T.NのDIARY

写真付きで、日記や趣味をひとり問答で書いたり、小説の粗筋を纏めたブログ

1687話 [ 「そして、バトンは渡された」を読み終えて 11/? ] 7/7・日曜(晴・曇)

2019-07-06 15:55:03 | 読書

   「作品の文章を抜粋してのあらすじ」

 「第2章の5」

 (優子に自分の命をささげた梨花)

 早瀬君とは総合受付の前で別れて、私は一人で梨花さんの元に向かった。最初から二人で出向くと病人の梨花さんを疲れさすと思ったのだ。

 306号室。泉ヶ原さんに聞いた病室を聞いていくと廊下の突き当りに見つかった。ネームプレートの名前は「泉ヶ原梨花」となっていた。

 7年ぶりに会う梨花さんは、病気のせいか、顔色も悪いし痩せてもいる。でも梨花さんは、すべてを吹き飛ばすようなからりとした笑顔で私を迎えてくれた。

 部屋の中は、トイレもお風呂もついていて、簡単なソファセットもあり、ワンルームマンションのようだ。

 梨花さんは、「久しぶりに母親に会ったのに、最初に部屋の感想を言う ? 」とけらけらと笑った。

 ………。

「結婚するんだって ? しげちゃんが、すごいいい男連れてきたって言ってたよ」

「しげちゃん ? 」

「そう。泉ヶ原さんって、泉ヶ原茂雄っていうの。再婚したんだ。泉ヶ原さんとね」

 そして、梨花さんは、「あの家は窮屈だけど、しげちゃんはいい人で、前の時も今も、しげちゃんのこと好きなんだよ」と言った。

 7年の間に、泉ヶ原と離婚して、森宮さんと結婚して離婚し、また泉ヶ原さんと再婚して。………

 複雑すぎて話すほうも難しいだろうと私は一番最初の出来事から質問した。

「あの暮らしが窮屈になったのは本当なんだ。あのころは、ただただ毎日憂鬱で。働かなくていい、家事もしなくていいって、最初はラッキーって思ったけど、怠け者の私でも5日で堪らなくなった。吉見さんも嫌だったしね」

 吉見さんはきちんとした人だ。その分、梨花さんの大ざっばな振舞いに、渋い顔をすることも多かった。

勝手だけどさ、あの頃の私は、優子ちゃんも、こんなところにいちゃいけないって思ってたんだよね。至れり尽くせりなところにいたら、ダメな人間になるって思いこんで」

「で、連れ出そうとしてたんだ」

「そ。だから、経済的にも私一人で苦労させないで済むようになったら、迎えに行こうって仕事してお金貯めたの」

「そうだったんだ。だったら、森宮さんは ? どうして結婚したの ? 」

 迎えに来てくれた時、梨花さんの横にいる森宮さんに私は違和感を覚えた。森宮さんには、梨花さんが好きになる要素が一つもなかったからだ。今、泉ヶ原さんと再婚したと聞いて、ますます森宮さんと結婚したのが不思議でならない。

森宮さんと結婚したのは、働いて1年半後くらいかな ? 会社の健康診断に引っかかって病気だってわかってさ

 梨花さんは病気なんてお構いなしに、さらりとした顔で話を進めている。

まさか自分が病気になるなんてびっくりだよね。まだ若いのにさ。で、とりあえず、病気になったからには優子ちゃんの母親は辞めようと思って

「どういうこと ? 」

「だって、私、本当の親じゃないし、血もつながってないでしょう。それなのに、わざさわざ一緒にいなくたって、もっといい親を選ぶべきだっと思って」

「迷惑だとか ? そんなこと考えるのおかしいよ」

 梨花さんはお茶を一口飲んで話を続けた。

森宮さんと結婚したのはさ、健康診断に引っかかって入院しているときに、中学の同窓会で会ったことを思い出したからなんだよね。東大出て大手で働いてて、ついでに金魚を10年も育ててたって話してた堅実な人がいたなんて

「それで ? 」

「森宮君、優子ちゃんの親に向いているって思ったの。森宮君なら若いし、私の後継者にぴったりだって。私、男を見る目はあるから」

「そんなので、結婚したの ? 」

「そう。私の勘、当たってたでしょう。森宮君、優子ちゃんのこと大事にしてくれてるでしょう」

「それはそうだけど」

 愛情の表現が間違ってることはあるけれど、森宮さんに大事にされていることは否定できない。

「だからって、森宮さんに私を押しつけちゃったの ? 」

「押し付けたわけじゃないよ。森宮君、私に優子ちゃんがいることを承知で結婚したんだもん」

「そうだろうけど、ずいぶん思い切った行動だよね」

まあね。手術1年後に、また悪いところが見つかって再手術することになって。こりゃ、さっさと優子ちゃんと自分の身の上を何とかしなきゃって、焦ったんだよね。再手術が決まって、森宮君との関係を一気に結婚までもっていったの。森宮君、親との折り合いが悪くて家をさっさと出てるから、二人で簡単に入籍で来たんだよね。で、泉ヶ原さんに結婚の報告に行って、優子ちゃんを引きとりたいと話したんだ。大忙しでしょう

「うん、あの人、とぼけているもん。私が出て行くことはどこかで感じてたんじゃないかな。あの人、真っ当だから」

 それは知っている。7年間一緒にいるのだ。森宮さんの覚悟も、森宮さんがそういう人だということも、分っている。

「で、泉ヶ原さんと再婚したんだ」

そう。優子ちゃん引きとりたいって話に行ったとき、しげちゃん私の体調がよくないこと、あっさり見抜いちゃって。私、再婚するって話してるのに、それより梨花はどこが悪いんだって言いだして

 梨花さんは、「まいちゃうよね」と笑った。

 そして、「ね、優ちゃんの結婚相手の話してよ」とわくわくした顔を私に向けた。

「早瀬君っていうんだけどさ、高校3年生の時の合唱祭で一緒にピアノ伴奏の担当になって知り合い、その時は早瀬君には彼女がいて付き合うことはできなかった。それが、私が短大卒業して働いていたお店で再度知り合い、それから会うようになった」

 そんなことから語りはじめて、イタリアにピザの修業に行き、その後、音大も中退して、ハンバーグの修業のためにアメリカに行ったことを話しした。

 梨花は式はいつぐらいと聞き、私が秋にと思っていると言うとよし、それまでに元気になるかと言う。

 カバンを手にした私は、大事なものを持って来ていたことを思い出した。

 小学5年生の時アパートの大家さんから必要になったときに使えと貰った20万円を梨花に見せた。梨花は、なにかご利益ありそうなお金だね。有難く貰って置くわ。これできっと元気になると頭を下げた。

 私は、それと、水戸秀平の居場所を知らないかと尋ねた。

 梨花は、うん知っていると言って、しげちゃんに調べてもらって送るからと言われた。

 梨花さんと別れて談話室のほうに行くと、早瀬君が、早瀬君が、待ち合せ室横にあったグランドピアノを弾いていた。

 私は早瀬君のピアノを聞いて、

「早瀬君は真摯にピアノを弾くべきだよ。ハンバーグもピザも私が焼く、私のほうが料理うまいもの」と告げた。

「俺もそれ、うすうす気づいていた」と早瀬君は静かに笑った。

 

 「第2章の6」

 (実の父の手紙)

 それから1週間もしないうちに、梨花さんから荷物が送られてきた。お父さんの連絡先を知りたいだけなのに、届いたのは小さい段ボールだ。

 中には輪ゴムで止められた何通もの手紙が入っていた。それとは別に一番上に梨花さんからの手紙が置かれていた。開いてみた。

 お詫びしないといけないことですが、同封したのは優子ちゃんのお父さんからの手紙で、ブラジルに旅立ってから10日に一度ほど送られてきました。優子ちゃんがやっぱりお父さんのところへ行きたいと言いだすのが怖くて渡さずにいました。

 それとお父さんは、2年後には日本戻り、優子ちゃんに会いたいと何度も私へ連絡をしてきました。でも、その頃には、私にとって優子ちゃんより大事なものは一つもなかったから、失うのが不安でどうしても会わせることができなかった。自分勝手な酷いことをしました。本当にごめんなさい。

 水戸さんは、その3年後に再婚したようです。新しい家族ができた以上、水戸さんや優子ちゃんの今の暮らしを惑わしてしまうだけだと手紙のことは黙っていようと決めました。

 水戸さんは娘さんが二人でき、新しいい家族と幸せに暮らしているようですが、優子ちゃんの結婚のことを聞いたら喜ぶはずです。

 という内容で、最後にお父さんの住所が書かれていた。

 

 お父さんがブラジルに行った後、私も何度も何度も手紙を書いた。梨花さんに出してほしいと手紙を託した。返事が来ないことを聞くたびに、梨花さんはお父さんは忙しいんだよと言葉を濁していた。

 戻ってきたお父さんは、やっぱり私に会おうとしてくれていたのだ。会える機会がすぐそこにあった。そう思うと涙は勝手に流れた。

 だけど、当然、梨花さんを恨む気にならない。梨花さんがそんなことを超えるくらいの愛情を注いでくれていること知っている。

 

「梨花さんが送ってくれたの。ブラジルにいたお父さんから私へ届いた手紙を渡さずにいたんだって」

「ああ、梨花らしいね。大事な優子ちゃんとの生活を守るためにね。でもこれだけあったら読むのに3日はかかりそうだな」

 森宮さんは手紙をしげしげと眺めた。

「読もうかどうしようか考えてて……」

 私は手紙にそっと触れながら言った。封筒は小学生に合わわせた可愛い柄のものが多い。

「10年以上前の手紙だもの。読んでも答えられないことが沢山あるだろうと思うからね……」

「じゃあ、もしかして、お父さんに会いにもいかないつもり ? 」

 森宮さんは窺うように私の顔を見た。

そうだね。もう新しい家族ができて子供もいるみたいだし」

 結婚の報告だけだとはいえ、私が現れることで、お父さんの家族をわずかでも揺るがせてしまうのはよくない。

本当のお父さんなのに。優子ちゃん、れっきとした娘なんだから、新しい家族になんか遠慮しなくていいのに」

「遠慮じゃないよ。泉ヶ原さんや梨花さんにも会って、森宮さんもいて、もう親は十分だしね」

 これ以上、無償の愛情を注いでくれる人に会う必要はない気がする。

 

  「第2章の7」に続く

 

 

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