漂着の浜辺から
囁きのような呟き。
 



「少女には向かない職業」 桜庭一樹著
創元推理文庫 東京創元社刊

を読む。

 以前に読んだ「砂糖菓子の弾丸は撃ちぬけない」と、系統的には似た長編。ライトノベルではあるんだけれど、十代の少女の心を掴みそうな、透明感と痛みに満ちたガラスのような文体がよかった。
 出来事がひとつの辛い結末を迎えたとき、その理不尽さに満ちた現実に押しつぶされそうになりながら、「なぜわたしたちはこんなふうな結末を迎えることになってしまったのだろう」と繰り返す。波のように返しては寄せる後悔と呪詛。そんな後戻り出来なくなった場所で、たった一人で立ち尽くす少女の物語を描くのが、桜庭一樹はとても上手い。


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2  


「2」 野崎まど著
メディアワークス文庫 アスキーメディアワークス刊

を読む。

 不思議なタイトルだけれど、読みながら納得。要するにこの一作が、それまでに同じメディアワークス文庫から出た著者の作品群、つまり、「[映] アムリタ」、「舞面真面とお面の女」、「死なない生徒殺人事件 ~識別組子とさまよえる不死~」、「小説家のつくり方」、「パーフェクトフレンド」の五作品すべての直接の続編というわけだ。そりゃ、「2」以外のタイトルはないわな。最初からそのつもりでずっと書いていたのか、それともあと付けでこういうことになったのか、分からないけれども、この分厚さに見合うだけの内容がつめ込まれた、盛りだくさんな一冊ではあったと思う。まあ、かなり強引な展開ではあったけれど、ラストの、どんでん返しの連続はなかなか圧巻だった。
 舞台が吉祥寺というのも、面白さをかきたててくれた。実在の場所や建物が(もちろん名前は変えてあるけれど)たくさん出てきて、元住民としては「ああ、あそこか」と思いながら読んだ。名前は変えてあるけれども、今はなきバウスシアターが、クライマックスで重要な舞台となっていたのにも、ちょっとしんみりした。


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「白鹿亭綺譚」 A.C.クラーク著 平井イサク訳
ハヤカワ文庫SF 早川書房刊

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 ロンドンの小さなパブ「白鹿亭」を舞台に、そこの常連ハリー・パーヴィスらが語る科学的ホラ話を集めた連作短編集。こうしたホラ話といえば、ぼくなんかはすぐにダンセイニ卿の「ジョゼフ・ジョーキンズもの」を思い出してしまう。けれども、クラークは、確かダンセイニを愛読していたはずだから、多分その連想は間違っていないだろうと思う。あと、イタロ・カルヴィーノの「柔らかい月」や「レ・コスミコミケ」だ。まあ、そこまでぶっ飛んでいないけれども。
 肩の力を抜いて読める科学的(?)ホラ話が詰まっているのだが、さすがに多少は古く感じる。でもまあ、悪くない。クラークの書いたユーモアSFといったところ。
 それはそうと、この本は古本屋の100円均一棚で買ったのだが、最後のページに「大瀧蔵書」と蔵書印が押してある。大瀧?まさか大瀧啓裕氏の旧蔵書ではないよね?まあ、どうでもいい話なんですが。

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 先週、浪人中の娘の受験が終わった。三校で全六学部を受けたのだが、今のところ結果がわかっている二校四学部については、無事すべて合格とのこと。ようやく肩の荷が下りたというところ。残りの結果待ちの一校二学部は、微妙なところらしく、娘はあまり期待できないと言っている。結果発表は明後日。まあだけど、既に合格が決定している第二志望の学校も行きたいところだったから、十分納得はしているようだ。ぼくも別に文句はない。とりあえずはまあ、お疲れ様でした。よかったね。

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「僕の光輝く世界」 山本弘 著 
講談社刊

を読む。

 アントン症候群と呼ばれる脳疾患がある。これは、失明しているにも関わらず、本人は「見えている」と主張し、譲らない症例のことだ。脳について書かれた本を読んでいると、目というものは実は非常に貧弱な器官であり、人が「見えている」と感じている世界は、実は脳によって解釈された世界であると書かれている。実際に目に映る世界というのは、100万画素くらいの解像度しかない上に、上下が逆に映っており、しかも視神経の関係で盲点と呼ばれる全く物が見えない点が存在している。それを脳が上下を直し、解像度を上げ、見えていない部分を補完しているというわけである。つまり「見えている」というのは、脳が再構成した世界を情報として受け取っているわけである。ならば、実際に見えていなくても、脳が「見えている」と感じるのなら、それは見えているのと変わらないリアルさを感じているのではないか。この作品の中では、アントン症候群にかかった主人公は、自分が見たいように世界が見えるという、一種の「能力」を手に入れている。女性はみんな自分の好みの容姿をしているし、なんと、読めないはずのマンガさえ、想像で読めてしまう。
 これだけ聞くと、なんとなく羨ましくさえあるような病気だが、実際のアントン症候群は、もちろんそんな夢のような疾患ではなく、知覚がないということさえ認知できないほどに意識が低下した状態にすぎないとも言う。要するに、まともな日常生活さえ送れないような、かなり重篤な状態だ。もっとも、だからといって実際に脳が作り上げた幻さえ「何も見えていない」とは言い切れないので、その辺りははっきりと分かっているわけではないようだけれども。この作品の中では、実際に見えていると感じているという説を採用している。
 主人公が、実際には見えていないマンガを手にとることで超絶的な推理能力を発揮して、事件の真相につながるマンガを読めてしまうというのは、見当識に障害がみられるというアントン症候群の重篤さを考えればそれこそかなりマンガ的だが、そこを深く考えなければ、結構面白い。シリーズにできそうな作品だ。
 ぼくは、山本弘作品とはかなり相性がいいようで、大抵面白く読めてしまう。これも、ジャンルとしては多分ライトノベルということになるのだろうが、どこかSFジュブナイルの香りがする気がする。著者の生まれは1956年で、デビューが新井素子と同じ第一回奇想天外SF新人賞というから、まさにジュブナイルの世代である。デビュー以前には、筒井康隆の「NULL」の同人でもあった。結局のところ、その辺りが、ぼくが読みやすいと感じる理由なのかもしれないけれど。

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「治療島」 セバスチャン・フィツェック 著  赤根洋子 訳
柏書房刊

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 謎が謎を呼ぶノンストップのサスペンスといったストーリー展開で、最初は面白かったのだけれど、比較的早い段階で、「もしかしてこれ、妄想オチじゃないよね?」という疑問が湧いてくる。いやまさかと思いながら読んだけれど、結局そのとおりで、うーん、という感じ。妄想だったら、なんだってアリだよなあ。二段階のオチまでは想像していなかったけれど、すべて妄想だったとわかった時点で作品自体に興味を失い、それもフーンという感じになってしまった。

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「聖なる怠け者の冒険」 森見登美彦 著
朝日新聞出版刊

を読む。

 朝日新聞に連載されていることは知っていた。朝日新聞を購読しているので。けれども、連載中は一度も読まなかった。今回、単行本が出ているのを見つけたので、読んでみたが、なんと、連載されていたものとは全く違う作品に書き下ろされているらしい。なんでも、登場人物以外は全く違うとか。連載を読んでいなかったので、わからないけれども、他でもない著者が言うのだから、間違いないのだろう。
 京都を舞台にしたミステリー……なのかな?いや、違うな。なんだろう。脱力小説?土曜日小説?変な人たちがたくさん出てきて、大捕物を繰り広げたりしているのだが、主人公といえば、夢の中で夢を見て、その夢の中でさらに夢を見て……という、まるでP.K.ディックの小説のような、けれども全く悪夢的ではない、心地よい眠りの中にいて、ほとんど何の行動もとらないというような状態だったりする。ストーリーがないわけではないのだけれど、そこを追うことにはさほど意味がなさそう。これは土曜日についての小説、休みを明日にひかえた、少し特別な日の、少し力の抜けた幸福についての小説なのかなあと思ったり。


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