漂着の浜辺から
囁きのような呟き。
 



「櫻子さんの足下には死体が埋まっている」 太田紫織著
角川文庫 角川書店刊

を読む。

 もともとはWEB小説として発表され、人気を博したのちに、角川書店から書籍化され、シリーズ化した作品らしい。読みやすさと、軽いなりのきちんとした完成度を持っていて、ネット小説として人気が出たのが頷ける。キャラクターにも個性があり、なかなか面白いので、時間つぶしに読むにはちょうどよさそう。
 それにしても、最近はこういう感じの作品が本当に多いなあと思う。


「白いへび眠る島」 三浦しをん著
角川文庫 角川書店刊

を読む。

 島という閉鎖空間を舞台にした小説。そういう書き方をすれば、「ああ、よくある横溝正史的なやつね」と思われそうだが、これはちょっとだけ違って、最初はいかにもミステリーのようなのだが、最後にはなんとファンタジーになる。つまり、ヤング・アダルト小説なのだった。
 作品自体は、三浦しをんだけあって、さすがに安定感のある面白さ。

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「太陽の棘」 原田マハ著
文藝春秋刊

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 米軍統治下の戦後の沖縄を舞台に、玉那覇正吉らを中心としたニシムイ美術村の人々と、米軍の精神科の軍医エドを初めとする米軍兵士らとの交流を描いた作品。実話をもとにした作品ということで、内容的には重いものなのだろうが、なんだか妙にあっさりと感じてしまう。こうじゃないんじゃないかな、という感じ。
 玉那覇正吉は、ひめゆりの塔の乙女像などを制作した画家。ひめゆりの塔といえば、少し前に読んだ、今日マチ子さんのマンガ「cocoon」が印象に残っている。最近、舞台化もされたそうだ。こちらは、若い人たちにぜひ読んでもらいたいマンガだ。
 以前、沖縄のひめゆり平和記念資料館を訪れたとき、語り部の方に話をしていただいたが、本当に生々しくて、心にくるものがあった。その語り部の講話も、今月末には終了する。高年齢化による引退らしい。仕方のないことだが、残念なことだ。戦争の記憶は、間違いなく風化しつつある。
 震災の記憶を風化させてはならない、というスローガンはよく聞く。それはたしかにそうだ。だが、第二次大戦の記憶を風化させてはならないというスローガンは、さ
ほど聞かなくなっている。70年前の戦争で、いったいどれほどの人が死に、どれほどの人が人生を大きく狂わされたのか。
 ここから先は、僕の独り言である。
 僕の大嫌いな安倍首相は、先の戦争に大きく関わったA級戦犯の孫でありながら、その過ちに学ぶこともなく、凝りもせず再び日本を軍国化しようとやっきになっているように見える。打ち立てる政策も、サルなら納得するような、わかりやすさだけがとりえの、格差を広げるだけのひどいものばかりだ。ネットや産経新聞には、ヘイトスピーチまがいの言論が飛び交う。言論を封じ込めきれないとなれば、混沌にしてしまおうというのか。
 僕はひとりの子供の親であり、この先の日本が平和であってほしいと心から思っている。あらゆる子どもたちが、夢や希望を、戦争などという本当にくだらないもののために奪われるような未来にはなって欲しくないと思う。
 日本が正しいとか正しくないとか、そんなことはどうでもいい。正しさなんて、相対的なものだ。そういうことではなくて、戦争そのものというものがどういうものなのか、もっと想像力を働かせなければならない。戦争は殺すし、殺される。戦争は理屈ではなく、圧力や力によって、意思を踏みにじろうとする。あらゆる場所で、様々な人々が、戦争の理論を実践しようとする。そんなものが存在していたなんて、想像もしなかった悪意が、悲しみが、無力感が、人々の顔に張り付く。国は、国民を手駒にする。だって彼らは、支配者なのだから。
 そんなことにならないようにしたい。実際に始まってしまったら、もう止めることは難しいのだから。

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「家守綺譚」 梨木香歩著
新潮文庫 新潮社刊

を読む。

 こちらとあちらの狭間にあってゆらいでいる、主人公の日常を淡々としたユーモアを交えて描いた連作掌編。「夢十夜」や「永日小品」の夏目漱石のようでもあり、「冥途」の内田百間のようでもあり、川上弘美のようでもあり、はたまた、坂田靖子のマンガのようでもある。好きな人にはたまらないんじゃないかな。
 こういう作品は、さすがに日本文学にしかないと思う。似たような奇想小説があったとしても、処理の仕方がかなり異なるんじゃないか。最近、面白さに主眼を置いたエンターティメントばかりを読んでいたので、こういう作品を読むと、妙にほっとする。素敵な一冊だった。



「夜来たる」 アイザック・アシモフ著 美濃透訳
ハヤカワ文庫SF 早川書房刊

を読む。

 言わずとしれた、アシモフの最も有名な短編をタイトルに据えた、日本独自編集の短篇集。日本独自編集とはいっても、本国で出版された、16作品を収めた自選作品集の最初の5つを訳出したものなので、オリジナル短篇集の分冊版と言う方が正確なのかもしれない。
 巨匠の自選作品ばかりなだけに、さすがにどれもそれなりに読ませる。ただ、それなりにというところがミソで、強烈な印象を残す作品というのが、表題作の超名作とされる「夜来たる」を含めて、なかった気がした。「夜来たる」は、ちょっと有名すぎるので、もともとざっと何かで読んだことがあったせいもあるだろうが、他の作品も、読み始めると読んでしまうのだけれど、多少時代遅れかなという気は、どうしてもしてしまった。それぞれの作品の前にちょっとした自著解説が載っているのだけれど、そこでくさされていたネヴィル・シュートの「渚にて」のほうが、僕にはずっと面白く読めた覚えがある。



「パーフェクトフレンド」 野崎まど著
メディアワークス文庫 アスキーメディアワークス刊 

を読む。

 以前に感想を載せた「2」の前日譚のひとつ。小学三年生にしてイギリスの大学を卒業、博士号を取得し、数学者を名乗っている天才小学生、最原最中が、はじめて同級生の友達を得るまでの物語。ストレートに「2」とつながっている気がしたので、これが書かれた時には、既に「2」の構想があったのかな、という感じがした。単体でも結構楽しめるけれども(まあ、ちょっとありえないよ、って感じではあるにせよ(笑)、それはいまさらなので)、これはやはり、「2」とセットで読みたい。舞台はやはり吉祥寺。元住人としては、土地勘があるので、とても親しみが湧く。

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 最近、つい面倒で読書録さえ更新していない。読んだものの、感想のひとことさえ書いていない小説がたくさんたまっている。
 とりあえず、3つ、ちょっと感想を。


「水の時計」 初野晴著
角川文庫 角川書店刊

を読む。

 「幸福の王子」を下敷きにした作品。横溝正史ミステリ大賞受賞作。
 脳死状態にありながら、なぜか意識があって、月夜にのみ会話をすることができるという特異な状態にある少女が、暴走族のカリスマ的なリーダーのひとりである少年に、自らの意思で、自分の臓器をひとつづつ必要な人に届けさせる、という物語。美しい少女が、少しづつ解体されてゆきながら、それでも最後に心臓を摘出されるまでは死ぬことはなく、月明かりの夜に語りかけるという設定は、ちょっとユイスマンスの「腐爛の華」を思い出させ、何だか幻想小説のようでもあるし、実際に透明感のある書き方をされてはいるけれども、連作短編のような形で収められたそれぞれのエピソードは、臓器を受け取る側の人生を語るため、もう少し下世話で人生の重さを押し出したものになっている。このストーリーでこの題材は、やや浮いているような気がしないでもなかったけれども、まあ割と面白く読めた。


「さなぎ」 ジョン・ウィンダム著 峯岸久訳
ハヤカワ文庫SF 早川書房刊 

を読む。

 有名なミュータントテーマの古典SF。ずっと積読になっていたのを読んだ。
 なんとなく内容は知っていたし、まあさすがに古い作品なので、様々な後発作品の中にすっかりと消化され尽くしているから、「なるほど」という感じしか受けなかったけれども、強烈な選民思想とも取れるラストは、出た当初はかなり新鮮だったのだろうが、今のSFはここから先が問題になるので、やや安易に感じるのはどうしようもない。


「真夜中のパン屋さん」 大沼紀子著
ポプラ社文庫 ポプラ社刊

を読む。

 なんとなく借りたけれども、まあ、はっきり言って少女漫画だった。だけど、中高生が読むには、それほど悪くもない気がする。構造的には、今人気のミステリー小説と大差ないように思うので、それなりに楽しめる。男子向きではないかもしれないけれども。


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 花がずいぶんと咲いてきて、いよいよ春という風が色濃いですが、ひとつ嬉しいことがありました。
 娘が、補欠合格ということで宙に浮いていた第一志望の大学に、繰り上がり合格できました。
 もう数年のあいだ補欠からはとっていないということだったので、すっかり諦めていて、第二志望の学校に行くつもりでいたのですが。
 第二志望の学校に払った入学金は捨てることになりますが、それは仕方がない(だけど、これはなんだか本当はちょっと釈然としないですよね。だって、入らないんだから、ある程度は返すのが筋というものじゃないですか?)。僕も妻も、現役の時に受けて、かすりもしなかったところなので、本当に嬉しい。高校の頃にちょっと大変だったこととかを思うと、感無量です。楽しい大学生活になるといいと、願っています。



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