一つは、門田がオヤジになったことである。宮代からの電話に、赤松は、ちょっと寄り道して帰ると、産婦人科に急いだ。

                                     (終)

 

 

                

 

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1130話 [ 「空飛ぶタイヤ(下)」を読み終えて-6/7- ] 7/15・水曜(晴・曇)

2015-07-14 14:24:08 | 読書

[第十一章 コンプライアンスを笑え! ]

(1・2)

 小料理屋で、狩野は巻田に、この局面においても財務面に問題がないことを市場にアピールするため、総合的な支援をお願いできないでしょうか。同様な話を重工と商事にも持ち込んでおりますと言い、支援額は2000億円で、重工が半分、後の半分を商事と銀行でといったところが落としどころと考えていますと依頼した。巻田は、グループ企業の共存共栄を図るのがホープの総意ですからと、同意の方向を示した。

 その後、ホープ自動車の岡本社長が東京ホープ銀行の東郷頭取を訪問して公式に要望した。

(3・4)

 高幡は、あれだけの組織だ、家宅捜査すれば証拠を握るのは容易いと考えていた。

 道路運送車両法違反として送検するためには、組織的意図的に虚偽報告が指示された証拠を挙げなくてはならない。そして、組織的隠ぺい、重大事故につながる欠陥が放置され、国交省に対して虚偽報告をしてきた経緯まで明らかになれば、被疑者・柚木親子の死傷事故において業務上過失致死傷を問うことも可能になるはずだ。

 しかし、証拠は何も出てこず、高幡は焦燥感を募らせていた。

 そして、この家宅捜査では、高幡に衝撃を与えるある事実が判明していた。

 捜査本部によって最大の焦点である母子死傷事故で、容疑の決め手になるのではないかと考えていた赤松運送のハブがすでに廃棄されていることが判明したのだ。これこそ証拠隠蔽の最たるものだが、たとえ赤松との裁判に負けても、世間の関心が高い母子死傷事故の責任を明確にされるよりは「安上がり」だという判断なのか。

 廃棄の事実は、何人かの研究員に任意で事情聴収をかけて確認したうえ、高幡から、さきほど赤松に電話で伝えた。赤松が受けたショックのほどは受話器から生々しく伝わってきたが、高幡は、それにかける言葉は見つけることができなかった。

 一通りの調査を終えても、いまだ「空手」の捜査会議は、長瀬の檄が飛んで、手を替え品を替えての作業が再開され、数日続いた。

(5)

 はるな銀行の進藤が、アポした時間に尋ねて来た。

 進藤から、支店長と相談したうえでの話ですがと、東京ホープ銀行の融資の全額を当行に肩代わりさせていただき、条件は、東京ホープ銀行への担保を外して、当行で改めて担保設定させてもらい、金利を含め同じ条件でやらせていただきますと言われ、赤松は3億円近くあるのにと、感謝のうえ承諾した。

(6・7)

 休憩室でコーヒーを飲みながら、小牧は沢田に、雑談の中で、室井が例の虚偽報告の責任をとらされ、岡崎工場の課長職で飛ばされるぞと知らせた。

(8・9)

 井崎と紀本は浜中に呼ばれ、浜中から、ホープ自動車支援について、重工は内部事情の理由で、1000億円の資金負担をする方向から、銀行が資金1000億円を支援し、それを保証することに切り替える代替え案が出ていると知らされた。

 しかし、浜中は、銀行主導で再建することにもなり、金融庁の融資の法律的な問題もあるので、場合によっては、この支援策は抜本的に考え直す必要があるかもしれないと話した。

(10)

 新車開発企画書を提出した沢田は、課長から部下を通じて、その企画書が政治的な意味で選考にもかけられずに返還された。沢田は、ここには追い求めた夢はないと思った。

(11)

 港北署の高幡のもとに、沢田が訪ねてきて、大阪に転勤した杉本から預かったものです、遣ってくれとパソコンを差し出し、入手した経緯を語った。

 高幡は、立ち上げたパソコンに表示された文面に、アッと声を上げたまま瞬きすら忘れた。即座に課長の内藤を呼び、捜査員も飛んできて、凄い騒ぎになった捜査本部は蘇ってきた。

 「逮捕状、手配! 」 課長の声が響いたとき、本部内の興奮は最高潮に達した。

                               (次章に続く)

 

 

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1129話 [ 「空飛ぶタイヤ(下)」を読み終えて-5/7- ] 7/14・火曜(晴)

2015-07-13 20:02:57 | 読書

[第十章 飛べ! 赤松プロペラ機]

(7・8)

 赤松と小諸弁護士に会ったホープ自動車販売部の長岡課長は、ホープ自動車顧問弁護士の富田と自分を紹介して、どのような要件かと切り出した。赤松から、用向きは同じです。ホープ自動車の謝罪と部品返却、それと損害賠償です。しかし、裁判と違った、もっと手っ取り早く解決する方法はないか、模索しようと思ったから訪ねたのですが、ただ、和解しようとは思っていませんと言って、鞄から「事故リスト」を出した。

 そして、私は、このリストにある会社のかなりの数を訪問して事故原因がどこにあったのか、それを調べて回った。その結果、お宅が作った車両にはハブとクラッチハウジングに起因したものの2種類の事故があることに気づいた。ハブに起因したものはウチと同じような脱輪、一方のクラッチハウジングが原因のものとしては、プロペラシャフトの脱落、変速装置の破損といった事故があり、いずれの事故も整備不良じゃないことが解ったのだと言う。

 長岡が反論して、ばかばかしい、名誉棄損を今回の裁判に追加しますよと言うと、赤松は、追加するとお宅が困りますよと言って、ホープ自動車が国交省に提出した事故調査報告書を差し出した。続けて中身の要点を説明した。

 「昨年7年、金沢市内にある北陸ロジスティックスがプロペラシャフトの脱落事故を起こした。これは、それを踏まえてお宅が国交省に提出した調査報告書だ。この中でお宅は、プロペラシャフトの脱落事故は、"整備不良によるもの"で、"極めて稀な破損"で、"多発性はない"から、"改善措置の必要性はない"と断言している。しかし、他の事故でもプロペラシャフトは脱落していて、決して稀な事故でない」

 これに対して長岡は、「1件や2件、同様の事故があったとしても、稀な事故と言って差し支えないでしょう。事故調査は、弊社の研究者がきちんと対応していて完璧だよ」と反論した。

 赤松は、「この事故車は新車だよ。購入後1ヶ月、走行距離僅か320kmしかなかったんだよ。それでも整備不良が原因だって言えるのか? 」と怒りの言葉が出た。

 ここで、小諸弁護士が口を開いた。「御社の事故原因調査がずさんであることは論を待たない。争点となっている部品返却についても、欠陥の隠蔽工作のためだと思わせるに十分な内容だと思いますので、条件次第で裁判に証拠として提出するつもりです」と発言した。

(9)

 国交省宛の内部文書が漏れていることを長岡から聞いた品質保証部の一瀬は、長岡を伴い、狩野常務へ報告し、整備不良以外の理由をつけた修正報告を提出することの了承をえた。

(10)

 赤松がホープ自動車を出た頃、港北署で臨時の捜査会議が開かれていた。高幡が提案した会議で、当初、赤松運送の事故担当の刑事は20人以上いたが、今の担当刑事は8人で、その刑事たちと課長が集まっていた。

 今朝、赤松が、いま手許に配った書類を持って訪ねてきたと切り出した高幡は、事故リストの意味、さらに事故調査報告書の入手経路を仔細に語り、報告書は国交省に確認を取っていて、中身に虚偽がある報告書である。そして、この報告書に対して大きな疑問が二つある、一つは欠陥を隠蔽しようとの意図的なものか、錯誤なのか。もう一つは、ホープ自動車が提出した報告書に、他に間違ったものは無いのかということであると説明した。その上で、このリストにある会社をもう一度調べさせてもらえませんかと課長に嘆願した。

 刑事たちの討論を聞いた内藤刑事課長は、このリストに載っかってる事件について、国交省にどんな事故報告書が上がっているのか探ってこい。もう一つ、このリストにある事故調査結果を各県警に問い合せろ、それと、もし、破損部品の現物が残っているようなケースがあれば、そいつを押さえろと命令した。

(11)

 そんな状況の日、沢田は会社でメールの整理をしていると、商品開発部長名義で出された「新型車両企画募集」という部内通知を発見した。締め切りは来週金曜となっていたので期間もありチャンスだと応募することにした。

 それから10日経った日に、杉本から、明日、大阪に赴任するので、お礼を言いたいのでお会いしたいとの連絡が入った。

 飲みながら、赤松運送の話になり、杉本が、赤松社長が弁護士を伴って、長岡課長のとこに、国交省へ提出した北陸ロジスティックの事故調査報告書のコピーを持ってきたが、その中身に虚偽があり、問題になっている。室井課長が書いたものですと話をした。

 その後、杉本は、1台のパソコンを取り出して、これは、一度故障して廃棄処分し、品証部の隠蔽工作の網から逃れたもので、故障が直り、中には、T会議の記録などの具体的隠蔽データが入っているので、沢田さんを見込んで預かってほしいと依願した。

(12・13)

 井崎はホープ自動車の運転資金融資案件の稟議書に、「融資見送り」との結論を記載して上司に送信した。否認の稟議書を上申することは、銀行でも殆ど例のないことである。後は部長決裁を経て役員会に諮られるだけである。もし、巻田専務の意向で、政治決着させるのであれば、本店営業部の存在意義は無いものと思った。

 高幡は吉田を伴って、甲府市の兵頭運送へ出向いた。赤松は、ここの社長に調査を断られたとのことだった。

 ここの事故は、追い越し車線を走っていた大型トレーラーが横転し、一般道を走っていた車両2台を巻き込み重軽傷2人が出た重大事故で、高幡が注目した理由は、経験豊富なドライバーの話で、走行中に突然ハンドルを取られ、あっという間に横転したということだった。

 事故調査報告書には「整備不良」となっていたが、赤松のように調査結果に疑問を投げかけなかったことから、幸いなことに、破損した部品がそのまま返却されていた。

 高幡は、その部品を千葉の科警研に搬送した。

(14)

 港北署の捜査本部では、神奈川県警の幹部も入った会議が開かれていた。

 高幡が持ち込んだ事故車両の部品断面図がスクリーンに映し出され、科警研の秋山研究員が、ハブについて説明していた。

 その中身は、「ハブの摩耗量が少ないのに破損していれば、これは構造的欠陥が原因だという結論になります。その前に、ハブは摩耗が少なく交換が前提とされる消耗品でなく永久部品なのです。つまり、一般には、整備不良という理屈が成立しないものです。但し、過積載や過走行で何10万kmも走破した古い車体の場合は破損することはありえます。甲府のトラックは57000km、赤松運送は80000kmでしたので論外です」と言い、

 続けて、「今回、科警研で鑑定した車のハブの摩耗量は、0.43mmでしたので、通常、この摩耗量で交換する必要はありません。国交省に上げた報告書の0.95mmは事実と異なっています」と発言した。

 説明についての質疑応答の後、神奈川県警刑事部長の長瀬から、「欠陥を放置し、現実に多数の死傷者を出している以上、業務上過失致死傷を問うことはできるはずだ。きっかけは虚偽報告でだろうとかまわない。だが、捜査の目的は、あくまで母子死傷事故の真犯人を逮捕することだ。ホープ自動車の家宅捜査令状、手配頼む」と指示が出された。

(15)

 午前8時、秘密裏に準備された捜査員140名によるホープ自動車本社と研究所への家宅捜査が始まった。

 高幡は、岡本社長に捜査令状を掲げた。狩野には、あとから、任意で事情聴収を求めることがありますから、そのつもりでいてくださいと言った。

(16・17)

 赤松は、近場の取引先を回って昼前に出社した。

 待っていたのは、1通の手紙で、中身は柚木が起こした訴訟に関する公判日程のお知らせだった。

 赤松の気分は、錘でもつけられたように感情の深海へと沈んでいて、ため息をついていると、宮代が入ってきて、テレビのスイッチを点けて、正午のNHKニュースを映し出した。

 ホープ自動車本社ビルから段ボール箱を抱えて出てくる捜査員の姿が大写しになっていて、「神奈川県警と港北署の家宅捜査は、いまも続いている模様です。ホープ自動車は、同社製車両による事故調査のデータを捏造して国交省に報告していた虚偽報告の疑いが持たれています。昨年10月、横浜の路上で起きた大型トレーラーの脱輪による母子死傷事故の事故原因についても、ハブの構造上の欠陥を隠蔽し、事故原因を偽って報告した疑いもあり、捜査本部では、業務過失致死傷も視野に入れて捜査しています」とアナウンサーの声が流れていた。

 ドアが開いて、社長室に社員たちが流れ込んできたのは、そのタイミングだった。

                            (次章に続く)

 

 

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[ 「空飛ぶタイヤ(下)」を読み終えて-4/7- ] 7/14・火曜(晴)

2015-07-13 19:58:42 | 読書

[第十章 飛べ! 赤松プロペラ機]

(1)

 知多市にある高森運送を訪ねたのは1月12日だった。

 変速装置の破損に起因した衝突事故でトラックは横転。運転手が軽傷。事故原因は、ホープ自動車の調べで、関連部分のボルトの緩みで整備不良。再調査はしていない。

 高森社長は、これらの説明の後、次のような話をしてくれた。

 事故の後、暫くして、金沢市内の北陸ロジスティックスという運送会社から電話がかかってきて、ウチも去年の7月にプロペラシャフトがなぜ脱落したか独自で調べた結果、クラッチの部品が破損してのクラッチハウジングの壊れによるのではないかと考えました。変速装置の損傷もクラッチハウジングの壊れに起因すると思いますと言われました。

 ウチの事故を起こしたトラックは全て修理した後でしたので、そのあたりのことは判りませんでした。

 赤松は、訪問することにしたが、リスト外の事故だったので、HPを検索して、リストに追加した。

(2)

 商品開発部に異動となった沢田は、部下のいない市場開発三課課長を命じられ、何をするにも部長代理の指示を仰ぐようにというおまけ付であった。

 ある日、明日の部内会議までに提出するようにとアンケート分析の仕事を命じられた。沢田が、夜明けまでかかって分析資料を提出すると、会議では使用されなかった。部長代理にその理由を問いただすと、すでに民間調査機関に出していた分析資料の内容を確かめるためのものだと言われたが、実際は、沢田の分析資料は未決済箱に入ったままだった。

 沢田は、自分の夢に汚れのようなものがこびり付いて離れなかった。

(3)

 金沢市内の北陸ロジスティックスを訪ねた赤松に対応してくれたのは、高森運送に情報を告げた元整備課長の相沢寛久であった。

 赤松の事故原因への問に対して、相沢は、昔、東京の大手の運送会社の整備の仕事をしていた経験から、整備不良などという結論は論外だと見ていますが、昔、ホープ自動車の社員だった社長の指示で、人の死傷もない軽微の損害から、「整備不良」でゲームオーバーになったので、赤松さんにぜひ真相を暴いてくださいと言い、言葉を追加して、事故を起こしているホープ自動車製車両の欠陥には二通りあると思っています。私が調べたところ、クラッチハウジングの破損によるものとハブによるものだと告げた。

 最後に、赤松さんに直接メリットのある情報ではありませんが、これを持ち帰ってくれと、ウチの事故に対する社内調査の結果報告と社長がホープ自動車から取り寄せた調査報告書を差し出した。

(4・5)

 赤松は、羽田行きの機中で、貪るように相沢の書類を読み、衝撃を受けて込み上げる興奮に呼吸が乱れた。

 赤松は、本日の収穫だ、読んでみてくれと、宮代に手渡した。

 宮代は少し読んでから、谷山整備課長と門田を呼んで、3人は一心不乱に読みだした。やがて、社長が注目しているのはこれですかと、門田が、国土交通省御中とあるホープ自動車車社長名の「事故原因調査報告書」を指差した。赤松は頷いて、整備担当の相沢さんが、車両の欠陥による事故でないかと国交省に連絡したことによるらしいと言う。

 その事故調査報告書には、「本年7月、金沢市内で惹起した弊社製造自動車におけるプロペラシャフトの脱落事故におきましては、鋭意調査の結果、所有者・北陸ロジスティックス(株)の整備不良が原因との結論に至りました。経年した車体からのプロペラシャフトの脱落は極めて稀な破損であり、多発性はないことから、弊社製造自動車における改造措置の必要性はないものと思料しています」と記述されていた。

 宮代が、活路が見つかりましたな社長と言い、また、谷山は、警察に届けましょうと言う。

 ホープ自動車の事故調査結果の信憑性に疑問を投げかけることで、赤松運送の事故調査の信頼性も低いという証明ができるかもしれないことなのだ。

 赤松は、もちろんだが、ホープ自動車に行って、この手で奴らに突き付けてやりたいんだと言う。

 小諸弁護士も同行することで、数日後のホープ自動車訪問のアポを取った。

(6)

 朝早く、高幡刑事は、刑事部屋を出てエレベーターの前で赤松を待った。

 高幡は、始め、赤松逮捕は時間の問題だと思われていた。だが、家宅捜査で入手した証拠品が証明したのは整備不良でなく、むしろ整備状況の良好さだ。肝心の証拠は揃わないまま捜査本部は手詰まりな状況に陥っていた。

 それともう一つ、胸に引っ掛っていることもあった。赤松から指摘された児玉通運の事故。その調書を取り寄せた高幡が、たまたま港北署に来た科捜研の研究者にそれを見せたときのことだ。この程度部品が摩耗したトラックは、普通に走っていますけどねと言われた一言が今も耳に残っていた。

 そんな状態にあった高幡は身構えながら、赤松の出方を窺った。

 赤松は、あの捜査はまだ続けていますか? 私が全国を調べ歩いた結果、ホープ自動車の欠陥はハブだけでなく、プロペラシャフト、おそらくはクラッチハウジングの欠陥に起因するものまで起きている。「これは、その調査の中で手に入れたホープ自動車から国交省に提出した事故調査報告書だ。読んでみろ、ホープ自動車の隠蔽工作が隠されている」とデスクを滑らせた。

                        (  (7)以降に続く ) 

 

 

 

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[ 「空飛ぶタイヤ(下)」を読み終えて -3/7- ] 7/13・月曜(曇)

2015-07-12 13:03:32 | 読書

[第九章 聖夜の歌]

(1)

 赤松が神田にある潮流社に榎本を訪ねたのは、12月20日であった。

 赤松は、あなたがホープ自動車を糾弾することができなくなったので、私個人で何とかしたい。ついては、あなたが掲載しようとした記事を見せてもらいたい、それをきっかけに動きたいと思っていると言う。

 榎本は、暫くして、記事を見せることは駄目ですが、これは、私が新聞などを元に調べた3年間のホープ自動車が起こした「事故リスト」です。このリストから何か出てくるでしょう。このリストにある人たちは、「整備不良」に無理に納得して受け入れていますが、あなただけは疑問を差し挟み、ホープ自動車と闘っている、そう、あなたただけです。リストの出所は内密に、どうぞ使ってくださいと言って差し出した。

(2)

 リストには、全国に分布した31件にも上がる事故が記載されていた。

 赤松は、このリストは純粋な事実が集積された宝石の原石のようなもので、ここから真実を導き出すのは、自分のやる気にかかっている。この自分が見て回り、ホープ自動車の隠蔽工作を証明する何らかの事実を掴まねばと思った。

 リストは、岐阜市内の各務原輸送が起こした運転手重傷の大型トラック事故から始まっていた。赤松は、話を伺うために訪ねたいと電話すると、相手の後藤という社長は、刺々しい口調で、2年も前にもう終わったことです。失礼しますと、取りつくシマもなかった。

 2段目は、福岡市内の嶋本運送が起こした大型トラックの前輪脱輪事故。赤松が電話すると、相手の嶋本社長は、明日ならと福岡での面会を承諾していくれた。

 熊本市内にも事故を起こした会社があったので、その会社に連絡すると、首尾よく明日の午後にアポを取ることができた。

(3)

 大手町の居酒屋で沢田の送別会があった。後任の長岡俊紀も来ていた。その時間に、近くで小牧が杉本を誘って二人で送別兼忘年会を開いていて、沢田に後から抜けて来いと誘っていた。

 小牧たちと一緒になった沢田が、杉本に、「週刊潮流」への告発はお前かと聞き、続けて、品証部での内部告発者探しはどうだったのかと聞くと、杉本は、沢田さんだって告発したじゃないですかと暗に認めた返事で、後の問には対しては、パソコンから私物の手帳からみんな見せろと、プライバシーも何もあったもんやない、リコールする意識は全くないのだと怒りの言葉を発した。

(4)

 赤松は、福岡市郊外の嶋本運送を午前10時頃訪ねた。事故は、電子部品を満載した大型トラックの前部車輪が脱輪し、トラックは横転して横滑りし、国道脇の倉庫の壁面に激突したもので、運転手の軽傷で済んだものだ。警察は、事故調査を行い、運送会社の整備不良が原因との結論を出した。

 嶋本社長は事故原因を聞いて可笑しいと思ったが、調査報告書は見せてくれないし、うちには証明する方法がなくて反論はしなかったと説明した。赤松が、事故車両を見せてくれと言うと、置き場もなく廃車にしたと言われた。

 午後、訪問した熊本市内のクマハチ興運の事故は、大型トレーラーの走行中に、プロペラシャフトが突然落下し、長さ1mほどの部品が対向車線に飛び出し、走行中の乗用車と貨物トラックにぶつかったのだ。幸い死傷者はなかった。

 赤松の相手をしてくれた岡島総務課長は、整備不良という判断に反論したいのは山々だったが、だったら何が原因なのか、それが判らなかったと言い、赤松が構造上の欠陥となるとホープ自動車製のトラックは欠陥だらけになるが、そんなことがあるのだろうかと思った。

(5・6・7・8)

 東京ホープ銀行の融資返還請求書が配達証明付き内容証明付き郵便で送付されてきた。宮代は、赤松に、それを見せ、こちらは私が対処するので、社長は、どうぞ、リストの会社を当たって下さいと言う。

 赤松は、クリスマスソング(聖夜の歌)が鳴り響く中、ようやくアポが取れて、沼津市郊外の黒田急送を訪問した。

 相手の社長は、事故の詳細を話すどころか、人を殺しておいて、ホープ自動車のせいにするなんて常識外れもいいところだと相手にしてくれなかった。

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 福岡の嶋本運送に始まり、黒田の会社で、訪ね歩いたのは既に7社目になっていたが、得られたものといえば、せいぜい脱輪以外にもクラッチ関係の事故が混じっているという事実のみであった。

 年が明けても、手掛かりらしいものはなかったが、正月に溜めた体力にものをいわせて1日2、3社、全国を飛び回った。

                                (次章に続く)

 

 

 

 

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