スピノザの『エチカ』と趣味のブログ

スピノザの『エチカ』について僕が考えていることと,趣味である将棋・競馬・競輪などについて綴るブログです。

家臣&別の箇所

2021-07-12 19:23:48 | 歌・小説
 夏目家も篠本家も元は武田家の家臣で,それぞれの理由で徳川家に仕えるようになったということに関連して,僕の方からいっておきたいことがあります。
                                        
 夏目家の先祖は,武田家に対して謀反を起こして徳川家に寝返った家臣に従うことによって,徳川家の家臣となったのでした。一方で篠本家の先祖は,最後まで武田家に仕え,武田家の滅亡によって徳川家に降伏し,徳川家の家臣となったのです。このことは,漱石と篠本の間で共通の認識となっていたということが重要なのであって,それが史実であるか否かは問題ではありません。ですので史実に関してはここでは調査しませんし,断定もしません。
 このことが篠本と漱石が喧嘩したときに,篠本にとって有利に働いたのは,漱石がこの点に関して負い目を感じていたからですし,篠本自身も,それが漱石の負い目になるであろうと思っていたからです。そうでなければ篠本が喧嘩のときにわざわざそのことを持ち出す理由がありませんし,実際に持ち出さされれば効果があったのですから,漱石がそのように感じていたということも断定できます。
 どんな事柄であれ,ある事柄を負い目と感じるのなら,それを負い目と感じる理由があるのでなければなりません。そしてこの場合には,単に夏目家と篠本家の間の事情だけでは説明できません。もちろんその関係は,漱石の篠本に対する負い目を増幅はしたでしょうが,もし漱石と篠本の間に何の関係もなかったら,漱石が負い目を感じることがまったくなかったとはいえないからです。むしろ,自分の先祖が武田家を裏切って徳川家の家臣になったということについて,漱石はそれ自体で負い目を感じていたと解するべきなのです。
 これは僕の推測ですが,おそらく漱石が感じていたこの負い目は,篠本が想像していたよりも強かったのです。いい換えれば,喧嘩のために篠本が期待していたよりも大きな効果が,この事実を漱石に対して告げることによって得られたのです。そしておそらくそれは,家臣がどうあるべきかということについて,漱石の方が篠本よりも強い思いをもっていたからだと思われるのです。

 この種の留保条件を『エチカ』の中から探すなら,別の箇所になります。ここではまず第二部定理一四をあげておきます。
 この定理Propositioは人間の精神mens humanaについて言及しています。ですがその知覚perceptioあるいは認識cognitioの適性は,人間の身体humanum corpusがより多くの仕方で影響される,つまりほかの物体corpusから刺激されafficiまたほかの物体に対して作用するに従って大であるといわれています。この部分に関しては,別に人間の精神に限定する必要はなく,一般に精神に妥当するでしょう。精神と身体を構造主義的に解する限り,精神は身体の観念ですから,ある物体いい換えれば身体は,ほかの物体から刺激を受ける適性あるいはほかの物体に刺激を与えるafficere適性が大であるほど,精神の認識の適性も大になるのです。つまり,精神の機能は身体の機能,ほかの物体から刺激を受ける機能およびほかの物体に対して刺激を与える機能に比例するのです。よってここには確かに精神についての機能主義的留保があるといえるでしょう。この定理は,人間の身体がほかの物体から刺激を受けまたほかの物体に刺激を与える適性が高いがゆえに,人間の精神の認識の適性もきわめて高いということをいっているのであり,これはほかの物体の精神よりも,人間の精神の機能は優れているといっているにほかならないからです。
 もうひとつ,第五部定理三九もある観点から留保条件になっていると僕は考えます。この定理は,身体が有能であるほど精神の最大部分が永遠aeterunusであるといっていて,もちろんこの定理もまた,意図されているのは人間の身体でありまた人間の精神ではあるのですが,別に人間に限定して理解しなければならないというものではないからです。たとえばAとBというふたつの物体があって,Aという物体の方が有能であるとすれば,Aの精神の方がBの精神より最大部分が永遠であることになるからです。
 ただしこの定理は,精神を機能主義的観点から理解するための留保条件として解釈する上では,注意するべきことが含まれています。ここで有能といわれているのは,能動actioという意味であって,実在性realitasを意味するのではありません。あるいは同じことですが,完全性perfectioのことをいうのではありません。
コメント
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