漂着の浜辺から

囁きのような呟き。

世界の終わりの七日間

2016年01月31日 | 読書録
「世界の終わりの七日間」 ベン H ウィンタース著  上野元美訳
ハヤカワ・ポケット・ミステリ 早川書房刊

を読む。

 「地上最期の刑事」シリーズの完結編。隕石による世界の週末まであと一週間というところから物語は始まる。
 設定からして、ミステリというよりはSFなのだけれど、SFとして描かれなかったところに、この作品の素晴らしさがある。純然たるSF作家が書いていたなら、多分、こういう結末をとらなかっただろう。なんとも言えない余韻。SF好きの人にも、ミステリ好きの人にも、純文学好きの人にも、すっと受け入れられる気がする。ネヴィル・シュートの「渚にて」と並ぶ、破滅SFの名作として記憶されるんじゃないかと思った。

忘却探偵シリーズ

2016年01月30日 | 読書録

「掟上今日子の防備録」
「掟上今日子の推薦文」
「掟上今日子の挑戦状」
西尾維新著 講談社BOX 講談社刊

を読む。

 ドラマ化もされた、忘却探偵シリーズを、続けて三冊読んだ。ちなみに、忘却探偵というのは、主人公の掟上今日子が、眠ると全ての記憶がリセットされてしまうことから付けられたシリーズ名。正確には、今日子は数年前のある時点からそういう状態になってしまったようなので、それ以降の記憶が、ということになる。ただし、本人にもなぜ自分が忘却探偵として生きることになったのか、よくわからないようなので、この辺りの真相は、シリーズ最大の謎となっているようだ。一説には、「物語シリーズ」に出てくる羽川翼というキャラクターが掟上今日子の正体なのではないかと言われているようで、確かに三巻目まで読んだところでは、あまりにもあからさまな仄めかしが、あちらこちらに挿入されているので、そうなんじゃないかと思わされたが、実際のところはよくわからない。
 気軽に読めるシリーズで、西尾維新らしさはさほどでもないから、とっつきやすい。一番面白かったのは、二冊目の「掟上今日子の推薦文」。突然死した作家が残したたくさんの作品から、その死に事件性があるのかないのかを探る話は、良かった。こういうようなことを、実際にこっそりやっている作家がいそうな気がしないでもない、と思わされた。

妖怪と異星人

2016年01月12日 | 消え行くもの
 昨年末に水木しげるさんが他界され、先日にはデヴィッド・ボウイさんが他界された。あまりに突然の訃報。妖怪と異星人、どちらも元いた場所に帰ったということかもしれないけれども、やっぱりぽっかりと穴が開いてしまった感はある。自分と異なる存在に対する想像力を欠き始めたこの世界が、妖怪や異星人には住みにくくなってしまったのだろうか。そんなふうにも、ふと、思う。
 今の若い人たちにはよく分からないかもしれないけれども、このお二人、どちらも日本のサブカルチャーに与えた影響は計り知れない。水木さんがいなければ、妖怪というものはに対する関心はとうに風化してしまっていたかもしれないし、ボウイがいなければ、ビジュアル系という音楽ジャンルはもとより、これほど日本に腐女子文化が根付いたりしなかったかもしれない。もともと、草創期からコミケを牽引してきたのは、そうした腐女子たちだった。水木さんのマンガは、それほどたくさん読んできたわけではないし、ボウイに関しても、「トゥナイト」以降のアルバムをちゃんと一枚を通して聞いた覚えもないから、ぼくは良い読者でも、よいリスナーでもなかったわけだが、間接的な影響は、間違いなくふんだんに受けている。このお二人は、日本のサブカルチャーの、芯の部分にいる。
 訃報を受けて、つい先日リリースされたばかりの新作の「Blackstar」のビデオクリップをyoutubeで観てみた。まるでトム少佐の最期を思わせるかのような着地点。黒い太陽に照らされた、荒涼とした世界。彼の遺作としてふさわしい作品。最初からそのつもりで制作したのだろうか。遺作にして、この露悪趣味。ボウイは最期までボウイだった。
 ご冥福をお祈りします。

月長石

2016年01月08日 | 読書録

随分遅くなりましたが、

新年あけましておめでとうございます。
今年もよろしくお願いいたします。



「月長石」 ウィルキー・コリンズ著 中村能三訳
創元推理文庫 東京創元社刊

を読む。

 年末から年始にかけて、ずっと読んでいた。学生時代、文庫の棚の前で「うわ、分厚い」と驚き、それ以来なんとなく意識はしていた本だが、今ではこの程度の分厚さもさほど珍しいものでもなくなり、帰省のお供にと手軽に持っていったのだが、いや、何と長い。読んでも読んでも、読み終わらない。節約して往路は鈍行を使い、列車の中で読書タイムとしゃれこんだから、片道でほぼ読み終わるんじゃないかと踏んでいたのに、読めたのはやっと150ページほど。びっくりするくらい進まない。理由ははっきりしている。記述が古くて、かなりクドいにも関わらず、読み飛ばせないせいだ。ちょっと読み飛ばそうとすると、すぐに内容がわからなくなる。長編ミステリの嚆矢とされるが、現代のミステリ小説とはかなり性格が異なる。今のエンタメ小説と同じように読み進めるだろうと思ったのが間違いだった。
 とはいえ、遅々と読み進めながらも、最後まで辿りつけたのは、物語が面白かったから。まあ、最後の謎解きはちょっと……とも思ったが、物語の締めは良かった。この時代、「インドもの」と読んでもよさそうな作品がたくさん書かれているけれども、これはその中では最も成功したものの一つなのだろう。