漂着の浜辺から
囁きのような呟き。
 




 伊予原新の本を、立て続けに四冊、読んだ。

  「磁極反転」 新潮社刊 

  「ルカの方舟」 講談社刊 

  「博物館のファントム」 集英社刊 

  「梟のシエスタ」 光文社刊

 の四冊。見事にすべて出版社が違う。

 文句なしに面白かったのは、「磁極反転」。「お台場アイランドベイビー」の作者らしく、小松左京的な、クラシカルな本格SFを思わせる作品で、好みだった。博士で、地球惑星物理学が専門というだけあって、本領発揮といったところだと思うが、最近流行りのSFに比べると、若い人には、やや地味な印象かもしれない。
 「ルカの方舟」は、火星の隕石を巡る、アカデミックな世界を取り上げたミステリーで、これも面白かった。STAP問題以前に発表された作品だが、タイムリーに論文捏造を取り上げているという点でも興味深かった。
 残りの「博物館のファントム」と「梟のシエスタ」は、どちらも連作短編をまとめて一つの長編にした作品。「プチ・プロフェスール」もそうだったが、そこそこキャラクターが立っていて、結構面白い、というところでとどまっているところが惜しい。シリーズとしてのヒット作が欲しいのだろうが、真面目さが裏目にでているのだろうと思った。それに、多分この作家の本領は、丁寧に組み上げられた長編にあるのだろう。


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 最近、続けて月村了衛の作品を読んだ。

 最初に読んだのは、

「槐(エンジュ) 」 月村了衛著 光文社刊

 中学校の部活動の夏季合宿で葦乃湖を訪れた、それぞれに個性のある生徒たち男女7人と、引率の教頭先生、それに地味な代用教員の女性教師たち。寂れた湖畔のキャンプ場で、さほど代わり映えのない合宿を行うはずだったのだが、突如襲来した半グレ集団、関帝連合によってキャンプ地は一瞬にして血の海と化す。主人公の公一ら9名はとりあえず虐殺を免れたものの、このまま生きて帰ることができる望みはほとんど無いに等しかった。だが、地味でまったく目立たない女性教師だと思われていた由良先生は、実はかつて中東で暗躍していた、超一級のテロリスト「槐」の世を忍ぶ姿だった。たった一人で関帝連合を手もなく血祭りに上げてゆく槐の登場で、形勢は一気に逆転するかと思われたのだが、そこにさらに中国マフィアが絡んできて……という物語。
 残虐なアクション小説と青春小説が同居した、まるでかつてのソノラマ文庫の進化系を彷彿とさせるような作品で、とても面白い。後味の良いのも、気に入った。たった一枚のカントリーマアムが運命を変えたというのも、まあそ嘘臭くて安直だと言われそうだけれども、この小説なら、悪くないと思った。

 「槐」が面白かったので、続いて、代表作とされる「機龍警察」シリーズを、発表順に読んだ。現在単行本として読めるのは、

「機龍警察〔完全版〕」 月村了衛著 早川書房刊

「機龍警察 自爆条項」 月村了衛著 ハヤカワ文庫JA 早川書房刊

「機龍警察 暗黒市場」 月村了衛著 早川書房刊

「機龍警察 未亡旅団」 月村了衛著 早川書房刊

「機龍警察 火宅」 月村了衛著 早川書房刊

 の五冊。
 このうち、最後の「火宅」は、短篇集。
 さすがに代表作とされるだけあって、決して薄くはない各巻を、一気に読んでしまった。ロボットアニメのガジェットを、警察小説に、さほど無理のない形で持ち込んだ小説という感じだが、とても面白い。「龍機兵」と呼ばれる、一種のパワードスーツである戦闘兵器を導入した警視庁の特捜部が、国際的なテロリストたちとギリギリの戦いを繰り広げるというのが基本的なストーリーだが、日本の警察内部にも敵がいるということが示唆されており、物語に厚みを持たせている。ネットで、いくらでも情報はあるだろうから、細かい説明は省くけれども、SF好きでなくとも、読み応えのある作品であることは保証つき。シリーズとしての通し番号は打たれていないけれども、最初から順に読むべき。個人的には、二作目の「自爆条項」が今の所一番面白く感じ、「未亡旅団」はやや物足りなく感じたが、それはおそらく、最初のインパクトが薄れたのと、ある程度のパターンが読めるようになったこと、それに加えて、登場人物たちのこれまでのバックグラウンドがそれまでに何度も言及されているせいで、新鮮味を感じなくなったせいだろう。ややメロドラマ的だったからというのも、あるかもしれない。発表された長編四作品は、それぞれ、登場人物の過去と絡めながら展開するものだったし、おそらくはまだ鈴石緑らの過去編もあるだろうが、それらが出尽くした後、物語がどう展開してゆくのかが楽しみ。
 

「コルトM1851残月」 月村了衛著 講談社刊

 機龍警察シリーズを読んでいる間、箸休め的に、これを一冊挟んだ。
 江戸を舞台にした、時代小説であり、ノワール。偶然手に入れたコルトに憑かれた男の物語。悪い奴しか出てこないと言っても過言ではない小説だが、そこがいっそ清々しい。全編に漂う、まだ電灯のない時代の、ねっとりとした感じがいい。映像化すると面白いかもしれない。第17回大藪春彦賞受賞作。


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 ついに安保法制可決。政治が、カネと巨大な権力の前にひれ伏した日。
 これから、軍備拡大のために大きな予算が動くだろう。社会保障など、知ったことではないだろう。
 格差は、広がり続けるだろう。
 テロリストたちは、待ってましたとばかりに動き始めるだろう。あちらこちらで、日本人の犠牲が出るだろう。
 そう思うと、暗澹たる気持ちにもなるが、その先のことは誰にもわからない。
 どんな時代になってゆくだろう。

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「恋路ヶ島サービスエリアとその夜の獣たち 」 森 晶麿 著 講談社刊

 神戸ではないけれど、淡路島と四国の間を繋ぐ橋の中継地点にある恋路ヶ島のサービスエリアを舞台にした、ちょっと不思議なミステリ。もちろん恋路ヶ島というのは架空の島。位置的には、大毛島という島がモデルなのかな、と思う。
 夜のサービスエリアをキリンなどの動物が闊歩するのはシュール。ちょっと森見登美彦作品のような、現実からほんの少しだけずれた感じの物語。だけど、おもしろいのかどうか、よくわからなかった。


「神さまのいる書店 まほろばの夏」 三荻せんや著
ダ・ヴィンチBOOKS KADOKAWA/メディアファクトリー刊

 魂の宿った本ばかりを扱う書店の物語。第2回ダ・ヴィンチ「本の物語」大賞〈大賞〉受賞作ということだが、物語の展開的にはベタベタの少女漫画で、「え、これで?」という感じ。ローティーン向けかな。


「爛れた闇の帝国」 飴村 行著

 こういうのをイヤミスというのかな。ともかく陰鬱でグロテスクで救いのない、後味の悪い小説。ヒロインを除いて、クズのような人間しか出てこない。もちろんそこがこの作家の個性なんだろうとは分かっているけれど、あんなラストにする必要あったのかな、と思ったり。好きな人は好きなのだろうけど、ぼくには、今読みたいというタイプの小説ではなかった。v

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「少年十字軍」 皆川博子著 ポプラ社刊

 を読む。

 少年十字軍といえば、「小さな奇跡の書」とも称されたらしい、フランスの世紀末作家マルセル・シュオブの手による連作「少年十字軍」(うちにあるのは、国書刊行会の世紀末文学叢書版なので、「小児十字軍」というタイトルになっているけれども)をすぐに思い浮かべる。大正時代には、既に上田敏の手によって収録作が二つほど邦訳もされているというから、古くから日本でも親しまれてきた作品と言っていいと思う。
 けれども、実際の少年十字軍については、さほど多くを知っているわけではなかた。せいぜい、数度の十字軍遠征の中には、まるでハーメルンの笛吹きの伝説のように、まるで信仰という熱にうかされたように聖地へと向かう少年少女たちだけで構成された十字軍があったが、その大半は途中で死んだり、奴隷として売られたりしたという程度の知識。破滅へとまっすぐに向かう、純粋でひたむきな少年少女たちの伝説は、それだけで人々の心を打つに十だったはずだ。
 この皆川版「少年十字軍」は、神の啓示を受けたエティエンヌという羊飼いの少年と野生児のルーを中心に物語が進む(ちなみに、付け焼き刃的に今ちょっと調べたところでは、少年十字軍というのは多分に伝説化されていて、どこまでが史実でどこからが虚構なのかはっきりしないようだし、一つだけでもなかったようだが、このエティエンヌという少年は実在の人物ということになっているようだ)。
 十字軍というのは、大半の日本人にとってはどうしてもとっかかりが悪く、読んでもよくわからないんじゃないかと、手を出すのに躊躇しがちだけれども、この「少年十字軍」にはそんな心配は必要がない。魅力的な人物が何人も出てきて、エンターテイメント性にあふれた物語が展開される。読み始めると、手が止まらない。
 さて、ぼくたちは少年十字軍が悲劇に終わることを知っている。だから、この物語がどういう結末を迎えるのかも、なんとなく覚悟をしながら読み進める。それだけに、著者が用意したまさかのハッピーエンドには驚かされた。どちらかといえば女性向けの、史実を元にしたエンターテイメント作品として、よく出来た作品だと思う。
 

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