漂着の浜辺から

囁きのような呟き。

レムリアの記憶・・・63

2010年08月28日 | レムリアの記憶
 僕には何が人々をこれほどまでに盲目にしてしまったのかが分かった。人々を救うためには、人事移動が有効な手段だったのだ。だがその人事移動は余りにも遅すぎた。おそらくは一世紀ほど。それでこんなことになってしまったのだ。
 だがそれは未来の人々に向けたこのメッセージの中で強調すべきことではない。時を超えて存在し続ける、テロニオンのプレートに刻み込むことではないのだ。我々の僅かな種から発する、再びこの惑星上に子供を持つ人々、彼らには発見できないようなことこそ、警告する必要があるのだ。加齢を引き起こすに足りるだけの放射能のような有害な力を排することのできる特別製の小部屋でも建てない限り、この太陽の下での生活には、平和も美も存在しないということがありうるのだから。
 《マザー・ムー》がこの太陽の下で回り続ける限り、長きに渡って太陽のエネルギー磁場は、その破壊的な力から崩壊物質をチャージする。そしてそのチャージしたものは人間形成する物質の中に溶け込み、成長するに従って、破壊的な意思が生命形態の一部となってしまうのだ。こうした破壊的な力に対して細心の注意を払わなければ、人種的に、社会的に、個人的に、あらゆる成長を妨げられ、絶え間ない戦争を引き起こす原因となるだろう。
 仮に、一人の健全な未来の人間が人々のためになる機械を作ったとしたとする。破壊的な人間はそれを手に入れて、破壊するということによって同じ利益を得ようとするだろう。崩壊エネルギーは同量の統合エネルギーによって中和されなければならない。さもないとその崩壊エネルギーは飢餓、病気、死といった、社会の問題として常に現れるだろう――たとえそれが戦争という形をとらなかったとしても。
 そんなものが人間の未来の運命である必要などあるはずがない!生命のその成長は、統合の源となる物質で満たされた小部屋の中では安全に保たれ、不滅と成り得る――だが、そのような小部屋の外では、あらゆる生命は破壊的なものとなるだろう。実際のどう猛という形でなくとも、愚かなる干渉や、有害な反対意見という形によって。
 僕、すなわちミュータン・ミオン、《ムー》の文化的な人間は、これらの真実をタブレットに書き記し、未来のいつの日にか彼らがそれを発見するであろう場所に安置して、未来の人々に伝えなければならないという使命に強くかられている。これらの真実に――僕が今現在目にしている大きな戦争のなりゆきを付け加えよう。戦いは、全ての未来の人々を救うことを望んだものだったが、できなかった。なぜなら、僕たちは森に逃げ込んだ彼らを見失い、探し出すことはできそうにないからだ――彼らは未来の人々の時代にまで生き残るに違いない! [*32]

原注)

 32) ソロンから受け取ったという、プラトンの手による記録から判断すると、ミュータン・ミオン氏が頻繁に言及しているこの金属プレートは(この写本は間違いなく、この惑星の表面と地中の多くの場所に埋まった状態である)、一万二千年ほど前の物であるように思われる。ヘラクレスの柱の門が破られて地中海が形成され、アトランティスが沈没するといったような大きな地殻変動が起こり、これらのプレートの隠された場所はおそらくは破壊されてしまい、発見することが困難になったのだろう。少なくとも、科学的な記録として、そのようなプレートが発掘されたという記録は残っていない。さらには、伝説や歴史の中に言及されてもおらず、存在の可能性は、山上のモーセによって与えられた(授かった?)十戒の石版よりも低そうだ。だが、十戒が刻み込まれた石版は、モーセが怒り狂って砕いてしまったというのは真実のように思われるため、それよりも可能性が低いというのはありえないだろう。どうやらミュータン・ミオン氏が非常な苦労をして書き終えたメッセージは、今のところまだ発見されたことがないようだ――(編者)
 
*********************

I could see what had made them so supremely blind now. It was the effects from which the migration had been intended to save them. Yes, that migration had been delayed too long by a few centuries, it appeared.
It was another thing for me to stress in my message to future man; to inscribe on my timeless plates of telonion. Those who will people this planet again with children from the seed of the few we will not be able to find and rescue must be warned that there can be no peace nor beauty in life under this sun, except that they build special chambers which exclude detrimental forces as well as the radioactives that cause age.
Just so long as Mother Mu spins under this sun, just so long will her energy fields induct disintegrant charges from her destructive force, and these charges will work out into neutralization of man-matter growth through destructive will in the units of the life pattern. Without extraordinary precautions these detrimental forces will result in continual war and complete stalling of all real racial, social and individual growth.
If one of future man's really healthy men creates a machine of value to his people, one of the destructive men will take the same machine and destroy that same gain with it. l3isintegrant energy must be neutralized by an equal amount of healthy integrant energy. If it is not, this disintegrant energy will work out in continual social troubles, famines, diseases and death--if it does not actually take the form of a war.
This need not be the fate of future man! The life which grows in integrative source material concentrating chambers can be safe, immortal life--but all life outside such chambers will be destructive, if not by actual fierce blows, then by stupid interference and destructive disapproval.
These are the truths I, Mutan Mion, culture-man of Mu, realizing even more forcibly now, must pass on to future man, written on tablets that will be deposited in likely places so that they may be found in some future time. These truths--in addition to a history of the great war I am now observing; a war which wishes to save all future men, but which cannot, because of those lost ones of the forest whom we will never be able to search out--must reach future man! [*32]

# Footnotes #

^97:32 Judging from the information recorded by Plato, as received from Solon, it would seem that these metal plates so often mentioned by Mutan Mion (which this manuscript definitely states were deposited in many places both inside and upon the surface of this planet) were deposited about 12,000 years ago. Since such vast upheavals of nature as the sinking of Atlantis, the smashing down of the gates of the Pillars of Hercules and thus forming the Mediterranean Sea, have occurred, it would seem that the hiding places of these plates more than likely have been destroyed and rendered impossible of discovery. At least, science has no record of any such plates having been unearthed; nor is there any such record in legend or history beyond the possibility of the plates of the Ten Commandments given (found?) by Moses upon the mount. However this seems unlikely, since they are described as being of stone, which seems true since they were smashed by Moses in his anger. Apparently the message over which Mutan Mion labored so mightily has never been found.--Ed.

"I Remember Lemuria"
Written by Richard S. Shaver
(リチャード・S・シェーバー)
Translated by shigeyuki


サイクロンの渦を抜けて・・・8

2010年08月26日 | W.H.ホジスンと異界としての海
 檣頭の方をちらりと見ると、そこには他の見張りが、ミズン・アッパー・トップスルを固定しているのが見えました。ちょうどその時、船長がデッキに現れて、航海士の方へと歩いてゆきました。



 「晴雨計はさらに十下がったよ、ジャクソン」船長はそう言うと、風上をちらりと見ました。「わたしは、フォアスルとメイン・アッパー・トップスルを畳んだほうがいいと思うんだが」
 船長の言葉が終わるか終わらないかのうちに、航海士はメインデッキにさっと飛び降りて、叫びました。「フォアとメインのトップスルの帆綱だ!ロウアーも外せ!おい、クリューラインとスピリングライン!」彼は熱心に船の帆を畳ませて回りました。
 アッパー・トップスルが巻き上げられている時に、私は風上の空の大部分からギラギラとした真っ赤な輝きが消え失せ、まとまったスコールが発生しながら、こちらに近づいて来ていることに気づきました。さらにそのずっと北では、先ほどの黒い雲の塁壁が姿を消していました。そして代わりにその場所にあるのは、一カ所に凝縮して塊になった雲で、その姿を驚くほど急速に変化させているようでした。
 海面もまた著しい変化を見せており、怪しげな動きをしながら、通りすぎるスコールが作り上げた、奇妙な小さな泡を撒き散らしていました。
 こうした一部始終に、航海士は注意を払っていました。そして船長に、フォアスル、ミズン・ロウアー・トップスルを畳むようにと要請しているのを耳にしました。しかし、この期に及んでも船長はそれを拒んでいるように思えました。それでもついにはミズン・トップスルを畳むことには同意しました。水夫たちが帆柱を上っていった時、風がスコールの尾の中で突然凪ぎ、船は大きく揺れて、うねりの度に飛沫と水を浴びました。
 今こそ、私はこの特殊で決定的な瞬間がどういう状況なのかをしっかりと理解し、導いてくれるリーダーが欲しいと思いました。風は完全に止んでいました。そしてそれとともに、千ものさまざまな音が耳の中に響き渡りましたが、その音の明瞭さはほとんど不自然だとすら感じるほどで、耳障りでした。船が傾く度に、マストと索具の揺れからくるギシギシと軋む音が響き渡り、帆は水を受けて、不快な音を立てました。船の彼方には常に海鳴りが響いていましたが、それが時折低い唸りのようなものに変化し、それはまるですぐ近くで誰かが断末魔の声をあげているかのようでした。もう一つ、これらの全てを一つのリズムで刻む音がありました。それは船に向かってぎこちなく打ち付けてくるかのような波のうねりでした。それ以外は、辺りには奇妙な静寂の感覚が漂っていました。
 そのときいきなり、重砲が鳴り響くかのような大きな轟音が、北東から聞こえてきました。そして一連のぞっとするようなゴロゴロという音の中に消えてゆきました。それは雷ではありません。近づきつつあるサイクロンの声だったのです。

サイクロンの渦を抜けて・・・7

2010年08月25日 | W.H.ホジスンと異界としての海
 「おれの言うことを心に刻んでおけ」とついに彼は重々しい口調で言いました。「十二時間以内にあいつはおれたちを飲み込むぞ!」
 彼は私に向かって首を振りました。それから付け加えました――
 「十二時間以内に、なあ坊やよ、お前もおれも、それからこの船に詰め込まれている他のみんなの魂も、冷たい場所に落ちてるかもしれんな!」そして荒々しく眼下の海を指さすと、私の方を見て悪戯っぽくニヤッと笑いました。
 我々の見張りの時間は夜の八時から十二時まででした。けれども、ひっきりなしに吹きすさむ激しい風を除けば、見張りの間には特に注意すべきことはありませんでした。風はまさに生きの良い疾風といった感じで、我々の誰もが望んでいたように、船はトップスルとフォアスルによって、極めて順調に進んでいました。
 午前零時に私は仮眠を取りに下に降りました。四時になって目覚めた時、私は事態が一変していることに気づきました。空は曇っており、海は訳の分からない状態で、盛り上がってきてはいましたが、風はほとんどありません。しかし最も私の目をひいたもの、そして前日の航海士の警告がもたらした不安感に引き戻したものは、その空の色でした。空は見渡す限り一面、むせかえるような陰気なオレンジの色彩に輝いていて、あちらこちらに赤い筋が入っていました。この輝きはとても強烈で、波が光を超自然的な方法で捕らえ、反射し、不器用に積み重ねたかのようで、その輝きと陰気なきらめきは、動く巨大な液体状の炎の山のようでした。目の前の光景のすべては、目を剥くような、異様な壮観さを持っていました。
 私は自分のカメラを手に、船尾桜へと上ってゆきました。そこで私は航海士と出会いました。
 「そのうちそんな小さな箱なんて、欲しいとは思わなくなる」と彼は言って、私のカメラをコツコツと叩きました。「棺桶の方が、ずっと役に立つって思うようになるぜ」
 「それじゃ、いよいよ?」私は言いました。
 「見なよ!」」と彼は答えて、北東を指さしました。
 私はさっと彼の指さした方向を見ました。そこには巨大な黒い雲の壁が、北から東まで、水平線を七度ほどに渡って覆い、天頂に向かって十五度ほどの高さに聳えていました。その巨大な黒い雲塊は気が遠くなるほど圧倒的でした。実際、それは厚い水蒸気の塊というよりは、海上に聳え立つ巨大な黒い崖の連なりのように見えました。

サイクロンの渦を抜けて・・・6

2010年08月21日 | W.H.ホジスンと異界としての海
 八点鐘時(午前四時)には風はとても強くなっていました。デッキが大きく傾いたままの場外で我々はその風に乗り、メイン・トゲルンマスト(大檣上檣)より高い位置の帆は畳んだ状態で、十二ノットの順調な速度で進みました。
 我々は安心して、下に仮眠を取りに向かいました。八時ちょうどに、私はまたデッキに出ましたが、海がいくらかうねりを大きくし始めたと思いました。しかしその反面、天候は私が甲板を離れる前からそれほどの変化はありませんでした。ただ、太陽は風上の激しいスコールに隠されていました。そしてそれはこちらへと向かってきていました。
 十五分ほどして、それが船を直撃しました。飛沫が飛び散り、メイントップスル(主中檣帆)のシート(訳注:帆のクリューにつけたロープのこと。帆の状態を調節する)が外れました。その直後に、クリュー(帆耳)の中の重い鉄のリングが、風で帆がはためくのに合わせて鋼のヤード(帆桁)に激しくぶつかり、ガンガンと大きな音を響かせ始めました。それでクリューライン(訳注:帆を引き上げるための動索)に人が送りこまれました。数人の水夫が檣上に向かい、破損の修復を終えると、帆がまた元のように広げられて、航海を続けました。
 その頃航海士は、もう一度晴雨計を見てくるようにと私を下のサロンに行かせました。晴雨計は十よりもずっと下がっていました。そのことを報告すると、彼はメイン・トゲルンマスト(大檣上檣)を畳ませました。しかしメインスル(主帆)はそのままで、全員がデッキに出て来て人手が増える八点鐘を待ちました。
 その頃には、船は水を被るようになっていて、水夫たちの大半は、あっという間にずぶ濡れになりました。それでも帆を畳んでしまうと、船は安定感を取り戻して進みました。
 午後一時を少し回った頃、私はデッキに出ていって、仮眠の交替前に天候に最後の「一瞥」をくれたのですが、風がかなり吹いていて、波頭が船に真正面からぶつかり、飛沫が驚くほどの高さに撒き散らされ、飛んでいました。
 四時になって、私がもう一度デッキに出て行ったとき、飛沫は我々の頭上を自在に飛び交っていて、水の塊が時々、どっと船の中に入り込んできていました。
 それでもこの程度のことは、「船乗りにしてみりゃあ」特に珍しくもない程度の悪天候でした。それは単なる普通の強い嵐といった程度にすぎず、六枚のトップスルとフォアスルの力で、船は一時間に十二ノットの速さで南に向かっていました。正直に言うとこの時には、我々はそれほど酷い天候に巻き込まれているわけでもないし、船長も自分の信念に忠実なだけだという気もしていたので、私は航海士にそう言ってみました。すると彼はちょっと苦々しげに笑ってみせました。
 「見誤らねぇ方がいいな!」と彼は言って、風下を指さしました。そこでは、絶えず稲妻が閃き、暗い雲の峰から降り注いでいました。「おれたちはすでにサイクロンの境界線の内側にいるんだ。この船は、前方の嵐の動きよりも、だいたい一時間に一ノットぐらい遅い速度で南に向かってる。つまりあれは一時間に一マイルほどの割合でおれたちよりも速く進んでいるわけだ。そのうちもっと速くなるぞ。そうなったら、もう魚雷艇でも追いつけねえだろう!今吹いてるこんなそよ風なんて……」と彼は肘で風上を指し示しました――「サイクロンという襟巻きの先っぽのヒョロヒョロの毛みたいなもんだ!ちゃんと北東に目を見開いて、耳を澄ましておけよ。狂った虎が百万匹まとめて吠えてるみてえな、やかましい音が聞こえてくるからな!」
 彼は一息ついて、パイプの灰をトン、と落としました。それから彼は空になった「武器」を、自分の長いオイルスキンのコートのポケットに滑り込ませました。そしてずっと、彼は考え込んでいました。

レムリアの記憶・・・62

2010年08月15日 | レムリアの記憶

 我々の光線によって意識不明になった何千人ものボロを着た汚らしいアバンダンデロが、広大なビルの周囲に横たわっていた。ぼくたちは彼らを速やかにテラウへと連れてゆき、彼らの兵力と武器が存在する場所について、完全な見取り図を手に入れようとした。そして情報を入手してしまうと、彼らは長くは生かされなかった!我々は彼らを人間とは考えられなかった。この破壊への衝動である崩壊の奴隷たちは、あらゆる物事を、エージング・サン(老化太陽)の下で進める。そしておそらく、我々の中にもまた、この恐怖の瞬間、サン・ポイズン(太陽毒)の効果が及んでいるのを感じた。
 アバンダンデロの子どもたちが、裸のままか、少しばかりのボロだけを纏うだけの姿で横たわっていたが、そのほとんどの子供の手には、齧ったり、あるいは手に持って遊んだりしたと思しき人骨が握られていた。ヴァヌーは子どもたちを全て集め、「実験的に小さな惑星に住ませて育てるため」彼らを船へと連れて行かせた。
 「その惑星はなるだけ遠くであってほしい!」というのが、僕の気持ちだった。
 我々はアバンダンデロの精神を探ることによって、古えの「追放者」の要塞は、《センター・ムー》の地下深くにあるということを知った。そう、腐敗は《マザー・ムー》の地下にまで及んでいたのだ。この腐敗という最も驚くべき事実は、《ムー》の生命を支えているエネルギーの流れのパターンに影響を及ぼしているだろうと僕はずっと思っていた。この精神を探るというやり方は効果的だった。彼らが苦境にあるということは知られていなかったし、アトランたちの口端にのぼることも稀だったからだ。これまで彼らは見境のない大虐殺を行い、アバンダンデロに食肉として売り払ってきた。彼らがどれほどの長きに渡ってうんざりとする現実に耐え忍び、死によって救われるようにと祈ってきたかは、神のみぞ知ることだった。長きに渡って……その苦しみが公にされるることもなく!
 テラウの記録は、今なお多くのデロたちがその生活の中で、アトランを苦しめ、拷問し、そして食料としていることを教えてくれた。ニュース機構は、ひとつにはその結果として起こる個人的な恐怖から、あるいはそのような疑いを抱くのに充分な狂気への畏怖から、人々の噂話を統制していた。きちんと新聞が届けられ、テレニュースが警報を伝えたりしない限りは良しとしている、一般市民の盲目的な信頼ほど堕落を覆い隠してくれるものはなかった。そして貴人たちは華やかに追従者たちを従えて、尊大に振舞ってきたのだ。

****************

Thousands of the ragged, filthy abandondero lay about the huge building, unconscious from our rays, and we put them rapidly under telaugs to get a complete picture of their strength and the location of their other forces. Once we had gained our information they did not live long! We could not think of them as human things, these slaves to the disintegrant impulse to destroy that courses through all matter under an aging sun; and perhaps we, too, in this moment of horror, felt within us the effects of the sun poisons.
The children of the abandondero lay about naked or with a few rags draped on them, usually with a human bone they had been gnawing upon or playing with clutched in their hands. Vanue had all of the children gathered up and sent back to the ship "to treat them and use them to people a small planet as an experiment."
"Let that planet be far away!" was my thought.
We had learned from our searching of the minds of the abandondero that the old Exile's stronghold lay far in, nearly at center Mu. Yes, the rot had progressed far in Mother Mu. Always in my mind the most amazing fact of this rot will be the extent of its influence on the pattern of Mu's life-supporting energy flows. This dictating pattern had been so effective that their plight was not known nor hardly whispered of by any of the Atlans. Yet they were slaughtered indiscriminately, sold as meat to the abandondero, and the gods know what else they had put up with for how many years with the sickening realization that to appeal to higher-ups for help would spell death. All these years... without managing to make their plight public knowledge!
The telaug records told us that many of the dero had been torturing and tormenting Atlans all their life, and eating them too. Yet the news systems had managed to all such tales, partly from individual fear of consequences, and partly from a dread of being considered mad for harboring such suspicions. There is no cloak for corruption like the average citizen's supreme faith that all is well as long as the paper is delivered, the telenews functions without saying anything alarming, and the dignitaries strut their pompous fronts regularly as upholders of righteousness.

"I Remember Lemuria"
Written by Richard S. Shaver
(リチャード・S・シェーバー)
Translated by shigeyuki



アリス・イン・ワンダーランド

2010年08月13日 | 映画


「アリス・イン・ワンダーランド」
ティム・バートン監督

を観る。

 3D映画の上映時に、観ようと思いつつ、観そびれた映画をDVDで観た。
 内容は・・・ちょっと残念でした。
 何度か書いたけれども、僕は十年ほど前のPCゲーム「アリス・イン・ナイトメア」が好きで、あの感覚を期待していただけに、余計に。
 このゲーム、バートン版の映画と関係があるのか、続編がリリースされるという情報が発表されました。公式サイトも出来たようです。なにせ、僕だけではなく、妻や娘もこのゲームが大好きで、いまだにしつこくやったりしているので(三人とも、何度クリアしたかわからないくらい。「あのステージをちょっとやろう」って感じで、気分転換に遊んでいます)、みんなで楽しみにしています。ただし、先行して発表されたトレイラーでは、前作よりもかなりグロテスクさが増しているようなので、多少気にはなりますが。。。

石廊崎灯台

2010年08月11日 | 雑記


 ヒリゾ海岸からの帰りに、石廊崎灯台に立ち寄った。
 四時近くになっていたが、日本の灯台50選にも選ばれている灯台なので、一応覗かないわけにはゆかない。昼を食べていなかったので、漁港ちかくの店でラーメンを食べた。店のおばさんの言うことには、灯台は年に二度ほど入れる時があるのだが、地元の人にも知らされないのだということ。多少、憤慨している気配。食べ終えると、岬へと向かった。
 石廊崎灯台へは歩いて二十分ほど。かつては併設されたジャングルパークがあったのだが、閉園していて、いい感じの廃墟になっている。
 灯台は、当然この日は入れなかった。思ったより小さな灯台。本当は、こんなに近くにまで行けないのだけれど、自発的に入れてもらった。
 

 
 灯台の向こうには石室神社という神社があって、縁結びの神様だとか。来る途中に神主さんとすれ違ったが、しかしすごい場所にある神社。崖にへばりついていて、投げ込み堂のようになっている。崩れたら、ひとたまりもない。神主さんは、毎日ここで過ごしているのだろうが、考えて見れば、ちょっとした命がけだ。

サイクロンの渦を抜けて・・・5

2010年08月10日 | W.H.ホジスンと異界としての海
 この最後のスナップを撮影し終えたとき、航海士は、巨大なサイクロンの嵐が北東の方角から我々の方に向かって来ているのは間違いないと断言しました。それから――二十刻の見張りの頃だったので――彼は晴雨計を確認するために下へと向かいました。
 彼は十分ほどで戻ってきて、晴雨計はまだ異常なしだったと言いました。それでも彼は船長を訪ねて、上へと伸びる《おっ立った(Stalk)》雷光について話しました。けれども船長は、晴雨計が異常なしだったというのを聞かされると、懸念を退けました。ただし、上に出て周りを確認することは約束しました。ほどなく船長は甲板に上ってきました。ですが、巡りあわせというものがあるように《おっ立った(Stalk)》雷光はもはやどこにもなく、その他の兆候ももはや、よくあるような、単なる北東の雲の背後の鈍い輝きにすぎないものになっていました。それで彼はまたしても、晴雨計か天候かのどちらかに何か変化があったら知らせるようにと言い残して、その場を離れました。
 夜明けとともに変化がやって来ました。不恰好な、ゆっくりと動くちぎれ雲が北東から流されてきましたが、それが新しく昇ってきた太陽の表面を漂うように横切ると、異様な色彩を帯びて、奇妙に輝きました。実際、そうした嵐の、光輪を帯びて見える太陽は、この詩の一行に適合していました――
 「そして赤い太陽は嵐という名の髭を持ち」
 それは荒れた様子について述べられたものです。
 晴雨計もまたついに変化を見せ、短い時間でやや上昇したかと思うと、十ほど落ちました。航海士はしばらく考えていましたが、急いで船長に知らせに行き、すぐにデッキに戻ってきました。
 船長はフォア・トゲルンマスト(前檣上檣)とミズン・トゲルンマスト(後檣上檣)を畳ませました。でもそれだけでした。船長は、どんな「老女」の夢想のためであろうと、順風を棒に振るつもりなどないとはっきりと宣言したからです。
 やがて、風が吹き始めました。それでも太陽の周りの朱色の光輪は変わりませんでした。水の色合いから見ても、それは私には、その辺りの「悪天候」を示しているように思えました。そう航海士に話すと、彼は同意して頷きました。けれども、船長がすぐ近くに立っていたので、多くは語りませんでした。

ヒリゾ浜

2010年08月08日 | 近景から遠景へ
 少し早い夏休みをとって、金曜から土曜にかけ、一泊で伊豆に出かけた。
 目的は、最近人気の、南伊豆の中木にある、ヒリゾ浜でのシュノーケリング。ヒリゾ浜は、陸路では行けない(らしい)ため、漁港から渡し船で渡してもらわなければならない。透明度の高さと、その秘境めいた雰囲気から、シュノーケリングを趣味にしている人々にとても人気が高いと聞いていた。 
 朝から車で雲見へ。そこで一泊して、翌朝中木の漁港に向かった。
 ところが、ちょっと宿をでるのが遅れたため、中木には朝の九時半過ぎに到着したのだが、すでに駐車場には入れないという状態。待っている車が列になっている。最近この浜はとても人気が高く、朝の九時にはもう駐車場はいっぱいになってしまうとか。浜も、とても狭いため、入浜制限も行われることがあるらしい。昼ごろになれば少し空くだろうから、顔を覚えておくんで、それまで近くの浜で遊んだ方がいいですよと交通整理のお兄さんに言われ、近くの入間海岸へ。ただ、ここはあまり良い場所ではなかった。
 昼前に改めて中木に向かった。今度は、少し待って、駐車場に入ることができた。



 船は、ほぼピストン輸送という状態。浜は、海から見ると確かにどこかの島のような雰囲気で、わくわくする。だが浜は、荷物を広げる場所にも困るほど、人でいっぱいだった。人に酔ってしまいそうだ。ともかく場所を確保して、水に入る。

 

 さすがに「伊豆随一の透明度」と唱うだけあって、魚の数も多いし、透明度も、これだけ人が入っているのを考えれば、驚くほどの高さ。来る人のマナーも、いいのだろう。潮の流れが速くなる所には、ブイがはってあって、漁船が見張りをしている。そういう意味で、子供でも充分に楽しめる。



 写真はイカだけど、たくさんいるイカの中で、この一匹はチカチカと発光していて、綺麗だった。コウイカなのかな?写真をたくさん撮ろうと思っていたのに、気がつくと普通に遊んでいて、あんまり撮っていなかった。僕はカメラマンには向かないようだ。

レムリアの記憶・・・61

2010年08月05日 | レムリアの記憶
 それから我々は、まるで湿地の明かりのような光でぼんやりと輝く巨大な円形都市に沿って進んだが、その古えのごみごみとした街の中のチラチラと揺れる光のなかに、動きがあった!一筋の光線が突然、数マイル離れた密集した街の中から我々に向かって放たれたのだ。それは身構える間もなく我々の縦隊を大きく切り裂いた。静寂を破る、レイ・ロールアットからの静かな解答だった。
 我々が古い街の巨大な中央ビルディングの中になだれ込むと、灰色の塵芥が窪地の都市の上空に雲のように舞い上がった。そしてその中に保存されているものが何かを知った時の恐怖は、永遠にくまなく太陽の光に晒されている惑星にいるかのようだった。これらの悪魔のようなアバンダンデロは下の階に精肉市場を持っており、人肉でいっぱいだったのだ。そして切り分けられた山盛りの肉の大部分は、アトランの少女の胸肉だった!デロの目的は食人であり、不死のアトランの肉体をから生命を奪うことであった!
 慈悲をかけてやろうという気持ちもここに尽きた!いったいどれほどの長きに渡って隠されてきたのだろう?我々の種族に対する、この究極の運命が明るみに出ないままで?これは愛国心であるとか、この国を安全に生活できる国にするとか、そういったテレスクリーン上のroの口から発せられる耳障りの良い言葉など超越したものだった。」
 なぜなら退化した太陽のせいで、我々の科学の進歩は、明らかに少数の狂人たちによってどうしようもないものにされてきたのだ――それらデロたちは何かを切望し、狂人はそれを与える見返りとして、少しばかりの新鮮な人肉を要求したのだ。僕は中央集権政府の致命的な弱点を見た気がした。パワーラインの首根っこを静かに掴むだけで、種族全体に死をもたらす結果となったのだ。法のテラウ・ロダイト・メソッドの中に潜む恐るべき力は、惑星上の富の大部分を、狂った犯罪者たちの手に移すことに役立っただけだった。
 そう、ハーフタンは正しかった!「うぬぼれほど不注意なものはない」という言葉がある。可愛いアトランの少女の胸が、まるで肉屋の陳列棚のように置かれているのを見たことで、怒りが沸き起こってきた。デがデロを作る限り、これは止むということがないだろう!

****************

Then, as we skirted a vast city bowl lit vaguely by a kind of marsh light that glimmers in these old warrens, action came! A dis ray raved out at us suddenly from a dark pile in the bowl several miles away. It cut great gashes in our columns before the swift, silent answer from the ray rollats had reduced the whole pile to silence.
Gray dust rose in a cloud over the bowl city as we swarmed into that huge old city-center building; and the horror that we found inside cured me forever of all sun lit planets. These devilish abandondero had a meat market in the lower floors, filled with human flesh; and a pile of choice cuts I saw was composed mainly of Atlan girl breasts! These dero things were cannibals and lived off immortal Atlan flesh!
So much for our illusion of benevolent government! How long had it been composed of hidden, grimming cannibals, the whole of our race unaware of its ultimate fate? I realized now that it takes more than patriotism and fine words over a telescreen from a ro face to make a state a safe place in which to live.
Because of a degenerating sun, all our apparent tremendous scientific advance had been set at naught by a few madmen... with these dero creatures eager to do anything the madmen said in return for a little fresh human meat. I saw now the fatal weakness in centralized government. One silent grab at that neck of power lines had resulted in death for the whole cream of the race. The awful power in telaug rodite methods of rule had only served to place the total wealth of the planet in mad criminal hands.
Yes, Halftan is right! There is "no thing so careless as a swelled head." To see sweet Atlan girl breasts displayed as a butcher's merchandise set a fury to raging within me that will not cease so long as de makes dero!

"I Remember Lemuria"
Written by Richard S. Shaver
(リチャード・S・シェーバー)
Translated by shigeyuki



レムリアの記憶・・・60

2010年08月04日 | レムリアの記憶

 ほどなくして、味方のコミュニケーション・ビーム(情報伝達光線)が一斉に、敵のケーブルが全部切られていると知らせてきた。それで、これまでの全てのデロのコミュニケーション・ビームは、装備やroの配置について、偽りの情報を送っていたのだと結論できた。それゆえ、この深みまで我々の侵攻はめざましいまでの成功を成し遂げることが出来たのである。次は実際の配置についての情報が来るだろう。そして裏切り者のデロのエルダーの本拠地を殲滅するのだ。我々が前進するにつれて、背後で貨車になったロールアットが長く連なってゆっくりと移動しながら、ワー・レイ(戦争光線)を生み出していたが、その威力は僕にはわからなかった。だがその複雑な構造から、ここにあるのは失われた恐怖そのものでありうるという推測はできた。それほど時間を置かずに行動に移るのを見ることになると予想していたが、《ティーン・シティ》と全ての《ムー》のアトランたちの背後で何年にも渡って虐げられた老女のような恐怖を生み出していた相手に対する戦慄が失われていった。
 その時だった。僕は心底驚いた――巨大なキャリオールがやって来たのだ。その中と外には人が乗っており、ヴァヌーのクレストを支える戦闘メイドに混じって、アールが……愛らしく微笑む、勇ましいアールの割れた蹄と挑発的に揺れる尾があったのだ!
 彼女は、まるで自分がピクニックの最中だと言わんばかりに、僕に向かって陽気に歯をちらりと見せて微笑んだ!
 危険の中で、一人の男の生命力を奮い立たせるものといえば、他にいったい何があるというのだろうか?その微笑みが僕に作用するにつれ、完全な宇宙が僕の頭の中で回転した。僕は保育器の中で感じたよりもさらに強烈な一体感を二人の間に感じた。彗星が僕の頭の中を流れ、僕の中に闘争心がみなぎった。僕自身と他の人々の幸せを守るための戦い、それはアールと僕の幸せを守る戦いでもあった。

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It was not many hours before our communications beams told us that the enemy cables had been cut; and so far as could be determined all dero communication beams had been tapped with false answer equipment and ro placed in attendance. So far our march into the depths had been accompanied by signal success. Next would come the actual locating of and the attempt to reduce the cavern stronghold of the renegade dero Elder. Rolling behind us as we advanced came an endless line of burden rollats, bearing war rays whose potency was incomprehensible to me. But I could guess from their complex construction that here were things that could loose terror itself. Before many hours I expected to see them go into action, loosing terror upon the author of the fear that had ridden hag-like upon the back of Tean City and all Mu's Atlans for many years.
It was then that I got a shock--for a big carry-all came riding by and in it, among the warrior maids bearing the crest of Vanue, was Arl... lovely, smiling, brave Arl of the cloven hoofs and defiantly flirting tail!
She flashed her teeth at me gaily as though she were on a picnic!
What is there about danger that accentuates the man-life in a man? As that smile played on me, the whole cosmos whirled in my head. I felt even more powerfully than I had in the duo-incubator the sensations of one-ness that existed between us. Comets buzzed in my head and I felt the urge for battle surge up in me; battle to preserve for myself and all others happiness such as was Arl's and mine.

"I Remember Lemuria"
Written by Richard S. Shaver
(リチャード・S・シェーバー)
Translated by shigeyuki



反転

2010年08月01日 | 汀の画帳 (散文的文体演習)
 午後の街が陽炎で歪む。太陽の容赦ない光線の下で、街は漂白され、色彩を失っている。
 陽炎の中の、不安定な、真っ白な街を歩く。街角を折れて細い路地に入り込み、少し広い通りに出て、また細い路地に入ってゆく。それを何度も繰り返すうちに、次第に方向を見失ってゆく。道路は舗装されていない。白い埃のような砂土が、僅かな風で舞い上がる。歩いていると、顔のよく分からない誰かが戸口からゆっくりと現れて、柄杓でさっと表に水を撒く。おそらくは老人だと思うが、帽子を被っている訳でもないのに、顔も性別も年齢も判然としない。白い土の道路に、幾何学模様のような、水の跡が現れる。顔のよく分からないその人影は、そのまま後ずさるようにして姿を消す。僕は歩みの速度を変えない。だがその水で描かれた文様を踏んで進みながら、砂が舞い上がらなくなったような気が少ししている。そしてさらに先へと進む。太陽が灼けつくよう。髪の焼ける匂いがする。建物はどれも砂を固めて作ったかのようだと思う。全てが白く見える。
 少し広い道路に入り、しばらく歩いていると、古い商店が目に飛び込んでくる。かなりの長い年月、使われずに放置されている店舗のようだ。ガラスはすっかりと汚れて曇っている。看板の文字は風雨にさらされて、まったく読解に耐えない。だが、全体の印象はどこか上品でモダンだ。例えば、入り口の大きな引き戸は複雑な格子模様の桟で細かく区分けされているが、その桟には、幾何学的な複雑な彫り物が施されている。ガラスは二三箇所割れてはいるが、年季の入った波ガラスで、光線を複雑に歪めている。部分的には、薄い色のついたガラスも入っていて、ステンドグラスのような趣きもある。廃屋であるのは明らかだが、綺麗に保存されており、誰かに荒らされた形跡がないのはどういうことだろう。それでも奇妙な気配がする。私は日陰を求めるように、その家の庇の下に向かう。そして小さな青いガラスの割れ目から中を覗き込んだ。
 真っ白な色彩に眩んだ目には、なかなか中の様子が見えては来ない。だが印画紙のように、次第に屋内の静かな光景が浮かび上がってくる。
 外からの印象よりも店内は広く、奥行きもある。古い洋服屋なのだろうか。片隅には、数台のミシンに混じって、マネキンがいくつも並んでいる。洋服を着ているマネキンはひとつもなく、大半は腕や脚が欠けている。木製の平台の上には、すっかりと埃を被ったビニール袋に包まれた衣服が並んでいる。ほとんどは洋服だが、下着の袋もある。衣類は、古ぼけた、随分と流行に後れたものばかりのようだ。店内には柱時計がある。針はちょうど正午を指し示している。振り子は動かない。時間は停止したままだ。床には輪ゴムが散乱している。どれもすっかりと変色し、半ば溶けて、床と同化している。だがそのさらに奥には、古い家具のようなものがいくつかあって、それは単なる店の備品のようには見えない。数が多いためで、複雑な奥行きを持ち、まるで骨董を陳列した倉庫のようだ。さらには、その家具の棚の中には、マネキンではない、古い人形がいくつも並んでいる。店の主人の趣味だったのだろうか。西洋の人形もあるし、日本の人形もある。だが、どれもすっかりと元の色を失い、くすみ果てて、埃を被っている。私はふと、古い飾り棚の引き違い戸が少し開いていて、そこに一つ、妙に色の白い西洋人形が覗いているのに気が付く。幼児の人形のようで、おそらくは女の子の人形だとは思うが、よくわからない。大きな目をしていて、それがこちらをじっと見ている。先程からずっと感じていた気配は、この人形の視線だったのかと思う。私はさらにじっと、まるで自分が一つの目になったかのように、その人形に視線を注ぐ。

反転。

 気配は常にある。様々な気配。時折は、こちらを覗いている小さな生き物の気配を感じる。虫や鼠といった小さな生物。けれども、わたしにはいつでも恐ろしいものだ。わたしは小さくて、わたしにはどんな生き物でも充分に大きいから。わたしはじっと気配を殺す。やりすごせるときもあるし、ちょっと囓られるときもある。わたしは声もあげない。じっと飾り棚の壁にもたれて、黙っている。わたしの右の方には、闇がある。引き違い戸の奥の闇。実際には、ほんの浅い闇のはずだ。だけどわたしには、深くて、何かが潜んでいる気配がする。でもわからない。見えないし、そちらに首を回せるわけでもない。ただ、常に気配を感じている。その気配からはのがれることができないし、慣れることもない。
 部屋の中は埃の匂いがする。晴れの日は晴れの乾いた、雨の日には雨の湿った、埃の匂いがする。部屋の中には虫がたくさん死んでいる。ずっと昔の暑い真っ白な日に、一匹の蝉が飛び込んできて、ずいぶんとうるさい思いをしたことがある。その蝉もそのうち死んでしまった。確かその辺の床にしばらく転がっていたはずだが、いつのまにかなくなってしまった。時計は随分と前に止まってしまった。だから、規則的に刻む音は何もない。それでも、いつでも何かの音がする。日中には表を行き交う人々や車の騒がしい音がする。それは日常的な音で、繰り替えされる音。わかりやすい音だ。だけど夜には、人も車も通らないような静かなときでも、何かブーンという震えるような音が聞こえている気がする。あれはいったい何の音だろう。わたしにはわからない。
 気配は常にある。今も、さっきから、ずっと舐めるような視線を感じている。わたしはそれに気づいている。青いガラスの向こうに張り付いた、中空に浮かぶ瞳。