漂着の浜辺から
囁きのような呟き。
 




「芝生の復讐」 リチャード・ブローティガン著  藤本和子訳
新潮文庫 新潮社刊

 を読む。

 短編集だが、小品集と言った方がいいような気がする一冊。孤独を描きとったスケッチのような作品、あるいは断章が詰め込まれている。
 この一冊のことをどう語ればいいのか、僕には思いつけない。だが、誠実な一冊であるのだけは間違いない。誰でも自分の中に、きれぎれになった記憶の破片があるはずだ。それを集めたのがこの一冊だと、そんな風にいえばいいのだろうか。

コメント ( 2 ) | Trackback ( 0 )





今日は暖かかったが、風があった。
 それでも、自転車に乗って、和田堀公園まで出かけた。
 暖かさのおかげで、風があっても、気分が清々する。

 「阿佐ヶ谷住宅」というのが善福寺川緑地の側にある。
 ここは、知る人ぞ知る、「奇跡の団地」である。そういうタイトルの本も出ている。日本のテラスハウスの先鞭をつけた団地群だ。そのせいか、僕たちが散歩している間にも、数人、写真をとって歩いている人がいた。
 写真では分からないだろうけれども(だから、もっといい写真があるサイトをリンクしておく)、時間や空間が「ちょっとずれた場所」にいるような気分になる、不思議な場所である。敷地内の道が、ゆるやかにカーブを描いているのだが、そこを歩いていると、まるで映画の中のかつてのアメリカの風景のような気分にさえなる。こんな場所が阿佐ヶ谷に残っていることが不思議なくらいだ。
 ネットで調べると、ここは今、建て替えをめぐってかなりもめているようだ。もちろん、大きなお金が動くという、かなり生臭いことがその問題の根底にはあるようで、簡単には収束しないかもしれない。僕は全く部外者だけれど、この場所のような、どこか懐かしい感じのする、風の通る心地よい場所が失われるのは、街がどんどんとつまらない建物ばかりの場所になってゆくようで、寂しい気がする。
 こういうサイトもある。

 住宅の敷地内の中央には公園があった。かつて、この団地がもっとも活気があった頃には、ここで住人たちによる運動会も開かれていたらしい。子どもたちが数人、その公園で遊んでいた。娘は今日、そこで簡単に四葉のクローバーをみつけた。きれいな形の、四葉のクローバーだ。その公園には街頭時計があった。その時計は、十二時きっかりを目前に、止まったままだった。


コメント ( 0 ) | Trackback ( 0 )





 僕はその巨大な美しさに心を奪われたが、ノールではそれを隠すことはしない。身体の大きさを隠すことは、とても礼を失する行為で、人生から美を奪い取ってしまうような、芸術や友情に対する犯罪だとされていた。僕は狂ったように前へと進み、彼女の前で崩れて跪くと、手を広げ、その輝く超生命体の肉体、その足に触れようとした。
 僕の傍らでは、《ムー》の中心からやってきた他の若者たちも同じように、欲望に身を焦がしていた。
 僕たちの手が彼女の肉体に触れた時、肉体電気の凄まじい衝撃が体を貫いた。僕たちは我慢できないほどの喜びを感じながら、俯きざまに床の上へと崩れた。
 彼女は僕たちを一人ひとり拾い上げて、彼女の前のデスクに移した。僕たちはしっかりと背中を伸ばし、燃える瞳で見詰めた。彼女は僕たちの疑視を避けた。そしてノールのエルダーの王女の巨大な美しい瞳は、僕たちの心のなかに質問を投げかけてきた。僕たちは、一人の人間であるかのように、口を揃えた。
 「ええ、本当です!《ムー》の中心、《ティーン・シティ》は、悪が支配しているのです!」
 その時になって、僕は母なる《ムー》のティターンとアトランのテクニコンは、ノータン、それから他のいくつもの暗い世界に存在する偉大なる人々との間には、いかに遠い隔たりが存在しているのかを悟った。ヴァヌーは、それ以上無駄に時間を費やそうとはしなかった。彼女が王座の前に並んだ機器の前に体を屈め、レバーを引くと、全ての船に出発を告げる警報が届いた。まるで彼らが僕自身であるかのように、彼女の思考を読み取った!彼女はクヮントを脱出しようとしているのだ。
 ノータンは確かに、太陽に冒されてボケた僕たちの種族とは違った。彼女は狂気のデロの言いなりになって、惑星の多くの人々を脅威にさらすことの恐るべき危うさについて理解していたのだ。
 彼女の指示によって、僕たちは皆、急いで王座の周りを取り囲んでいる席についた。そこには加速吸収装置が備わっていた。巨大な手がレバーを押し下げると、重力を失った船は上昇ビームによって、大洞穴の外へと漂い出した。
 船の厚い壁を通してさえ、背後で巨大なエアロックが大きな音を立てて閉じた音が聞こえた。それから僕たちは宇宙空間をノールへと向かったが、その大きな冷たい惑星は、このエルダーの女神の娘が、何世紀も前に生まれたところだった。この突然の出発は、ヴァヌーにとって、僕たちのもたらしたニュースが少なからぬ意味を持っている確かな証拠だった。彼女は、脱出は避けられないということを判断できるだけの、エルダーの神のセンスを持っていたのだ。僕の胸には、もしアトランのエルダーかロダイトがクヮントの偉大なるヴァヌーのような知識を持っていたらどうだろうという恐れがあった。もしそうなら、随分と違ったかもしれない!

****************


I yearned toward that vast beauty which was not hidden for in Nor it is considered impolite to conceal the body greatly, being an offense against art and friendship to take beauty out of life. I was impelled madly toward her until I fell on my knees before her, my hands outstretched to touch the gleaming, ultra-living flesh of her feet.
Beside me the other youths from center Mu were in the same condition of ecstatic desire.
As our hands touched her flesh, a terrific charge of body electric flowed into us. We fell face downward in unbearable pleasure on the floor.
She picked us up one by one and placed us on the desk before her. Waist-high now were our burning eyes. She bent to meet our gaze; and the mighty beauty of the eyes of the Elder princess of Nor flashed a question into our minds. As one man we chorused:
"Yes, it is true! Evil has the upper hand in center Mu; in Tean City itself!"
It was then that I realized how far ahead of Mother Mu's Titan and Atlan technicons were the Nortans and, I supposed, all other great ones of the dark worlds. For Vanue wasted no more time on us, but bending toward the banks of instruments before her throne, pulled a lever and through all the ship was heard the warning signal of departure. As if they were my own, I knew her thoughts! Quanto was to be evacuated.
The Nortans were certainly not the sun-spoiled sleepyheads our own race had proved to be. She understood the awful danger that could threaten a planet's multitudes' under the thumb of the dero madness.
At her willed command we all ran to seats that circled the throne. They were mounted on acceleration absorbers. The grand hand pressed the bar that lifted the now weightless ship up the force beam flowing out of the cavern.
Even through the thick walls of the ship we heard the huge airlocks scream shut behind us. Then we were out in space headed toward Nor, the vast cold planet where this Elder Goddess' daughter had been born centuries before. I realized that our precipitate departure was sure evidence that our news had meant much more than nothing to Vanue. She had enough Elder God sense in her to know that flight was imperative. There were misgivings in my breast as I wondered if any Atlan Elders or rodite had knowledge of mighty Vanue's presence in Quanto. It might make a great difference if they did!

"I Remember Lemuria"
Written by Richard S. Shaver
(リチャード・S・シェーバー)
Translated by shigeyuki




コメント ( 0 ) | Trackback ( 0 )





 建物を出ると、すぐ側に長い上行性の透明な乗降チューブがスペースライナーの側面へと伸びており、それは発射架台の中で眠っている怪物のようだった。これは直接惑星に着陸できる唯一の船である!けれどもクヮントは小さいのだ。僕たちはいくつもエアロックを通り抜け、船の内部に辿り着いた。
 そこは船の中央へと続く長い通路だった。前に進みながら、僕はすれ違う全てのroが少女であるということに気づいた。美しく色白のノールの少女たちは、キラキラと輝く淡い金髪で、それは雲の中にある頭の周りに流れていたが、素晴らしいことに、それは空気を生み出しているのだった。
 すぐに僕は補完的な力のオーラに気づくようになった。それがノールのエルダーの長、ヴァヌーからきたものであるということがわかると、いよいよ近づいているのだということをはっきりと感じた。彼女の力の香りは、通路に面した大きなドアに近づくにつれて、どんどんと強くなっていった。このドアの上にある金属プレートには、光り輝く文字で、伝説的な人物の名前が刻まれていた。
 
 ヴァヌー
 ノールのヴァンのエルダー・プリンセス
 クヮントにおけるノールの長
 
 大きなドアはエアロックだった。部屋の中のイオン化した富養空気を保つためだ。部屋の中からエルダーたちが出ることはめったになかったし、悪が入り込むことも防止されていた。
 エアロックを通り抜ける時、導電性媒体の凄まじい刺激で、強いエクスタシーに襲われた。僕たちは強力な磁力によって巨大な人影の方へと引き寄せられたが、そこには探し求める美そのものであるかのような、強い生命力に満ちた性質が一点に集中していた。
 自分の内部で、僕は自分の存在のコンパスの針が、その新しい魅惑の中心に向かって振れるのを感じた。僕はもはや自分自身ではなかった。目の前の巨大な存在の一部であった。僕の思考はすなわち彼女の思考だった。彼女が僕を解放してくれない限り、僕は彼女のroであった。
 彼女は僕を解放するだろうか?僕には思いもつかなかったし、望みもしなかった。僕は怒りなど感じなかったし、後悔もしなかった――あるのはただ喜びだけだった。
 彼女は八十フィートはあったに違いない。挨拶をするために立ち上がったとき、彼女は僕たちの頭上に聳えて見えた。その頭の周りには、ノールの女性の持つ巨大な光る雲が流れていて、その姿を包み込む、可視性の虹色の性のオーラが見えていた。

****************


We left the building and presently were ascending a long, transparent boarding tube into the side of a space liner that lay like a sleeping monster in the launching cradles. This was one ship that could land directly on a planet! But then, Quanto was small. We passed through a series of airlocks, reached the inside of the ship.
It was a long way into the center of the ship. As we progressed, I noted that all the ro who passed were maidens; beautiful white Nor maidens with glittering white-yellow hair that floated about their heads in a cloud, so fine was it that it was air-borne.
Soon I became aware of an aura of complementary forces that I knew came from the Nor Chief Elder, Vanue, whom we were undoubtedly now nearing. Her force scent grew stronger as we approached a mighty door set across a corridor. In glowing letters of hammered metal above this door was the legend:

VANUE
Elder Princess Of Van Of Nor
Chief Of Nor On Quanto

The great door, I discovered, was an airlock; to hold in the ionized and nutrient-saturated air of the chamber. These chambers the Elders seldom leave, since all evil is restrained from entering.
As we passed through the lock, the terrific stimulation of this conductive electrified medium seized us in a mighty ecstasy. We were drawn as by a powerful magnet toward a huge figure which was an intense concentration of all the vitally stimulating qualities that make beauty the sought-for thing that it is.
Within me I could feel the compass of my being swinging toward its new center of attraction. I was no longer myself. I was a part of that mighty being before me. My thought was her thought; I was her ro until she chose to release me.
Could she release me? I could not even wish it, nor ever would. Within me I knew that, and I felt no resentment, no regret--only joy.
All of eighty feet tall she must have been. She towered over our heads as she arose to greet us, a vast cloud of the glittering hair of the Nor women floating about her head, the sex aura a visible iridescence flashing about her form.

"I Remember Lemuria"
Written by Richard S. Shaver
(リチャード・S・シェーバー)
Translated by shigeyuki




コメント ( 0 ) | Trackback ( 0 )





 その呪われた通りはライトアップされ、賑やかだった!揺れる電球が三つ、それほど離れてはいない場所で、恐ろしい死の戦場の光景をすっかりと照らし出していた。
 そこには発電機が一つあったので、ぼくはそれを自分の穴ぐらへと運ぶつもりで、にやりとほくそ笑んだ。それはぼくに繰り返し魔法をかけ、ぴたりと止まり、そしてまた始まって、止まり、そしてまた魔法をかけてきた。店の上の方で僕に向き合っているのは、赤地に白い文字の入った旗で、言葉の嵐をまき散らしていた。《メトカルフェズ・ストア》。そして旗の下、真下の家には、電飾の文字が綴られていた。それは二つの単語で出来ていて、ゆっくりと終りまで綴ってしまうと、また最初に戻って綴り始めるのだった。
 Drink
 ROBORAL.
 そしてそれは、ぼくアダム・ジェファソンにに向けた、人類最後の言葉であった――それは最後の助言であり――究極の福音であり、メッセージ――であった――おお、神よ、!Drink Roboraか!(注:roborantで強壮剤という意味だから、精力剤か何かの広告か?)
 このあからさまに下品な、骸骨の哄笑のような言葉でかっとなり、ぼくは車から飛び降りると、投げつけようと石を探した。だが石はどこにも見当たらなかった。それでぼくは目に飛び込んでくる言葉にじっとたえながら、為す術も無く立っているしかなかったが、その言葉は誇らしげに――繰り返し、嘲るように文字を綴り続けた――D, R, I, N, K R, O, B, O, R, A, L.と。
 それは電飾広告のひとつで、発電機によって動く小さな整流子電動機によって稼働するのだが、ぼくはそれを今動かしてみたのだ。運命のサバスの夜の数日前には、科学者は仕事を整え終えておかなければならないが、その仕事が放棄されたということがわかると、それをまた取りやめるということに対して心を煩わせたりはしない。いずれにせよ、それでぼくはその日の仕事を終えることにしたが、もうその時には夜になっていた。それでぼくは自分が寝床にしている場所まで、疲れきったむっつりとした表情で、運転していった。Roboralがぼくの悲しみを癒してくれるはずなどないということが分かっていたからである。
 

****************


That cursed street was all lighted up and gay! and three shimmering electric globes, not far apart, illuminated every feature of a ghastly battle-field of dead.
And there was a thing there, the grinning impression of which I shall carry to my grave: a thing which spelled and spelled at me, and ceased, and began again, and ceased, and spelled at me. For, above a shop which faced me was a flag, a red flag with white letters, fluttering on the gale the words: 'Metcalfe's Stores'; and beneath the flag, stretched right across the house, was the thing which spelled, letter by letter, in letters of light: and it spelled two words, deliberately, coming to the end, and going back to recommence:
Drink
ROBORAL.
And that was the last word of civilised Man to me, Adam Jeffson―its final counsel―its ultimate gospel and message―to me, my good God! Drink Roboral!
I was put into such a passion of rage by this blatant ribaldry, which affected me like the laughter of a skeleton, that I rushed from the car, with the intention, I believe, of seeking stones to stone it: but no stones were there: and I had to stand impotently enduring that rape of my eyes, its victoriously-dogged iteration, its taunting leer, its Drink Roboral―D, R, I, N, K R, O, B, O, R, A, L.
It was one of those electrical spelling-advertisements, worked by a small motor commutator driven by a works-motor, and I had now set it going: for on some night before that Sabbath of doom the chemist must have set it to work, but finding the works abandoned, had not troubled to shut it down again. At any rate, this thing stopped my work for that day, for when I went to shut down the works it was night; and I drove to the place which I had made my home in sullen and weary mood: for I knew that Roboral would not cure the least of all my sores.

"The Purple Cloud"
Written by M.P. Shiel
(M.P. シール)
Translated by shigeyuki




コメント ( 0 ) | Trackback ( 0 )





「高丘親王航海記」 渋澤龍彦 著
文春文庫 文藝春秋社刊

を読む。

 澁澤龍彦の本は、中高生の頃に結構読んだ気がするが、それほど熱心に読み込んだというわけでもなく、なんとなくいろいろと読んだというのが正直なところだった。それでも、中公文庫の「悪魔のいる文学史」は何度も読んだ記憶があるし(ペトリュス・ボレルとかグザヴィエ・フォルヌレが好きだった)、同文庫の「少女コレクション序説」の四谷シモンの関節人形には、そんなものがあるのを初めて知った本だったので、はっとしたのを覚えている。あとは、マルキ・ド・サドの本には随分と驚いた。だけど、その後が続かなかった。マンディアルグやバタイユは僕にはどうも馴染めなかったから、いつの間にか読むこともなくなった。どこか醒めたような冷たい文体にも、物足りなさを感じたのかもしれない。物知りだけれどもそれだけだなあというのが、当時の僕の感想だった。同じもの知りでも、荒俣宏氏と比べるとその資質の差ははっきりとする。荒俣氏の書くものは、かなり思い込みが激しくて、ちょっと間違った部分も沢山ある気がする。だが読んでいて、はっとする楽しさがある。それに、様々な分野を自在に行き来する軽やかさがある。澁澤氏の書くものは、正確で、冷静だ。資料としては申し分ない。だが、躍動感には欠ける気がする。
 話が関係の無い方にゆきそうなので、「高岡親王航海記」に戻すと、これは澁澤氏の遺作で、唯一の長編小説。かなり面白い。他の澁澤氏の小説は、「犬狼都市」しか読んでいないので、何とも言えないが、多分一番物語性が高くてよく出来ているのではないかと思う。読みながら、筒井康隆の「旅のラゴス」とかも思い出した。澁澤氏ならではの、醒めた、冷たい文体が効果的に使われている。作中の視点の変化が斬新だった。

コメント ( 2 ) | Trackback ( 0 )





 街の中を管理局へと向かって歩きながら、もう一度急いで故郷へと戻る必要があるのだということが気になった。ここでぐずぐずとしているよりも、旅を続ける方が良いのだということはわかっていた。それで時間を節約するために、《ムー》の中心部を襲った危機的な状況のことを心の中に描き続けた。新しい太陽への移住が遅れているということをである。追跡の恐怖はまだ心の中に鮮やかだった。僕にはわかっていた。今向かっている管理局のビルの中には、神経を尖らせているノールのエルダーが何人かいて、僕たちが害をなすつもりがないか、心の中を記録しているに違いないということを。
 それゆえ目的地に到着したときには、旅立ちの理由を説明する必要などほとんどなかった。そして同時に、僕を不安でいっぱいにする別の事実が明らかとなった。そんなものなど存在しないと思っていた場所にも、不安は存在したのだ!
 雪のような肌の色をしたノータンの若い女性が、腕を広げ、滑るように僕の方へとやってきて、柔らかい鈴のような声で、僕たちみんなに歓迎の言葉を述べた。
 「わたしたちはあなたの考えを読み取って、どうしてあなた方がここへとやってきたのかを理解しました。わたしに付いて来てください。今から実際に話をして確認するために、エルダーの長である、プリンセス・ヴァヌーに会いにゆきます。怖がらないでください。なぜなら、これからあなた方は、恐怖のないところに行くからです。あなたのメッセージは、無力で哀れな《ムー》の、あなた方の同胞たちにだけではなく、わたしたちにも警笛を鳴らしてくれました」[*24]
 「プリンセス、エルダーの長」という言葉は、僕に新しい種類の不安をもたらした。エルダーの長については、《ティーン・シティ》において、すでに説明を受けていた。彼らは最も古い種族で、yalueの業績によって、特権を与えられていた。彼らには男女が存在し、成長の秘密のすべては、そこから学んだのだ。どのように栄養があって有益な活性を持つ生命を支えるエッセンスを作るかという、その方法をである。人々の標準的な栄養の改良の能力は、たいてい彼らの成功に負っているのだ。従って、僕のような普通のroがエルダーの一人の側にゆくと、無意識のうちに彼らの意思が自分の意思になってしまうのだ。それは、その大きさによって圧倒され、彼らの内側にある生命の力がすべて支配されてしまうからだ。エルダーが同性であるときには、人はほとんど注意を払うことはないが、生命の力が異性であるときには、その魅力は抵抗し難いほど大きくなる。これが真実であるがゆえに、roは基本的に自分とは逆の性のエルダーの側にゆくことは許されてはいない。エルダーへの愛に盲目となって、自らを見失ってしまうからだ。
 僕たちが連れられてゆく先のエルダーが女性だと知って、心が震えた。その王女は、僕の知らない何世紀にも渡って、成長促進物質のエッセンスをまるごと享受してきたのだ。さらには、ノールには太陽に冒された僕たちのサイエンコンの業績の遥か上をゆく科学力が存在するに違いない。そのことを意識せずにいられるはずはなかった。王女の力は、僕を圧倒することだろう!
 僕は絶望的な気分でアールの愛しい顔を見た。もしそれが本当なら、もう彼女への愛など消えてなくなってしまうかもしれなかった。アールの瞳に、僕は同じ恐れを読み取った。そして彼女が僕を心から愛しているのだということを知った。僕は近づきつつある喪失に苦しんだ。だがそれがどうしようもないことだということも朧げに理解していた――というのは、エルダーの女性に近づいて、彼女への真実の愛を否定できるような男など存在しないからだった。

*****

原注
 *24) ノータンは、アトランやティターンと同じように、宇宙の共通言語を話している。その言語は、遥か昔のティターン・エルダーの言語が母体である。その言語は、「マントン」と呼ばれている。三つの種族が一同に会して語り合ったため、それぞれの種族に固有の言語は使用されなかったのだ。これは「アメージング・ストーリーズ」の一九四四年一月号に載った言語一覧と同じものであり、この本にも付録として収録されている。――(編者)


****************


The thought of the fear brought the need for haste once more home to me as we walked through the city toward the administrative buildings. It was better to continue our flight than to remain long even here, I knew. So, to improve time, I kept running over in my mind the desperate plight of center Mu; the delaying of the migration to a newborn sun; the fear of pursuit that was still with us; for I knew that in that administrative building toward which we were headed some watchful Elder of Nor was most certainly taking thought record of our minds, to see if there were harm in us.
So, when we reached our destination, it instantly became evident that we would have little explaining left to do. And at the same time, another thing became evident to me that filled me with terror. Fear, again, in the one place where I had thought I would not find it!
A young lady of the snowskinned Nortan race glided toward me, her hand outstretched in greeting, her voice a soft bell of welcome for all of us.
"We have read your thoughts and understand what brings you here. Follow me now to the Princess Vanue, chief Elder, for an oral check; and forget your fear, for soon you will be going to where fear is not. Your message spells danger to us, as well as to your poor, helpless fellows in Mu." [*24]
It had been the words "Princess , chief Elder" that had struck a new kind of fear into me. The chief Elders had been described to me in Tean City. They are the oldest of the race, and are given official power, according to the yalue of their achievements to the race. They are of both sexes, and have learned all there is to know of the secrets of growth; how to manufacture their own life-supporting essences, nutrients and beneficial vibrants. And on their ability to improve upon the standard nutrients of the people often depends their success. Thus, when a simple ro like myself comes near one of these Elders, his will becomes their will automatically; for it is overcome by the great, all-pervading force of the life within them. One hardly notices this when the Elder is of the same sex, but when that life force is of the opposite sex the attraction is so great as to be irresistible. So true is this that seldom is a ro of one sex allowed too near an Elder of the opposite sex; for never again would the poor ro free himself of love for the Elder.
My spirit trembled when I knew the Elder to which we were being taken was a woman; a woman who for unknown centuries had absorbed all the essences of growth-promoting substances. And too, Nor was a place where growth science must be far, far ahead of our own sun-baked sciencon's achievements. Never would I be able to free myself of the spell that: woman-force would cast upon me!
I looked desperately at Arl's sweet face. Never again would I love her if this thing were true. In Arl's eyes I read the same fear, and I know then that she surely loved me and I was torn by the approaching loss. However, I dimly understood that it must be necessary--for no man near an Elder woman can deny her the truth of love for her.

*****

#footnote#
^52:24 The Nortans, as did the Atlans and Titans, spoke the universal language of space; a language originated by a Titan Elder of the far past. The name of the language is Mantong. The original individual language of each race has fallen into disuse as the three races have intermingled through all space. This is the same language of which the alphabetical key was published in the January 1944 issue of Amazing Stories, and also as an appendix to this book.--Ed.


"I Remember Lemuria"
Written by Richard S. Shaver
(リチャード・S・シェーバー)
Translated by shigeyuki




コメント ( 0 ) | Trackback ( 0 )




第五章 

プリンセス・ヴァヌー

 
 僕たちは形式的な歓迎を受けたが、それは全ての偉大なる人々が訪問者に対して与えるものであった。僕たち一行は係員たちによって丁重な応対を受け、それからまっすぐに管理局に向かうように指示された。
 僕に関していえば、アトランとティターン以外の人々の世界を訪れたのは初めてだったから、それはこれまでの人生の中でも、最高に興味深い経験の一つだった。だが、初めてティターン・シティを訪れた時ほどではなかった。太陽のないノール(Nor)からやってきた人々は、驚くほど肌の色が白かったが、それは光がないので、肌に色素が生成されないためだった。彼らの大きさは、ティターンやアトランと同じで、今の年代と親の年代とで大きさが変化していた。つまり、百歳の人の子供は三十歳の人の子供の三倍の大きさだった。[*23]
 ノールからやってきた種族はノールタンと呼ばれており、人類の直系であった。他の種族との混血が行われなかったのは、禁じられたからではなく、彼らの種族のテクニコンが混血を可能にする様々な技術を公にはしなかったためで、異種間の交流からは子孫が残らなかったのだ。おそらくその選択は正しかったのだろう。例え僕が眼にした様々な美――とりわけ、僕の愛する完璧な魅力を持ったアールと、その彼女の持つ、美しく表現が豊かなふさふさとした毛をたくわえた尻尾、それにカツカツと鳴る蹄という存在があるにしても。確かに彼らの種族は美しく、誰をも心地よくさせるだけの生命の力を備えていた。
 ノールタンの街の周囲には、全く馴染みのない装置が残されていて、それははるか昔の、忘れられたノールの科学の遺物だった。僕はそれを調べてみて、その理由を知った。ここには、ティーン・シティを襲った恐怖が存在してはいなかった。さらには、ここには明らかに、長い間《ムー》のテクニコンの科学的進歩を妨げてきた、建設的な思考能力を損なう《太陽毒》は全くなかった。

*****
 
 原注
 *23)ここの部分は本当とは思えない。通常の年齢で成長が止まらなかったからといって、百歳の人が三十歳の人の三倍の大きさになることは絶対にありえないだろう。赤ん坊は六ヶ月で二倍の体重になり、十八ヶ月でさらに倍になる。しかしその割合は、総体として減少しており、例え実際に体重が増えるにしても、同じような経過を辿るだろう。やがてこの体重の増加が、成熟するまでに小さくなってゆくとしたなら、成長は完全に止まってしまう。ミュータン・ミオンの時間は、しかしながら、成長は常に続くことであり、死によってのみ終わることなのだ。そしてその成長率は、もし望むなら、さらに加速することが出来るというのだ。それは、アールが任務をより上手く遂行するには「成長」が必要であると示唆しているところからわかる。読者は、この手稿の中で、成長の促進の方法がさらに詳しく示されるのを読むことになるだろう。――(編者)

****************

CHAPTER Ⅴ 

The Princess Vanue


We found the typical welcome that all the great ones accord to visitors. Our party was courteously received by the attendants, and we were directed to the administrative offices with swift efficiency.
For me, this first visit to a world people by other than Atlans or Titans was one of the most interesting of my life; but I did not find it half as exciting as my first glimpse of Tean City had been. The men from sunless Nor were of an amazing blondness, for no light but of their own making had ever struck their skins. Their size, as did that of Titans and Atlans, varied with their age and with the age of the parent. Thus, a son of a man of a hundred years age would be three times the size of a son of a man of thirty. [*23]
Further, the race from Nor, who are called Nortans, are a straight race of men. There had been no intermingling of races of other forms, not because it was forbidden, but because their technicons had not made the variform technique of breeding available to the public and without it all such intercourse is sterile. Perhaps they are right, although I see much beauty in variforms--especially in my own lovely and completely desirable Arl with her beautiful, expressive furry tail and her dainty, clicking hooves; certainly their race is beautiful and vital enough to please anyone.
All about the city of the Nortans it was evidenced by many wholly unfamiliar devices that the science of Nor had forged ahead of our own; and as I looked about, I knew why. Here was none of the fear that had pervaded Tean City; nor was there any of the sun-poison to be a detriment to constructive thinking in even the slight degree that evidently has long deterred the technicons of Mu from full scientific advancement.

*****

# Footnotes #

#23) Proportionately this would not be true. A man of a hundred considering he did not stop growing at the usual age, would certainly not be three times as large as at thirty. A baby doubles its weight in six months, doubles it again in eighteen. Thus the rate decreases in proportion to total mass, although the actual poundage increase is the same for a similar period of time. Later, however, this poundage begins to lessen until maturity is reached, where growth ceases altogether. In the time of Mutan Mion, however, growth was a constant thing, ended only by death. And the rate of growth could even be increased, if desired. This is what Arl was referring to when she mentioned that it would be necessary to "grow" to be able better to perform their mission. The reader will see the methods of this stimulated growth demonstrated further on in this manuscript.--Ed.

"I Remember Lemuria"
Written by Richard S. Shaver
(リチャード・S・シェーバー)
Translated by shigeyuki




コメント ( 0 ) | Trackback ( 0 )




 
6

 三年の月日が流れた――ウィリーの母にとっては、後悔という名の辛い腕に抱かれた三年間だった。だが今ではもう悲しみに沈んではいなかった。彼女は、日に焼けて健康そうに見える痩せた少年が、砂浜を横切ってやってくるのを見つめていた。それはウィリー――一時は、彼女のもとから永遠に失われてしまったかと思われたウィリーであった。だが慈悲深き神の御心によって、影は少年のもとから去った。それからの二年間、彼女が真摯な祈りを捧げた結果、今ではすっかりと元通りに回復することができたのだ。さらには、少年は以前よりも健康になって、かつて母が望んだような勇敢さを手に入れつつあった。だが、今ではもうそれが当たり前の光景になっているにも関わらず、彼女の喜びは、あの夜の恐怖の記憶、生まれて初めて面と向き合ったゾッとするような亡霊――《恐怖》によって、色褪せないものとなっていた。そしてその経験から、息子の経験した苦しみについても、いくらかは理解できるようになっていた。
 明日、彼らはブレーケンハウスに戻る。彼らは、彼女が静かな狂気におかされた息子が手洗い台の側に蹲っているのを発見したあの夜以来、そこには近づかなかった。そこは確かに恐怖を孕んだ部屋であり、彼だけではなく彼女も、二度とその部屋へと足を踏み入れようとはしなかった。部屋は、石工が出入口を埋めて塞いでしまった。そして恐怖は、そこで誰にも邪魔されず、そして誰に害を与えることもなく、ぞっとするような統治を続けたのかもしれない。



****************

6
  Three years have passed-three years in which the stern hand of sorrow has dealt with Willie's mother. Yet now she is by no means a sorrowful looking woman as she watches a lean, sunbrowned, healthy-looking boy come bounding across the beach to her. It is Willie-Willie whom at one time she had thought gone from her forever; but, by the grace of God, the shadow has passed from the child, and now he is winning back to all of that for which she prayed so despairingly in those first two years. More, with greater health, the boy has come to courage such as would have warmed her heart in the older days; but now though it does not fail to do so, the delight is ever rincmred by the memory of a certain night of terror, on which, for the first time, she met face to face the grim spectre-FEAR, and came to know something of the agony through which the child, her son, has passed.
  Tomorrow they return to Blakenhouse Hall; they have not been near it since that night when she found her son, a little mad thing, crouched beside the wash handstand. But there is a certain room of fear into which neither he nor she will ever enter again; for the masons have walled up the doorway. And terror may hold its grim reign there undisturbed and harmless.

END



"The Room of Fear"
Written by William Hope Hodgson
(ウィリアム・ホープ・ホジスン)
Translated by shigeyuki






 二十世紀初頭のイギリスの作家、ウィリアム・ホープ・ホジスンの未発表作品「The Room of Fear」の全訳です。底本として使用したのは、「The Collected Fiction Of William Hope Hodgson Volume 5: The Dream Of X & Other Fantastic Visions」(Night Shade Books刊)。
 ホジスンはそのキャリアの比較的初期に、「海馬」や「失われた子供の谷」など、子供を主人公にしたややセンチメンタルな作品をいくつか書いていますが、これもその中の一つ。自らが生み出した幻とも取れるし、実際にあったこととも取れる幽霊によって、精神を破壊される寸前にまで行ってしまう少年の物語です。出来の面では、発表の見込みがつかなかったということから見てもわかるように、先の二つに比べるといまひとつかもしれませんが、ブラッドベリ的な、ちょっとかわいい作品だとも感じます。あるいは、「幽霊狩人カーナッキ」の中に収録されている「魔物の門口」は、この作品の変形バージョンだと考えることが出来るかもしれません。作中に出てくる「手の幽霊」というのは、ゴシック小説の祖とされる「オトランド城」から来ているというのは明白だと思われるため、あるいはこれは、「オトランド城」を読んで怖くなってしまった子供の頃のホジスンの実体験を作品化しようとしたものなのかもしれないという気もします。
 この作品が発見されて、初めて日の目を見たのは、1983年になってからです。kaneさんによると、この作品はタイプ原稿で、二つの表紙がつけられており、そこに「Glaneifion,Borth」という住所が記されているということから、ホジスンがそこに住んでいた1904年から10年のあいだに書かれたものだと思われるということです。


コメント ( 0 ) | Trackback ( 0 )






原注
 *21) ミュータン・ミオンは、明らかに光の「限界速度」など信じていない。あるいは光の速さが究極の速度であることを信じていない。シェーバー氏の手紙にはこうある。「光の速度は、太陽の表面からの『脱出速度』であるため、大きくはない。この速度は我々の測定では一定であるが、それは宇宙の隅々にまで満ちているエクシドの摩擦のせいで、さらなる推進力が与えられない場合には、加速が抑制されるのだ。我々の太陽よりも巨大な太陽からの光の脱出速度はさらに速いが、やはりエクシドによる絶え間ない摩擦で速度は遅くなり、それゆえ我々のもとに届く頃には、はっきりとした違いが見られなくなっているのだ。物体は、例えばロケット噴射のような、付加された推進力を使うことによって、エクシド定数の何倍もの速さで旅をすることができる。船の重量は、反重力ビームによって限りなく小さくなるから、小さなロケットでも大きな速度を得ることが可能だ。いったん物質の重力が消滅する限界点を超えてしまうと、船は無重力となる。エクシド定数を超えるには絶えず推進力を与え続けなければならないが、それは摩擦がすぐにその速度を弱めてしまうからで、それは特に固体の場合には顕著である。例えば、音は空気中を一定の速度で伝わるが――その速さは明らかに、それぞれの条件で異なっているのだ!唯一の結論としては、空気それ自体が、常に同じように残される、音の速さを支配する要因であるということだ。光も同じことである。どちらも、最初の推進力の速度に左右されるのだ。どちらにも一定の速度が残っているのは、確かな速さのもとでは摩擦は消滅するからだ」
 編集子は常にシェーバー氏(ミュータン・ミオン?)の物理現象の拡大解釈に驚かされているが、あるいは我々がまだ大いなる物理法則を完全に理解できるだけのレベルに達していないだけなのかもしれない。しかしながら、ここで少しばかりこう書き添えておくことで、読者の方々がこれまでに読んだことと、そしてこれから読むであろう以下のページを理解するための、大きな助けになるかもしれない。
 宇宙の中の全ての物質は、常に崩壊と統合を繰り返している。統合が先か崩壊が先かというのは、ニワトリが先かタマゴが先かという問題と同じで、平行線を辿ってしまう。これはあらゆる学説の中にある、避けがたい、答えようのない疑問である。《エクシド》とは、太陽が崩壊する時に出る灰(物質というよりはエネルギーに近いほど、細かくなった物質)である。《エクシド》は、宇宙の隅々にまで広がり、満ちている。そしておそらくは実際に存在しているわずかな物質(食塩水の中の全ての塩の粒が、もう一度元の形に戻るまで終わらない沈殿を始めた場合のように)、あるいは磁場が、《エクシド》を引きつけるのだ。
 クヮントには、周知のように、〇.一六光年離れた太陽のない惑星系のノール(Nor)からやってきた《エルダー》テクニコンたちの一団が、我々の太陽系を調査するために、最近天文台を設置している[*22]。僕がなんとかしてコンタクトを取り、協力を要請したいと思っているのは、この《エルダー》だった。
 クヮントへの旅は二十四時間以上かかったが、空腹に耐えるのは容易かった。そしてランディング・ステーションでシャトルシップに乗り換えた。
 タイニー・クヮントの、巨大な洞穴のようなエントランスの架台に落ち着くと、液体空気が覗き窓の上にきらめいた。船がロックされ、架台は輸送装置に接続し、一緒に穴の中へと入ってゆくと《エクシド》の統合が開始され、物質へと再変換された。この《エクシド》の凝縮とその降下が重力を生み出すのだ。ニュートンの頭にリンゴが当たったとき、頭はリンゴによって押し下げられたのであって、引っ張り下ろされたのではない。重力は凝縮している《エクシド》が既に存在している物質を通じて落下することによって起こる摩擦である。明らかに凝縮とは、完全に分割された要素が共に落下しながら、一つの状態になってゆくことである。
 ここの部分の含蓄にはいろいろと新鮮な部分があって、どうも驚かされてしまうが、この説に関しては、読者がこの文書を理解するために必要というものでもない。だがそれは、研究論文の形で、科学界に発表するために準備されている。――(編者)
 
 22) クアントは、この小さな世界を除く全ての太陽系の惑星に影響を持つ、《ムー》の政府の司法権を超えて存在している。クヮントは、ノールの影響下の最外縁にあって、監視所として利用されている。なぜなら小さいからで、《ムー》の政府には重要な場所ではないのだ。――(編者)


****************


*****************************

*****

#footnote#
^47:21 Mutan Mion, apparently, holds no brief for the 'limit velocity" of light; or that the speed of light is the ultimate speed. According to Mr. Shaver's letters on the subject: "Light speed is due to 'escape velocity' on the sun, which is not large. This speed is a constant to our measurement because the friction of exd, which fills all space, holds down any increase unless there is more impetus. The escape velocity of light from a vaster sun than ours is higher, but once again exd slows the light speed down to its constant by friction, so that when it reaches the vicinity of our sun, no appreciable difference is to be noted. A body can travel at many times the exd constant, under additional impetus, such as rocket explosions. A ship whose weight is reduced to a very little by reverse gravity beam can attain a great speed with a very small rocket. Once beyond the limits of matter gravity ceases and the ship becomes weightless. Speeds over that of exd constant must be under constant impetus, for the friction slows them down quickly again, especially so in the case of solids. Sound, as an example, travels through air at a constant speed--and yet the impetus is obviously different in each case! The only conclusion is that the air itself is the governing factor in the speed of sound, which always remains appreciably the same. So it is with light. Both depend for their velocity on an initial impetus. Both remain constant because below a cerfain speed, friction disappears."
Your editors have been constantly amazed at the interchangeability of Mr. Shaver's (Mutan Mion's?) physical phenomena, or rather, their adaptability to one great physical law which we have as yet hardly begun to comprehend in its entirety. However, at this point a brief definition might aid the reader in understanding many things he has already read and will read in the following pages.
Matter in all the cosmos is constantly disintegrating and integrating. There is the natural parallel as to whether the hen or the egg came first--did the integration come first, or the disintegration? But that is the one and only unanswerable question in the whole theory. Exd is the ash (matter so finely divided as to become energy rather than matter) of disintegrating suns. It spreads out and fills all space. Then, perhaps because of the presence of an actual bit of matter (as in the case of the salt grain in the salt solution that commences precipitation which does not end until all the salt is once more in its original form), or under the influence of a magnetic field which draws the exd
On Quanto, we knew, a group of Elder technicons from sunless Nor, a group of sunless planets 0.16 light years away, had lately established an observatory for the study of our planetary system. [*22] It was these Elders I wished to contact in my effort to enlist aid for our cause.
Our trip to Quanto consumed slightly over twenty-four hours, the hunger of which we could easily endure; and on the landing station we switched to a shuttle ship.
As we settled into the cradles of the great cavern's entrance on Tiny Quanto, liquid air glistened over the view panes. The ship rocked as the cradle connected with its conveyor and was drawn by it into the cave through the together, integration commences and the exd once more becomes matter. This fall of exd and its condensation is what causes gravity. When Newton was hit on the head by an apple, it was by an apple that was pushed down upon his head, rather than pulled down; since gravity is the friction caused by the fall through matter already existent of condensing exd. Obviously a condensation is a falling together of a finely divided element into a grosser state.
There are many finer points, staggering in their implications, concerning this theory which are not necessary to the reader's understanding of this manuscript; but they are being prepared in a monograph which is to be submitted to scientific circles.--Ed.

^48:22 Quanto lies beyond the jurisdiction of Mu's government, which holds sway over all the planets of the solar system except this tiny world. Quanto is on the rim of Nor influence and is used by them as an observation station. Because of its small size, it is unimportant to the government of Mu.--Ed.


"I Remember Lemuria"
Written by Richard S. Shaver
(リチャード・S・シェーバー)
Translated by shigeyuki




コメント ( 0 ) | Trackback ( 0 )




 
5

 階下の大きな居間では、ジョン卿とその妻が夕食を終えようとしていた。ラバック医師が彼らとともにテーブルについていて、奥方の言葉にじっとと耳を傾けていた。彼女は医師に夕食に来てくれるように頼んだのだが、それはウィリーのことについて、少し話をしたいことがあったからだった。彼女は今朝の息子の、体調の悪そうな青白さのことが、少し気に掛かっていたのだ。ジョン夫人が説明を止めると、医師が話を始めた。
 「息子さんのことは、心配することはないと思いますよ。神経質なお子さんですが、成長するに従ってそれも柔らいでゆくでしょうから。ですが、わたしは彼を子供部屋に戻してあげたほうがいいとは思います。十分に時間をかけるべきではないでしょうか。つまり、じっくりとやるんです。明日、ちょっと立ち寄って、お子さんの様子を見てみますよ。その、奥さまのおっしゃる……」その時、上の部屋から響いてきた大きな悲鳴が彼の話を遮った。それからはっきりと、柔らかいものがドスンと床を打つ音が続いた。ジョン卿は驚いて立ち上がったが、彼の妻はそれより早くドアの前に向かっていた。彼女の顔はやや青ざめていた。中央階段を駆けてくる音がして、乳母が部屋の中に飛び込んできた。髪は乱れ、目は血走って、ランプの灯で光っていた。
 「ウイリー……坊ちゃ……んの……お部屋……です!」彼女は喘いだ。ジョン夫人は乳母を押しのけ、階段を駆け上がった。その後ろにジョン卿が続いた。医師も付いていったが、言葉はなかった。そしてウィリーの部屋のドアのところで皆に追いついた。ジョン夫人は廊下の灯りをつけた。それからノブを回し、中に入った。ベッドは空で、寝具は片側の脇にまとめて落ちていた。四人は立ったまま、辺りを見渡した。その時、夫人が叫び声を上げた「ウィリー!」そして手洗台の前へと走った。その脇に蹲り、部屋の角にぴったりとはりついて小さくなっていたのは、小さな白い――シーツにくるまった小さな影。ぶるぶると震え、口を開こうともしない。ランプの光は、その虚ろな瞳をただ照らし出していた。


****************

5

  Downstairs in the big dining room SirJohn and his lady are finishing dinner. Doctor Lubbock is at the table with them, and he is listening attentively to the lady. She has asked him to come to dinner, because she is wishful to have a littie talk about Willie; for she has felt a little uneasy about the child's pallor and look of ffl-health in the morning.Lady John ceases to explain, and the Doctor commences to speak:
  "I shouldn't trouble about him. He's a nervous child and will grow out of it; but I should be inclined to let him go back to the night nursery. Plenty of time, you know; plenty of time. I will slip in tomorrow and have a look at the young man. You say . . ." At this instant he is interrupted by a loud scream in the room overhead, and then the noise of something striking the floor with a distinct soft thud. Sir John starts to his feet, but his lady is before him, and is at the door, her face somewhat pale. There are running footsteps on the front stairs, and nurse bursts in upon them, her hair flying, her eyes wild and bright in the lamplight.
  "In-in Mas-ter Willie's roo-om!" she gasps, and then the mother has flung her to one side, and is racing for the stairs, her husband behind. The Doctor follows, without a word. He catches them at the door of Willie's room. Lady John has got the corridor lamp. She turns the handle and enters. The bed is empty, the bedclothes thrown all on one side. They stand and stare around; then the mother gives out a cry of "Willie!" and runs forward to the wash-hand stand. Crouched beside it, cowering back in the corner, is a little white-robed figure, shivering and silent. The light from the lamp shines on uncomprehending eyes.



"The Room of Fear"
Written by William Hope Hodgson
(ウィリアム・ホープ・ホジスン)
Translated by shigeyuki




コメント ( 0 ) | Trackback ( 0 )





 「エペペ」 カリンティ・フェレンツ著 池田雅之訳
 恒文社刊

 読了。

 二十年来の積読をやっと全部読み終える。
 何度も読みかけて、途中でやめていた。別に面白くなかったから読めなかったという訳ではない。言語学者の主人公が、うっかりと飛行機で寝過ごして、降りた場所が、言葉が全く分からない国で、そこから出ることも出来なくなるというのが大まかなストーリー。主人公は世界の言語に通じた学者なのだが、この国の言語に関しては、完全にお手上げになってしまう。カフカ的というか、迷宮のような悪夢が描かれている。どこでも人が列をなして並んでいるという、明らかに共産圏を風刺した作品なのだろうが、その筆致は執拗で、迫力がある。ただ、余りにも堂々巡りなので、僕の場合、ちょっと途中で飽きてしまって、後でまた読もうと投げ出して、そのまま数年が経過というのが何度も繰り返されたというわけだ。このあたり、もしかしたらこの小説の世界と通じるものもあるのかもしれない。なんて思ったり。

 堂々巡りといえば、今日はなんだか、気がつくと斉藤和義の「ずっと好きだった」が頭の中を回ってしかたがなかった。CMで使われている曲。ラジオで何度か聞いているうちに、気がつくと頭の中を。youtubeで、その曲のプロモーション映像が45秒だけ見れるが、それが面白い。歌っているのがジョージってところが、なかなかいい。

「ずっと好きだった」斉藤和義

コメント ( 0 ) | Trackback ( 0 )





 僕はアールを見た。僕の言葉に耳を傾けているかどうか知りたかったのだが、彼女は尻尾をいたずらっぽく振って見せた。彼女は聞いていただけではない。僕と歩調を合わせて、考えていたのだ。ちらりと彼女を見たのを合図に、アールは続きを補った。
 「そう、私たちは自らの役割に身を捧げなくてはなりません。成長の速度の足枷のない所に行けば、もっと負けないような仕事ができるようになれるはずです。そうすれば、狂ったロダイトに取って代われるだけの強大な力を手に入れることになるでしょう。クヮントで私たちの言葉に耳を傾けて協力してくれる、大きくて、年を重ねていて、賢明なテクニコンを何人か探さなければなりません。さもなくば、勝ち目はないでしょう。私たちは《ムー》の人々を救うために、宇宙の《エルダー》の強大な力を必要としているのです」
 「アールがその尻尾を彼らに向かって振ったりしさえしなければ、きっと助けてくれるんじゃないかと思うよ!」僕は笑ったが、それは周りのみんなが同じ囁きを交わし、その計画に賛同してくれているのを目にしたからだった。若い仲間も笑った。「それは間違いないね」彼らが同意すると、アールはみんなの前で尻尾を振り回して、蹄を鳴らしてぐるりと回って見せた。
 それで僕たちの気持ちがほぐれ、怖さを忘れた。そのかわりに、陽気さと希望と、そしてあらゆる恐怖を終わらせようという決意が身体のなかに満ち溢れた。
 僕たちは水星を迂回し、まっすぐにクヮントへと針路を定め、なぜ食料の不足の心配をしないのかということなど説明する必要さえないほどの加速を続けた。ティターンの若者が言った。「二十四時間以内にクヮントに到着するだろうな。既に船の速度は空気中の光の速さに近いのだしね[*21]。最後には、俺たちは太陽のないノールからやってきた、心の温かい人々のなかでくつろいでいるよ!」
 僕は感謝のため息とともに後ろにもたれかかった。そして、少なくとも何人かは、素晴らしい古代のアトランの種族の生命を、年老いた太陽の下の種族の中に蔓延する狂気から救い出すことができたのだと思った。さらに多くを救い出すには、甚大な努力が必要だろう。だがアールの腕が僕の肩に伸びてきた時、その努力には価値があるのだと確信した。
 今では人生の目的ははっきりとしていた。そのような美しさや優しさは、絵画や詩の中には存在しなかった。生命の種を思いやり理解すること、未来の種族の成長の運搬人となること、そうした中にのみ、人は人生の本当の意味を見出すことができるのだ。狂ったロダイトの《黒い死》から僕たちの星の人々を救うために集まった仲間たちの前には、やらなければならないことが山積していた。そして僕には、自分が男になるか、それとも死ぬことになるか、そのどちらかだということも分かっていた。

****************


I looked at Arl, to see if she listened, and she wagged her tail roguishly. Not only was she listening; she was thinking in tempo with me. At my glance her voice chimed in, doing things to my spine.
"Yes, and we ourselves must devote ourselves to the task, and go to a place where the growth rate is unlimited by law, so that we can become more equal to the job. It will take great power to displace the mad rodite. On Quanto we must find some mighty and old and wise technicon to go along and assure us of a hearing; otherwise the power will not be given us. We need the very mightiest power the Elders of space can give us to save the people of Mu."
"If you but wag that tail of yours at them, Arl, they will give it to us!" I laughed because I could see in all those around me the same conviction and devotion to my plan that was in her. The youthful company laughed too. "Of that there can be no doubt," they agreed, whereupon Arl swished her tail before them and pirouetted about on her clicking hooves.
In that instant the fear was gone from our minds. Instead we were filled with gaiety and hope, and great determination to do all that lay in our power to end all fear.
We circled Mercury, straightening out on a direct path for Quanto, constantly accelerating until it was unnecessary to explain why lack of food did not worry me. The young Titan remarked: "We will be at Quanto within twenty-four hours. Already our speed is approaching that of light. [*21] air locks. At last we were in the home of the kindly men from sunless Nor!
I leaned back with a sigh of thankfulness, feeling that I had saved at least some of the good life seed of ancient Atlan from the madness that was overtaking all of its races under the aging sun. To save still more would be a collossal effort; but as Arl's arms drew about my shoulders, I knew that such effort was worthwhile.
The purpose of life was plainer now. Such beauty and tenderness did not live in words or in paintings. Only in understanding and caring for the life seed, the bearers of future race growth, could a man find the true meaning of life. And in the mighty job that lay ahead in enlisting aid for the saving of our people from the black death of the mad rodite I knew I would become a man or die.

"I Remember Lemuria"
Written by Richard S. Shaver
(リチャード・S・シェーバー)
Translated by shigeyuki




コメント ( 0 ) | Trackback ( 0 )





 今日は春を実感する暖かさだった。下り坂だという予報ではあったが、日中は文句のない陽気。風もない。それで、久々に自転車で遠出。
 多摩川に向かい、それから川沿いに走って、府中の森公園に向かう。途中、休憩した川沿いで、釣り人がルアーで、大きな(50センチくらいはある)ナマズを釣り上げたのを見せてもらう。多摩川には、いろいろな魚がいて(熱帯魚を逃がす人がいるらしい)、「タマゾン川」の異名もあるという。あなどれない。
 府中の森公園には、プラネタリウムがあって、以前に八王子で見たkagaya氏のプラネタリウム作品「銀河鉄道の夜」が、好評のため上映を延長して、まだ公開されていた。ちょうど時間だったから、見てみる。
 だが、「あれ?」という感じがちょっとする。映像のクオリティが、全然違うのだ。これももちろんフルデジタルバージョンの映像で、十分に美しいのだが、サイエンスドーム八王子の全天4kデジタルとはどうしても違うようだ。なんというか、次元が違う。別にサイエンスドームの宣伝をするつもりもないが、これはやはり全天4kデジタルで見るべきだと、強く思う。次世代の映像を体感するという意味でも。ちなみに、現在4kデジタルでの上映は、サイエンスドーム八王子と、愛知県のとよた科学体験館の二館のみのようだ。
 夕方になって、帰りには風が出てきたが、いろいろな花を見ながらの長いポタリングは、なかなか楽しかった。

コメント ( 0 ) | Trackback ( 0 )





 ソメイヨシノが咲き誇る様子は、確かに美しいが、その美しいと感じる人の心のよりどころは、一斉に咲くという点にかなりの部分を負っているのは間違いない。よく知られているように、全てのソメイヨシノはクローンであり、同一の遺伝子を持つ。実を結ばず、したがって接木でのみ増える樹で、人の手によってしか子孫を残すことができない。自然界では、明らかに奇形の樹だ。人はその歪みに魅了されるのだろうか。様々な芸術作品を前にしたときにと同じように。

 ソメイヨシノは、人が滅びると、消滅してゆくしかない。人が作り上げた、ソメイヨシノの咲き誇る春の風景。常に背中合わせに存在する、その存在の脆さ。人工の光景の脆さ。

コメント ( 0 ) | Trackback ( 0 )


« 前ページ