歩きながら、ふと草原に目を遣ると、その揺れる仄かな光の隙間に、小さな家を見た。この辺りにまで、家はあるのだと私は思った。家は石ころのように小さく、窓に灯りはない。立ち止まった私に、彼女が並んだ。私は彼女の裸の腰に手を回した。そうして、塔に向かって歩いた。
目が醒めて、ベッドの中で身体を起こした。隣には、彼女が眠っていた。私は部屋の中を見渡した。部屋には、壁に無数に穿たれた窓から差し込む仄かな青い光があったが、それは何かをはっきりと見るには十分な光ではなかった。じっと見詰めていると見えなくて、少し余所見をしていると見えてくる、そうした種類の光だった。私は彼女を見詰めた。彼女の肌は、そうした光の中でも、驚くほど白かった。私がじっと彼女を見詰めていると、彼女はふっと目を覚ました。私は手を彼女の頬に当てて、滑らせた。それから私は立ち上がり、部屋を横切って、広く開いた窓に向かった。
私は窓から外を見た。平原は、一面の青さだった。しかしその青さは、よく見ていると一様ではなかった。ある場所ではその青さはコバルトブルーに近く、また別の場所ではややターコイズブルーに近かった。それは、例えばまるで珊瑚礁の海のようだった。そうだ、珊瑚礁、と私は思った。懐かしい響きだった。かつて見たのは、いったいどのくらい前のことだっただろう。今となっては、ほとんど神話のように思える。
私は上を見上げた。昏い空の中に、目が醒めるほど白い《太陽の果実》の、膨れ上がった「腹」が見えた。時が来たのだと私は思った。
肩に触れる手を感じて、振り返ると、彼女が立っていた。
私は言った。ちょっと行ってくる。
彼女は私の背中に身体を添わせた。背中に、彼女の乳房を感じた。私はそっと身体を滑らせた。そして、彼女を抱きしめた。それからくちづけを交わし、裸のまま、窓から身体を乗り出した。
最初に手をかけたのは、紫色の樹だった。しっかりと手を掛けて掴まり、身体を持ち上げた。そうして随分昇ったあと、赤い樹に移り、やがて青い樹に移った。きちんと足場を確保しながら、できるだけ体力を消耗しないように気をつけて行かなければならないと私は自分に言い聞かせた。そして手を緑の樹に掛け、身体を持ち上げた。緑の樹の枝にしっかりと掴まりながら数メートル登ったあと、今度は黄色の樹に移った。そこで一休みして下を見ると、彼女が身を乗り出して、こちらを見上げているのが見えた。彼女の顔が、恐ろしく白く見えた。それはまるで陥穽のようにさえ思えた。私は微笑み、手を振った。それからまた上を見た。余りにも高くて、下を見ていると足がすくんで動かなくなりそうだった。私は橙の樹に移った。その樹は太くて、良い足場だった。それで、随分長い距離をその樹に頼って登っていった。
最後に頼りにした樹は、白い樹だった。もう《太陽の果実》は、目の前だった。見上げると、《太陽の果実》は、確かに呼吸するように微かに動いていた。よく見ると、《太陽の果実》の表面には、細くて透き通った糸のようなものが無数に見えた。そして、風はなかったが、それがさわさわと揺れていた。
目が醒めて、ベッドの中で身体を起こした。隣には、彼女が眠っていた。私は部屋の中を見渡した。部屋には、壁に無数に穿たれた窓から差し込む仄かな青い光があったが、それは何かをはっきりと見るには十分な光ではなかった。じっと見詰めていると見えなくて、少し余所見をしていると見えてくる、そうした種類の光だった。私は彼女を見詰めた。彼女の肌は、そうした光の中でも、驚くほど白かった。私がじっと彼女を見詰めていると、彼女はふっと目を覚ました。私は手を彼女の頬に当てて、滑らせた。それから私は立ち上がり、部屋を横切って、広く開いた窓に向かった。
私は窓から外を見た。平原は、一面の青さだった。しかしその青さは、よく見ていると一様ではなかった。ある場所ではその青さはコバルトブルーに近く、また別の場所ではややターコイズブルーに近かった。それは、例えばまるで珊瑚礁の海のようだった。そうだ、珊瑚礁、と私は思った。懐かしい響きだった。かつて見たのは、いったいどのくらい前のことだっただろう。今となっては、ほとんど神話のように思える。
私は上を見上げた。昏い空の中に、目が醒めるほど白い《太陽の果実》の、膨れ上がった「腹」が見えた。時が来たのだと私は思った。
肩に触れる手を感じて、振り返ると、彼女が立っていた。
私は言った。ちょっと行ってくる。
彼女は私の背中に身体を添わせた。背中に、彼女の乳房を感じた。私はそっと身体を滑らせた。そして、彼女を抱きしめた。それからくちづけを交わし、裸のまま、窓から身体を乗り出した。
最初に手をかけたのは、紫色の樹だった。しっかりと手を掛けて掴まり、身体を持ち上げた。そうして随分昇ったあと、赤い樹に移り、やがて青い樹に移った。きちんと足場を確保しながら、できるだけ体力を消耗しないように気をつけて行かなければならないと私は自分に言い聞かせた。そして手を緑の樹に掛け、身体を持ち上げた。緑の樹の枝にしっかりと掴まりながら数メートル登ったあと、今度は黄色の樹に移った。そこで一休みして下を見ると、彼女が身を乗り出して、こちらを見上げているのが見えた。彼女の顔が、恐ろしく白く見えた。それはまるで陥穽のようにさえ思えた。私は微笑み、手を振った。それからまた上を見た。余りにも高くて、下を見ていると足がすくんで動かなくなりそうだった。私は橙の樹に移った。その樹は太くて、良い足場だった。それで、随分長い距離をその樹に頼って登っていった。
最後に頼りにした樹は、白い樹だった。もう《太陽の果実》は、目の前だった。見上げると、《太陽の果実》は、確かに呼吸するように微かに動いていた。よく見ると、《太陽の果実》の表面には、細くて透き通った糸のようなものが無数に見えた。そして、風はなかったが、それがさわさわと揺れていた。