漂着の浜辺から

囁きのような呟き。

奥の部屋

2016年07月11日 | 読書録
「奥の部屋」 ロバート・エイクマン著 今本渉訳
ちくま文庫 筑摩書房刊

を読む。

 かつて国書刊行会から「魔法の本棚」シリーズの一冊として出ていた同名短篇集に、新訳の一編を増補して文庫化したもの。全部で七編収録。
 ともかく奇妙な短編が並んでいる。間違いなく怖いのだけれど、その恐怖の正体が詳らかではない。ヘンリ―・ジェイムズの「ねじの回転」とか、シャーリー・ジャクスンの諸作品が好きな人なら、多分気に入るはずだが、読みながら、内田百間のことをちらりと思い浮かべたりもした。単なるゴースト・ストーリーというよりは、ふと異界に滑りこんでしまったようなひとときを描いた作風が多く、余りに細かく解説を試みると野暮になるという印象のせいだろうが、実際、アマゾンのレビューを覗いてみると、百間の名前が登場している。こういう作風は、好きか嫌いかと言えば、大好きである。わかりやすいものではない、こういうゴースト・ストーリーを愉しめる人こそが、本当の読書好きなのではないかという気がしてくるが、それはもしかしたら、この作家が日本人の嗜好に合った作家であるということなのかもしれない。

 ……とさらりと書いて、「日本人の」という表現をしたことに、妙にひっかかりを感じてしまった。
 テレビに顕著な、最近の、「日本人」連呼のせいである。
 こういう表現は、もしかしたら間違っているのかもしれないという気がして、混乱してしまう。
 テレビや本の広告で、「日本人はこんなにすごい」と謳っているのを見るたびに、恥ずかしくなってしまう。
 昨日の選挙は、けれども、国民が選んだ、あるいは選ぶことを放棄した結果、現権力者側に非常に都合のよい結果となった。
 この国の人々が、スマホの画面をじっと見つめながら、じわじわと滅んでゆく未来が来なければいいんだけれどとか、ふと思ったり。