スピノザの『エチカ』と趣味のブログ

スピノザの『エチカ』について僕が考えていることと,趣味である将棋・競馬・競輪などについて綴るブログです。

再構成&精神の機能

2021-07-14 19:16:07 | 将棋トピック
 処分の発表があった時点で,僕はふたつのことを思いました。ひとつはこの処分に至るまでの将棋連盟の対応に関してです。そしてもうひとつがこれから説明する,疑惑そのものへの合理性です。
 ここで疑惑というのは,三浦九段が指し手に関してコンピュータから援助を受けているということを指します。僕はこのことについては,そのようなことはあり得ないとか,それが事実であるとは考えにくいというように思いました。ただこれは,直観的にそのように思ったということです。その理由のひとつは,連盟の対応がそもそも疑問であり,また処分の理由が,疑惑そのものに対してではなかったということにあります。しかしこれは副次的なものであって,僕がそのように思った最大の理由とは異なります。ですがその理由を述べる前に,気を付けておいてほしいことがあります。
 スピノザの哲学では,直観scientia intuitivaとは第三種の認識cognitio tertii generisのことを意味します。まさに僕はこのとき,第三種の認識として,疑惑が真実であるとは考えられない,いい換えれば,三浦九段はコンピュータの援助を受けて対局していないと思ったのです。このとき,第三種の認識というのは,第五部定理二三備考にあるように,証明demonstrationesそれ自体であるので,何らかの論理的な思考が僕の知性のうちに発生したというわけではありません。しかしそれでは理解が得られないでしょうから,僕の精神の眼Mentis enimがなぜ僕にそのように教えたのかということを記述していきます。いい換えればこのときの第三種の認識を,第二種の認識cognitio secundi generisに基づいて記述していきます。
 ですがこの記述は,ここまでの説明から明らかなように,現時点での再構成ということになります。これは一般的にいえることなのですが,あるときにある人間が第三種の認識によって認識した事柄を,一定の時間の経過の後に第二種の認識によって説明すると,それは必ず再構成になるのです。つまり第三種の認識がなされた時点で,実際に後に説明されるような第二種の認識が発生していたというわけではないのです。なのでこのことについては,その点に必ず留意しておいてください。

 ここまでみてきたことから分かるように,スピノザが精神mensを解するときにつけている留保条件は,たとえば人間の精神mens humanaと馬の精神の間にある機能の差異より,能動的な精神と受動的な精神の間にある差異に主眼が置かれています。したがって,能動的な馬の精神と受動的な人間の精神を比較するという仮定をすれば,より有能な精神は,人間の精神よりも馬の精神であるということになります。もちろんこの仮定が,現実的に何らかの意味をもつのかといえば疑問符をつけざるを得ないのですが,論理的な観点から結論するなら,このようなことになると僕は考えます。
                                             
 したがって,第三部定理五七備考でスピノザが情欲libidoや感情affectus,満足や楽しみついて語っていることが,社会的結合にも妥当すると僕は考えます。ここではそうした満足や楽しみを感じているのは精神であるといわれていて,精神というのは構造主義的な観点から,すべてのものが有するからです。よって,人間が人間らしい情欲に駆られるように,人間は人間らしく社会的に結合するし,馬が馬らしい情欲に駆られるように,馬は馬らしく社会的に結合するのです。同様に,三角形は三角形らしい情欲に駆られ,三角形らしく社会的に結合するというべきでしょう。もちろん三角形が情欲に駆られるとか,三角形が社会的に結合するということは,現実的に何らかの意味を有するわけではないでしょう。しかし第四部定理三五が人間が社会的結合をするということの基礎となるというのであれば,これはこれで社会的結合のモデルについて語っているのですから,馬についても三角形についても同じことが該当します。いい換えれば,もし現実的に存在するすべての馬が馬の理性ratioに従う限りにおいては,すべての馬の本性naturaは一致するでしょう。よってそれを基礎として,現実的に存在する馬は社会的に結合することになるでしょう。同様に,もしも現実的に存在するすべての三角形が三角形の理性に従うのであれば,それらすべての三角形の本性は一致することになり,このことを基礎として三角形は三角形らしい社会を組織することになるのです。ゆえに,この場面では人間中心主義より,本性中心主義を僕は重視します。
コメント
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