T.NのDIARY

写真付きで、日記や趣味をひとり問答で書いたり、小説の粗筋を纏めたブログ

1455話 「 夏目漱石著・こころ・粗筋 -7/?- 」 3/30・金曜(晴)

2018-03-30 12:06:45 | 読書

……… こころ ………

「作品の文章を抜粋しての粗筋」

下 先生の遺書

十~十七 (下宿先の御嬢さんに愛が芽生える私)

「金に不自由のない私は、騒々しい下宿を出て、新しい一戸を構えてみようかという気になったのです。

 ………

 ……駄菓子屋の上さんが、小石川にある素人下宿じゃ不可(いけ)ませんかと聞くのです。私は一寸気が変わりました。静かな素人屋に一人で下宿しているのは、却って家を持つ面倒がなくって結構だろうと考え出したのです。

 家主の未亡人から、何時でも引っ越して来て差支えないという挨拶を即座に与えてくれました。

「私は早速その家へ引き移りました。

 私は移った日に、私が借りた室の床に活けられた花と、その横に立て懸けられた琴を見ました。何方(どっち)も私の気に入りませんでした。

 ………

 お嬢さん(未亡人の娘さん)の顔を見た瞬間に、悉く打ち消されました。そうして私の頭の中へ今まで想像も及ばなかった異性の匂いが新しく入って来ました。私はそれから床の正面に活けてある花が嫌でなくなりました。同じ床に立て懸けてある琴も邪魔にならなくなりました。……私は、喜んでこの下手な活花を眺めては、まずそうな琴の音に耳を傾けました。

 ………

私の気分は国を立つ時、既に厭世的になっていました。他(ひと)は頼りにならないものだという観念が、その時、骨の中まで染み込んでしまったように思われたのです。私は私の敵視する叔父だの叔母だの、その親戚だのを、あたかも人類の代表者の如く考えました。汽車へ乗ってさえ隣のものの様子を、それとなく注意し始めました。それでいて私の神経は、今言った如くに鋭く尖ってしまったのです。

 私が東京へ来て下宿を出ようとしたのも、これが大きな源因(げんいん)になっているように思われます。

 私は小石川へ引き移ってからも、当分この緊張した気分に寛ぎを与える事が出来ませんでした。私は自分で自分が恥ずかしい程、きょときょと周囲を見回していました。

 貴方は定めて変に思うでしょう。その私が其所の御嬢さんをどうして好く余裕を有(も)っているか。そう質問された時、私はただ両方とも事実であったのだから、事実としてあなたに教えて上げるというより外に仕方がないのです。解釈は頭のある貴方に任せるとして、私はただ一言付け足して置きましょう。私は金に対して人類を疑ったけれども、愛に対しては、まだ人類を疑わなかったのです。だから他から見ると変なものでも、また、自分で考えて見て、矛盾したものでも、私の胸の中では平気で両立していたのです。

 私は未亡人の事を常に奥さんと言っていましたから、これから未亡人と呼ばずに奥さんと言います。

 ………

「………。

 時たま御嬢さん一人で、用があって私の室へ入った序(ついで)に、其所に座って話し込むような場合も、その内に出来ました。そういう時には、私の心が妙に不安に侵されてくるのです。そうして若い女とただ差し向かいで座っているのが不安なのだとばかりは思えませんでした。私は何だかそわそわし出すのです。あまり長くなるので、茶の間から母に呼ばれても、『はい』と返事するだけで、容易に腰を上げない事さえありました。

「………。

 ………

「………。

 ………

「………。

 私は自由の身体でした。……。私は思い切って、奥さんに御嬢さんを貰い受ける話をしてみようかという決心をした事が、それまでに何度となくありました。けれども、その度毎に私は躊躇して、口へはとうとう出さずにしまったのです。

 ………

「………。

 ………

         十八章以降に続く

 

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