「桐島、部活やめるってよ」 浅井リョウ著 集英社刊
を読む。
映画を先に見ていたので、だいたいのストーリーの流れはわかっているつもりだったが、映画と小説とでは、やはりやや違う。勿論、大筋では違わないのだが、印象としては、映画の方がもしかしたら優れているのではないかという部分がいくつかあったように思った。
最も映画の方がいいと思ったのは、映画少年である前田涼介の描き方。さすがに映画監督だけあって、映画版ではその造形にこだわりが細かい。何より、「僕らにとって、恋愛映画なんてゾンビ映画以上に非現実的」であるとして、あくまでもゾンビ映画を撮ろうとしたところが秀逸で、ここの部分は、原作の上をいっているように感じた。それに、原作の中でもやや浮いているように感じる実果のエピソードを、思い切りよくごっそり削ったのもよかったと思う。
逆に小説のほうがよかったと思うのは、それぞれの登場人物について、もう少しその心情にふみいって書かれているところで、結果として映画よりも随分とわかりやすいものになっている。映画で菊池がながした涙の意味もはっきりと描かれているし、桐島についても、映画では、その実像にほとんど触れられることがなかったが、小説ではもう少し突っ込んで描かれていて、部活をやめようと思った理由も示唆されている。ただし、映画版が好きなひとにとっては、それはむしろ蛇足のように思えるかもしれない。
僕の素直な感想は、小説や漫画を納得のゆく形で映画化するのはかなり難しいと思うのに、それを見事にクリアしてみせたこの映画のシナリオの完成度の高さに、本を読んで改めて感心した、というものだった。もちろん小説は小説でおもしろかったし、小説より映画のほうがよかった、とまでは言わないけれども。