「折れた竜骨」 米澤穂信著
ミステリ・フロンティア 東京創元社刊
を読む。
12世紀のヨーロッパを舞台に、魔術の存在を前提とした条件下でのミステリ(まあ、普通にファンタジーだと言っても良さそうではあるけれど)。なぜ作者がこんな設定を採用したのかは、最後にその犯人が明かされる時に納得する。なるほど、そういうことならば、魔術が存在するという設定は必須だ。逆に言えば、そうしたトリックを使うために、いかにも堅固な物語世界を創りだしたわけだ。
最初はさほど期待しないで読み始めたのだけれど、気がついたら夢中で読み進めていた。物語が非常にいきいきとしているし、登場人物たちも魅力のある人物ばかりである。間違いなく傑作で、中高生に読書の愉しみを感じてもらうには、最適の一冊じゃないだろうか。
ところで、この作品は漫画化されたらしく、ウェブ上で無料公開もされているのだが、ちょっと見たところでは、絵に透明感がありすぎて、どうもしっくりこない。そう思うのには、実は理由があって、読んでいる最中、どういうわけか、幾度となく荒木飛呂彦氏の強い癖のある画風が思い浮かんで仕方なかったのだ。特に、マジャル人の女戦士ハール・エンマなどは、ぴったりなんじゃないかという気するのだけれど、どうだろう。