漂着の浜辺から

囁きのような呟き。

緋文字

2008年01月09日 | 読書録
 
 「完訳 緋文字」 ナサニエル・ホーソーン著 八木敏雄訳
 岩波文庫 岩波書店刊

 を読む。

 以前から一度は読んでおかなければと思っていた小説をようやく読む。
 ゴシック小説の流れを汲む、アメリカ文学の原型の一冊で、最重要小説のひとつ。
 そういう知識があったから読んだが、一読した感想としては、小説としての寿命はもう尽きているのかもしれないという印象。訳文も相当読みにくいので(特に、序文とされている短編「税関」は、日本語の意味がうまくとれずに、何度も投げ出しかけた。岩波文庫は、訳文の読み取りにくいものが多い気がする)、そのせいもあるのかもしれない。
 姦通を意味する緋文字の「A」が、物語とともに様々な意味を併せ持つという発想はとても面白かったけれども。

ブルースで躍る

2008年01月06日 | 雑記

 井の頭公園の舞台前には、大抵いつも、ブルースギターを掻き鳴らして熱いブルースを歌い上げているおじいさん(年齢は、わからないけれど、65歳以上だと思います)がいて、気を吐いているのですが、今日はそのおじいさんの周りを、三、四歳くらいの男の子が跳ね回っていました。
 皮パンにウェスタンブーツ姿のおじいさんが、ギターを掻き鳴らし、ハーモニカを吹きながら、唄い、躍るように動く姿が気になって仕方ないようで、母親に連れ戻されてもすぐにそちらへ行っては、一緒になって躍っていました。お孫さんというわけでもなさそうでした。
 おじいさんの歌も気になるようでしたが、履いている皮パンも随分気になるようで、時々手を伸ばしては、触っていました。
 将来、ブルースマンにでもなるのかな。

月の雪原 / 第一部・雪原 / 7・月の雪原へ・6

2008年01月05日 | 月の雪原
 雪の中に顔を埋めて横たわっていたツァーヴェは、手と膝をついて起き上がった。そしてそのまま呆然と雪の上にぺたんと腰を降ろした。
 雪は冷たくなかった。全く冷たくなかった。ツァーヴェは手で雪を掬って、手の中で握り締めた。雪は小さな球になった。だが、自分の感覚が死んでしまったかのように、冷たさはまるで感じなかった。寧ろ、見詰めていると心地よい暖かささえ感じるほどだった。ツァーヴェは作った雪球を投げた。雪球はふわりと飛んで、音もなく深い雪床の中に消えた。
 ツァーヴェは首を巡らせた。見渡す限り、陰影に富んだ小さな起伏のある雪原が広がっていて、そのただ中に彼はたった一人だった。雪は月の光を仄かに反射して青白く輝いている。雪原の彼方には、空の隅を切り取る黒い森のギザギザの影が見えていた。天を見上げると、そこには巨大な月が煌々と輝いていたが、白金の輝きが余りにも強すぎるせいか、月の大きさが膨れたり萎んだりして見えた。ところがそれほどの月夜なのに、こうして見ていると群青の空には一面に、澄んだ色で輝く星が撒かれているのだった。
 心細さと畏怖する心が入り混じった気持ちで、ツァーヴェは長い時間呆然と空を見上げていた。やがて、不意に柔らかな風がすっと頬を撫でた。すると空にちらちらと輝きながら揺れるものが見えた。北極光だ、とツァーヴェは思った。その光を見ているうちにツァーヴェはようやく我に返り、立ち上がった。もはや見渡す限りの青い世界のどこにも妖精の姿は見えなかったが、雪の上には点々と小さな足跡が残されていた。足跡は、ずっと彼方の森を目指しているようだった。ツァーヴェは思った。あの妖精は確かにお父さんだ。僕には分かる。絶対に間違いない。なのにどうして逃げたりするのだろう。僕が分からないのだろうか。お父さんには僕が分からないのだろうか。そう思うと淋しくなったが、何か理由があるに違いないと思い直した。そうでなければ、あんなふうに僕の家にまでやって来たりしないだろう。そして眠っている僕を誘い出したりはしないだろう。それに、僕がこうしてここにやって来れたのも、きっとあの妖精……お父さんが何か魔法を懸けたからに違いない。そう思うと、ツァーヴェの体の中には気力が戻ってきた。この足跡を辿って行けばきっと妖精に、お父さんに出会うことが出来るだろう。きっとお父さんは、何か理由があって僕には話し掛けることは出来ないけれど、代わりにこうやって僕を誘っているんだ。だから僕は跡を追って行かなければならないんだ。
 ツァーヴェは確信を持ってそう思った。その確信があれば、もう迷うことなどなかった。ツァーヴェは一度だけ振り返り、彼方にぽつりと見える自分の家を見た。家には灯りはない。だが、どういうわけかそこだけ、ぼんやりと闇の中に浮かび上がって見えた。ツァーヴェは母のことを思った。あの家の中で、じっと眠っている母のことを。もしお母さんの目が醒めて、僕の姿が見えなくなっていたら、どれほど悲しむだろうとツァーヴェは思った。きっと、とても悲しむだろう。僕は何か書き置きでもしてくるべきだった。そうツァーヴェは思ったが、もちろんそんなことをしている余裕もなかったし、第一、彼にはまだ満足に文字が書けなかった。しょうがないんだ、とツァーヴェは思った。出来るだけ早くお父さんを捜してくるよ。そして、お父さんを連れて家に帰るから、お母さん、待ってて。ツァーヴェはそう思った。その思いが、母に伝わるように必死で祈った。ひとしきり祈りを終えると、彼はまた前を向き、そして妖精の小さな足跡を追って、雪の中にその素足を踏み出した。

等々力渓谷

2008年01月04日 | 雑記

 年が明けてからは、都内をいろいろと歩いていた。
 写真は、等々力渓谷。
 等々力渓谷を訪れるのは二度目。

 等々力渓谷は、二十三区内唯一の自然渓谷として有名だが、確かに喧騒の地上から、階段を下りて渓谷に入ると、まるで別世界に迷い込んだかのよう。
 でも、渓谷自体はかなり治水のための手が入っていて、久々に行った感想としては、「あれ、こんなもんだっけ?」という感じもした。

新年

2008年01月01日 | 読書録

 あけましておめでとうございます。
 今年もよろしくお願いいたします。

 今年は久々に東京で新年を迎えた。
 朝から美しく晴れ上がっていて、出かけずにはいられない。
 それで、江ノ島へ散歩がてら、初詣に出かけた。
 祖母が亡くなったので、本来なら避けるべきなのかとも思うが、そういうことはあまり気にしない方なので。
 江ノ島はさすがにすごい混雑。辺津宮への参拝はあっさりと諦めて、空いている奥津宮に参る。その後、稚児の淵へ。だが、海が荒れていて、岩場には下りることができなかった。

 去年一年間で読んだ本のなかで、面白かったものを三冊。

 1.悪の誘惑(義とされた罪人の手記と告白)  ジェイムズ・ホッグ著
 2.ウロボロス    E.R.エディスン著
 3.ハテラス船長の冒険 上・下巻   ジュール・ヴェルヌ著

 他にも、「サルガッソーの広い海」などが印象に残った。
 総括すると、去年はゴシック小説に凝った一年だったような気がする。
 今年もよい本に出会いたいですね。