スピノザの『エチカ』と趣味のブログ

スピノザの『エチカ』について僕が考えていることと,趣味である将棋・競馬・競輪などについて綴るブログです。

告発&備考の意図

2021-07-08 18:55:07 | 将棋トピック
 今回の連載では,抗議に対して解答することが主目的ではありますが,それよりも幅広く,このときのことに関連した出来事について記述していきます。処分および対応について書いたときに,疑惑についての告発があったことを指摘してありますので,今回はそのことについて書きます。というのも,三浦九段の疑惑が晴れた後に,告発をした棋士に対して非難が浴びせられるということがあったからです。
 僕はこのような非難はまったくお門違いのものだと考えます。僕は告発した棋士たちが,後に僕が述べるような仕方で考えれば,告発には至らなかった可能性はあると思います。ただ,対局相手からみて三浦九段が不自然に離席をしていると感じる事実はあったのですから,このことについて告発するというのは,その棋士にとって自然権の一部である表現の自由を行使したにすぎないと僕は考えるからです。とくに僕は,人間的自由には受動的自由も含まれると考えていますので,この場合の表現の自由は,そうした受動的自由の一部として守られなければならないと考えるのです。他面からいえばこうした行動を非難するのは,単に他者の自然権の侵害であると僕は考えます。責任はもっぱら告発を受けた側の対応にあるのであって,告発した側にあるのではありません。
 もちろん表現の自由を隠れ蓑にして,悪意をもって他者を陥れたり傷つけたりする行為は,むしろ表現の自由を危機に陥れる行為であって,そうした行為が非難を受けるのは止むを得ない面もあると僕は考えます。ですがこの場合は,確かに事実として不自然と感じられる離席はあって,この離席の表象像がコンピューターによる指し手の援助の表象像と連結しても不自然ではありません。そして告発者はそれを外部に漏らしたのではなく,内部に告発して対応を求めたのですから,自然権の行使をまったく逸脱していないのです。もしこのような行為を禁じれば,むしろその組織は腐敗していくだけでしょう。
 したがってこの件について,誤った結論を出して三浦九段を処分した人たちが批判されるのは当然としても,告発した人たちを批判するのはお門違いであると僕は考えます。

 僕は第三部定理五七備考でいわれていることは,非理性的動物だけに妥当するわけではなく,動物ではないすべての物体corpusに対しても成立すると考えます。これは,たとえスピノザがそのようなことをこの備考Scholiumにおいて意図していなくても,成立すると考えるということです。動物ではない物体について,それが感情affectusをもつとか,その本性naturaに満足して生きそれを楽しんでいるというのは,それ自体では不条理であるということは僕は認めます。他面からいえば,ある種の物体が感情をもたないということ,いい換えれば感情をもたない物体が現実的に存在するということは僕は認めます。ですが論理上は,すべての物体が感情を有し,各々の本性に基づく満足を得てそれを楽しんでいると解する方が,スピノザの哲学を正しく理解するためにはよい方法だと僕は考えているのです。
                                   
 このことはスピノザがこの備考の中で,非理性的動物が満足している生と楽しみを,その非理性的動物の観念ideaすなわちその非理性的動物の精神mensと等置していることを根拠とします。前に簡単にいっておいたように,スピノザの哲学では精神というのは,何らかの機能を意味するものではありません。いい換えれば機能主義的な意味からスピノザの哲学の精神の何たるかを判断することはできません。むしろ精神とはある構造を意味するので,構造主義的な観点から解する必要があるのです。そしてそれは,原理的には次のような構造を有します。
 第二部定理七系により,ある事物が形相的にformaliterすなわち知性intellectusの外に存在するなら,その形相的有esse formaleの観念というのが存在します。ここではすべての形相的有について考える必要はありませんから,ある物体が現実的に存在するなら,その物体の観念もまた現実的に存在するということだけを理解するだけで十分です。このとき,現実的に存在する物体をAとすれば,AとAの観念の秩序ordoと連結connexioは一致します。第二部定理七が意味しているのは,観念と観念対象ideatumの秩序と連結は一致するということであり,Aの観念の観念対象はAにほかならないからです。
 このときに,AとAの観念は同一個体であるといわれます。一般に観念と観念対象は同一個体であるからです。
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